偽と正 偽る男達と女の真心
肥化治療の反対団体会長の外田玄一。
彼からの依頼を受けた青年、ライディ・マウナス、
奴は毎晩、玄一の同士である筈の肥化治療反対者を殺害していった。
玄一の娘の哲は、その惨劇を見せつけられていた。
「違う! ・・・いや違わないけど、その書き方は・・・」
「何を言ってるんですか」
先ほどの紹介を一部訂正すると哲は自分の意思で
ライディに付いていた。
「それでお嬢様、私にお願いとは何でしょうか」
「今夜は私にもやらせて下さい!!」
「・・・人殺しがしたいんですか」
「私はお父さんの役に立ちたい」
「それに肥化治療を憎んでいても行動出来ない人達だっています
その人たちの命を活かすことでもあるんです」
「 人殺しが『命を活かすこと』になる訳無い!」
ライディが飄々とした態度を崩し、声をあげた。
が、すぐに元の調子に戻った。
「・・・失礼しました どの道素人にやれる事じゃありませんよ」
「いや、今日は哲に行わせる」
「 お父さん!」 喜ぶ哲。
「・・・玄一様」
「ライディ殿の報酬はちゃんと今夜の分も払う」
「・・・なら構いません」口ではこう言ってるライディだが、明らかに不服そうだ。
「私も都合がつけば、行く」
「 まるで授業参観ですね」
「それでは頼むぞ 哲、ライディ殿」
ライディの皮肉も玄一には通じなかった。
「はい!」 「・・・了解」
夜更け、哲はライディと共にターゲットである、とある一軒家の近くに来ていた。
ライディが液体の入ったポリタンクと、懐から出したライターを差し出す。
「行ってらっしゃいませ、火が付いたらすぐに逃げてくださいよ」
「・・・!」 哲は何も言わず、ライターとポリタンクをふんだくる。
開けられていた窓から台所らしき部屋に侵入した哲は、
すぐさまポリタンクの中身を撒き散らした。
「役に立てないまま生きるくらいなら・・・」
「お父さんのために死んで下さい」
ライターを点ける、ことは出来なかった。
「ガスが切れてる!?」
よく見るとポリタンクから撒いたものも、ただの水だった。
「あいつ・・・そんなに報酬が欲しかったの!?」
突然電気が点けられた。
哲の前に少し見覚えのある人が、
先日抗議に行った病院にいた女性が立っていた。
「お久しぶり、リーファ・フェフです」
「 あの時お父さんに同意しなかったということは肥化治療の賛成者ですよね」
「だったら何も言いません この場から去ってください!」
「いや、肥化治療には反対するよ 今だけは」
「だから教えて欲しい」
「どうして肥化治療に反対してるのか、その理由を」
「・・・・」 哲は何も言わずにあの写真を手渡した。
「 この女の人は、お母さん?」
「そうです」
「じゃあ、こっちの女の子は・・・あなた?」
「醜いでしょ」
写真に映っている哲は小学4、5年生頃だろう、
とにかく丸々としていて、その体重はリーファと並びかねない。
ただ、風船の様な綺麗な丸さで、不思議とだらし無い印象は無い。
「そんなこと無いよ」
「丸っこくて、子供らしくて可愛いよ」
リーファはこの言葉に皮肉を込めてない、
本心からそう思っている。
「 そう言う人なんて誰もいなかった」
「生徒も!先生も!皆がみんな責め立てる!!」
「凄く辛かった! あんな目に合うなら・・死んだ方が良い!!!」
「でも、今生きているのは両親が助けてくれたから、だよね」
「・・・お母さんはその頃病気で入院していた」
「・・・仕方無いことだけど何も出来なかった」
「私を救ってくれたのはお父さんだ!」
「だからお父さんのために私は、私の命を使う!」
「 イジメを仕組んだのは、そのお父さん、外田玄一だよ!」
リーファのこの一言に、哲は全く動じなかった。
「ふふふ、あはははは」それ所か、乾いた笑いをあげる。
「余りに出鱈目すぎて笑えちゃいましたよ」
そう全く信じてないのだ。
「・・・私も信じられなかった、これを見せてもらわなかったら・・・」
リーファが携帯を取り出し、動画を再生する。
ライディと玄一がソファに座って会話していた、その内容は
『 お嬢様、小学生の頃は大変でしたね』
『私も色々と手を焼いたよ、
『まず担任教師に賄賂を送ったが、どういうことか断固として断っててね、
ただ生徒を誘導するだけだというのに』
『そこで不本意だが、家族に圧力をかけると言わざるを得なかった』
『ははは、私への報酬といい、流石に太っ腹ですね』
口ではこう言ってるライディだが、目が笑ってない。
持った煙草が、細い肩が震えていて、
画面越しのその怒りが伝わってくる。
『ライディ殿、貴方も同士として今後もよろしくお願いします』
しかし間近にいる玄一にはその怒りを届いてなかった。
『 ええ、報酬のためにこれからも人を殺していきますよ』
ライディが満面の作り笑いと皮肉で返したところで動画は終わった。
「・・・・・」哲は棒立ちになって考え込んでいた。
ライディの動画だけなら捏造だと言い切れた。
だけど、目の前のリーファの言うことを嘘と言うことはどうしても出来なかった。
彼女の目には嘘が混じってない・・・、透けて見えるのは本心だ。
父の、玄一の目は・・・今思うと何も透けてない・・・濁っている?
「どう思う、哲ちゃん」 不意に透き通った声が耳に聞こえた。
哲が振り返ると、そこにライディがいた。
その雰囲気はこれまで見てきた、飄々とした、嘘くさいものでなく、
先の動画に映ってた、真剣味を宿したものだった。
「どうしてこんな動画を・・・」
「僕は最初からこうするつもりだった」
「毎晩の襲撃は・・・」
「あれは役者さんを雇ったお芝居、本当の犠牲者を出さないようにするためのね」
「それとね、「ライディ殿!」
ライディの言葉を遮ったのは、はっきりとした、
それでいて何処か聞き取りづらい声。 玄一が来たのだ。
「玄一!」ライディがその名を呼ぶが、
やはりというべきか、玄一は反応せず哲の方へ呼びかけた。
「哲、私を信じられないのだろう」
「・・・・・うん」 だから本当のことを教えて、と哲が本当の気持ちを口に出そうとしたところで、玄一が拳銃を構えた。 その銃口の先にいるのはリーファだ。
「私の正しさを証明する」 玄一は、躊躇うことなく引き金を引いた。
「ど、どうして・・・」
立ち尽くしているリーファ、その前に哲が立っていた。
「 リーファさんは・・・あの頃の私を可愛いと言ってくれた・・・」
「それに・・・今は肥化治療に反対している者どうし・・・」
「・・・仲間だから」
哲は目を閉じ、ゆっくりと崩れ落ちた。
その様と意識を失ったか細い体は美しくすらあり、
銃弾が貫いっていったとはとても思えない。
事実、哲に銃弾は当たってなかった。
「 撃たれたと思い込んで気絶した・・・ 」
「『私』よりもよっぽど演技が上手だなぁ」
ライディはこの言葉に皮肉を込めてない、
本心からそう思っているのだ。
そしてその手には、何処から取り出したのか、
金色を基調とした美しい造りの長剣が握られていて、
その刃はリーファと哲の前にあった、
そう、銃弾はライディが防いでいた。
「何故だ 何故防いだ!? 何故死なせようとしない!!」
玄一は銃をライディに向ける、
この怒鳴り声と充血した目にははっきりとした感情が、殺意が透けていた。
ライディは全く動かない、その剣の刃をリーファが飛び越えた。
「守りたいから、死なせたくないからに決まってるでしょ!!」
リーファが返答しながら、玄一の顔面に飛び蹴りを打ち込んだ。
玄一は、撃つことも反論することも出来ずに倒れ込んだ。
鼻血を流し、泡を吹きながら、白目を向いて気絶している、
無様な様で気絶している玄一をライディが肩に担いた。
「拳銃の所持と発砲、家宅捜査の理由には十分すぎるほどだ」
そうライディが玄一に雇われた振りをしていたは、
玄一を失脚、逮捕できる口実を得るためでもあった。
それだけだったら、先のイジめについての動画でも良かったのだが。
「 あれを証拠にしたら、脅された先生達も共犯になってしまうから・・・」
「そう思って泳がせたけど・・・間違いだったかなぁ 哲ちゃんを危険に晒してしまった・・・」
「気にしない! ライディのお陰で犠牲者を出さずに済んだんだよ」
「ありがとう、リーファちゃん これで事件は、僕の仕事は終わった」
「 後は私の 」
「『朱の女』のお仕事かな?」