830氏による強制肥満化SS
「起きてください』
ずっと聞いていなかった阿藤の声で目覚める・・・
なぜか心の底から嬉しい・・・
ふと思い出す、小さい頃飼っていた犬。
今のわたしは主人の声を聞いて歓喜する動物に似ていた。
起きると同時にお尻をあげる。
いつものように排泄に備えていると、トイレは後にしますから、まずはいろいろテストしましょうと言われた。
異常な作法が身に染みついている事を恥じる暇もなく、阿藤が診察を始めた。
診察は舌をだして口の中のチェックからはじまり、全身をくまなく触診されてしまう。
これだけ管理されていても、阿藤が私の体に触れる事は滅多にない上、各部の肉を絞り出したりも揉み込むように触られるので、平然としていられる訳が無い。
マスクの中では自分の吐息が厭という程響く・・・
耳が赤くなるような恥ずかしさで震えていると、阿藤が尻たぶを叩きながらいった。
「大分・・・ 臭いますね」
「す・・ すいません」
謝りながら思った。
でも恥ずかしいのに嬉しいんだ・・・ わたし
「ちょっと歩いてみましょうか」
わたしは小さくはい、と応えて、歩き出す。
重たい・・・
んっ んっ はぁ はぁ
やっと四つん這い歩きができる程度の鈍重な生き物。
ちょっと歩いたところで、もういいですよと阿藤が言った。
それでもわたしは息を切らしてしまう。
「はぁ、はぁ、あの・・・、そろそろ飲みたいです・・・・・」
いつもならミルクが貰えるはずの時間。
わたしは恥ずかしげも無くミルクをねだる。
おそるおそる言ったのは、喋っていいのかな、と感じたから。
「口寂しいでしょうから、どうぞ」
願いはあっけなく受け入れられた。
鼻の先に阿藤の手があてがわれる。
その上にはなにか小さくて丸い物があった。
ミルクの匂いがするそれを直ぐに唇と舌で拾い上げる。
阿藤の手から直接ものを食べる事に全く抵抗はなかった。
口から全身に陶酔感が広がる。
「おいしいですか?」
いつものミルクを固形化したものなのは直ぐにわかった。
口の中ですぐに溶けてペースト状になる・・・・・ 美味しい・・・
じゅるじゅると音を立てて舐めるわたしを他所に、ハーネスが徐々に引き上げられていく。
体重が軽くなる久々の感覚。
しばらくすると、わたしは完全につり上げられていた。
上半身が起き上がり脚を拡げたような格好で、下がる肉の重みを感じていた。
「これだけ立派に育って頂いてわたしも嬉しいです。」
阿藤がわたしの体を撫でてくれる。
わたしはよだれを垂らしながら恍惚としていた。
「お休みの間に体をきれいにしたりしておきますからね。」
体を擦られているうち、言葉通り、わたしは眠りに落ちていった。
目覚めた時、わたしはハーネスに支えられ立ったまま眠っていた。
体はもう臭っていない。
洗ってもらったのだろうか。
そのプロセスを想像して赤面するとともに、嬉しい気持ちになった。
「お目覚めですね。」
最初に告げられたのはハーネスやマスクが新しい物に変わったという事だった。
いつも同じくらいのフィット感なので、変わった感じがしない。
漠然と、交換する時くらいはマスクを取ってもらえるのだと思っていたが、それが叶えられなかったことはもう気にならなかった。
装具の話を終え、その後に阿藤が言った事は驚くべき内容だった。
阿藤の言っていた仕上げ、それは私の体の事と食餌、睡眠、排泄の躾けの事に留まらなかった。
入院に必要な手続きとはわたしの社会的な準備、つまり会社や生活の事まで含んでいたのだった。
阿藤の声以外、暫く聞いていないわたしの耳に、耳慣れない音が届く。
サーというノイズ音。
「じゅっ、けん、の伝言を、お預かりしています」
「あー、佐野君、大丈夫か? 長期休職願い受け取ったよ。会社の事は心配しなくていいから。落ち着いたらお見舞い行くから連絡くれよ。」
「佐野さん、この間はごめん。すっごく可愛くなってたから、びっくりしたよ。もしよかったらまた連絡くれないかな。自分勝手なのは分かってるけど・・・」
「便ですけど、お荷物あります。不在票入れておくんで、ご連絡おねがいします。」
「ユカー? メール見てる? 来週とか久しぶりに飲まない??」
「ピーッ・・・」「ピーッ・・・」
続けて阿藤が言う。
「まず、会社とご自宅関係の処理は済ませておきました。会社は休職扱いで、ご自宅も一旦、引き払いました。もったいないですからね。お荷物は全部私の方で預かってますので、退院する時にお返しします。あ、メールも大した内容のものはありません。留守番電話と似たり寄ったりな内容です。」
「え・・・・・・」
心では絶句していたのだが、声の中に嬌声がすこし混じり、かぁっと体温があがる感じがした。
家畜に相応しい生活、今家に帰っても普通の生活が出来るはずが無いという事を、体はよく分かっていたのだ。
「ありがとうございます・・・・」
追って口をついてでたのは感謝の言葉。
社会性を失う事よりも飼われる喜びを優先する。
姿や振る舞いが家畜らしければ、思考まで十分に家畜らしくなっていた。
そんなわたしにとって、真に衝撃的なのはここからだった。
「ところで、佐野さん、もうここにはミルクが無くなってしまうんですよ。」
わたしの頭の中は真っ白になってしまった。
ミルクが飲めなくなる、わたしが存在する意味を吹き飛ばしかねないその言葉。
寝起きでトイレをしたいと訴えかけた器官もキュッと締まる。
ミルクが無くなるって・・・ どうしたらいいの・・・
ただただうろたえるわたし。
阿藤は黙って小さなミルクの欠片をわたしの口元にあてがって言う。
「ここよりももっとちゃんと肥育できる施設があるんです。そこにはミルクが沢山ありますから」
浅はかなわたしは目先にある口内の小さな幸福を味わう。
「心配しなくても大丈夫です。そこへ移りましょうね。」
意思は確認するまでも無い。
良かった・・・ ちゃんとミルクをくれるんだ・・・
わたしは夢中で阿藤の掌をべろべろと舐めていた。