830氏による強制肥満化SS
金曜午後
「効果あったみたいですね。大分表情が明るくなりました。」
会うなり阿藤はそう言った。
「やっぱりコンプレックスがあったんだなって、今になって分かりました。」
前回の身体測定の結果は、身長が150cm、体重が48kg。
高校生の頃からもうずっと変わっていない数値。太れない体質なのだ。
それが、この3日で体重は2kg増えて50kgになっていた。
増えた分は全部胸に付いたんじゃないかと思うくらいだったが、実際はそんな事はないのだろう。
それでも十分嬉しかった。
「どうです? ご都合が良ければ、このまま週末入院肥育を試してみませんか?」
クリニックに泊まり込んでの3日間の施術。
阿藤の処方の効果を実感し、その週末の予定も特になかった私に、提案を断る理由は無かった。
案内された部屋はクリニックのかなり奥にあった。
厳重な大きな扉を何回か通ってついたその部屋は、白塗りの壁にガラスがはめ込んである穴が空いているだけで、あとは冷蔵庫とベッド、テレビしかない簡素な部屋だった。
シャワーは無く、小さなトイレが併設されている。
天井にはマス目のようにレールが走り、照明の隣にはエアコンにしては大きい何かの装置があった。
阿藤の説明によれば、この部屋は代謝を下げるように環境を整えたものらしい。
太るのには絶好の部屋ってことだ。
つまり入院肥育というのは気密性の高いこの部屋に閉じ込められるという事だった。
「薬の量は同じ、栄養ドリンクも同じです。ただし3日間の食事は栄養ドリンクだけで採ってください。」
阿藤は冷蔵庫を開けて、中を見せた。例のペットボトルが並んでいる。
総合栄養食品なので、問題はないと言われても流石にちょっと不安になる。
とはいえ検査も兼ねたこの入院によって、今後の施術に必要な、私の体の代謝とカロリーの関係が計測できると聞かされて、渋々従う事にした。
部屋に入る直前、目標体重を申請するよう指示があった。
何となく52kgくらいが理想かなと思ってそう書いた。
空気音をたてて閉まる重厚な扉。
わたしの本格的な肥育はここから始まったのだった。
「ゴクッ ゴクッ ゴクッ ふうー。」
美味しい・・・
また一本、ペットボトルを飲み干す。
痩せていたせいで小食だと思われているが、元々食べるのは好きな方。
しかも私は一旦ハマると同じものを毎日食べる癖がある。
先週まではアボカドだったし、先月はモツだった。
今週はそれがこの栄養ドリンクに変わった。
「あ、薬飲まないと。」
薬を飲むのにまた一本、キャップを開ける。
乳製品は嫌いじゃないし、寝付きもよくなるし。
そんな理由を考えついて、薬のためにあけたボトルを飲み干してから寝た。
この飲み物に対する執着が嗜好の範疇でなく、異常なものになりはじめている事を、このときの私は気がついていなかった。
私は下着姿の上に渡されたガウンを着ている。
ガウンと言っても、桃色の薄い生地に阿藤クリニックと刺繍のある寝間着みたいなものだ。
それにしても、なんて快適な部屋なんだろう。汗一つかかないし、寒くもない。
ゴクッ ゴクッ
することが無いのでとにかくドリンクが進む。
阿藤に言われた通り、飲み終わったボトルはすぐにゴミ箱に入れる。
私が飲んだ本数はそうすることでカウントされるのだ。
それだけじゃない。室内での歩行や体重移動、トイレまで記録しているらしい。
姿勢を変えると、おなかの中で液体が動く音がする。流石にちょっと苦しい。
昨日から全部で何本飲んだんだろう・・・
日曜日
ちびちびと飲んだり、口の中で転がしたり、一気飲みしたり。
私は一日中この飲み物を楽しんでいた。口中に広がる快感という言葉がぴったりだ。
おなかは常に液体で一杯の状態だったが、それでも飲みたかった。
夜になって、阿藤がガラスの向こうに現れた。
「お疲れさまです。佐野さん、もう目標クリアしてますよ。」
驚いた事に目標を超えた体重になっているらしい。
栄養ドリンクだけなのに増えるなんて、不思議。
「このままお泊まりになって、明日はこのままの服で出社されては如何ですか?」
そういって、クリーニングしたらしい、ビニールに入った私のスーツを見せてきた。
「週末も挟んでますし・・・ 余計なお世話だったらすみません。」
私は阿藤の好意に甘える事にした。
出社すると、そのまま課長のアポをとり、休職願いを渡した。
「今は別に忙しくないし、会社は大丈夫だよ。それより君は大丈夫なのかね。」
「はい・・・ 急にこんな事になってすみません。詳しくは診断書を見て頂けますか?」
「しっかり養生したらいい。」
佐野君、急にふっくらしたよね?
背中で課長が誰かと話している。
この週末で体重は54kgになっていた。正直体が重く感じる。
急に太った私には自分の肉を支える筋肉がないのだろう。
その日は午前中で退社させてもらえた。
帰り道、会社の入り口で、この間わたしを振った男とすれ違う。
完全に私を見る目が変わっている。
「佐野サン・・・?」
私は無視したまま通り過ぎる。
見返してやった、そんな気持ちが無い訳ではないが、もうどうでも良くなっていた。
私はこの後に始まる一週間の入院肥育のことばかり考えていたのだ。
月曜 早朝
計測を終えた私は阿藤の診察を受けていた。
「3日間お疲れさまでした。十分効果がでましたね。」
「はい。鏡で見たら、体の線が柔らかくなってて・・・ とっても満足してます。」
胸はもちろん、全身女性らしい線になったのが心から嬉しい。
生まれて初めての事なので、全身を触って何度も感触を確かめてしまう。
肥育自体はここら辺で良いかな、と思いつつ、気になるのはあの飲み物の事だった。
「ところで、あのペットボトルって、どこかで買えますか? 自宅にちょっと欲しいんです。」
「在宅で続けたいということでしょうか? もう少し続けたいと仰るんであれば、集中的に入院されるのをおすすめしますが・・・」
肥育じゃなくて栄養ドリンクだけ欲しいっていう意味なんだけど・・・ まあいいか。
阿藤によればこの3日間のデータからすると、わたしはあまり自制が効かないタイプらしく、薬とペットボトルだけ貰うのはダメだそうだ。
「一週間・・・」
「はい。7日間ご用意頂ければ、お望みの体つきになれると思います。美しく太るためには、週末入院とは違って少し不都合や苦痛を感じるとおもいますが・・・。でも、あなたが『もう十分です!』そう言うまで、コンピューター制御で確りと管理、お手伝いします。」
入院となると、会社の事が心配になる。簡単にはできないか。
そう思っていると、阿藤が提案した。
「診断書書きましょうか?」
3日分の汚れを流すためにシャワーを浴びる。あの部屋の環境のせいか、それほど臭わない。
体を流しながら自分の体に触れる。
すごく良い・・・ガリガリより絶対いいよね、そう思える余裕ができている。
心を決めたわたしは、そそくさと出社の準備をする。入院を上司に報告するための出社。
先週末ぴったりだったブラウスも今は二の腕がキツい。ボタンもわずかに左右に引っ張られている。
スカートを穿いて歩きだすと、太もも同士が触れるのを感じた。
会社を後にした私は、自宅に寄る事も無く、直接クリニックに戻る。
他の患者とは違う、あの搬入口から入り、いつもの診察室で阿藤を待つ。
それにしても喉が渇く・・・
肥育科としては、わたしが先週末を過ごした部屋がメインで、この診察室はただの前室みたい物なのだろう。
この部屋には阿藤が座る机の他、目立つものは冷蔵庫くらいしか無い。
あれ、この冷蔵庫って、確か・・・
初めての診察で阿藤がペットボトルをここから取り出したのを私は思い出す。
後で言うし、一本くらい貰ってもいいよね。
冷蔵庫をしばらく見つめていた私は、つい開けてしまう。
残念ながらあの飲み物は無かった。
がっかりして冷蔵庫を閉める。
丁度閉めるか閉めないかといったタイミングで阿藤が部屋に入ってくる音がした。
扉前のつい立てに助けられて、慌てて席へ戻る私。たぶん、見られてない。
取り繕うように、阿藤が昼休み中であることに感謝すると、阿藤はいつもの顔で気にしないで下さい、と言った。