裏道氏による強制肥満化SS
(少女の寝室)
「はぁ……」
ボスッと柔らかいベッドへと身を投げる。
その後、何とか『下準備』は出来たが、ベリアは酷く衰弱してしまった。
居れば不愉快ながら、居なければいないで不安にかられてしまう。何せ、今の私の姿は仮初めの姿。本来は外に出るのも億劫になるほど醜い体なのである。
「これからどうしよう……」
ベリアが復活しない限り、今は撒いた『種』が咲くのを待つのが関の山である。
「考えても仕方ないか……」そうして少女は休日を迎えに目を瞑った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(土曜日、近郊の駅)
少し寂れた駅の近く。一人の男がぶつぶつと独り言を言っている。
しかし幸いなことに周りに人はおらず、その姿を見るものはいなかった。
「とりあえず来たのは良いが、何か感じるか?こう、仲間の気配みたいなものとか」
「よくわからないがそう言うもんじゃないのか」
「…………」
「弱々しい?……そうか。…………。あぁ、だが居ると分かっているだけ良いんじゃないのか?」
「そうだな」
一通り呟くと再び男は歩き出した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(街の広場)
「ひっ!?な、何よこれぇぇえ!!見ないで!見ないでぇぇえ!!!!」
二人組のカップルがいちゃついていたので、彼氏が目を離した瞬間に一気に体重を倍増させてやった。
胸はブラごと服を裂き、腹はズタズタの服を剥くように下からむっくりと姿を現し、尻はスカートのラインをなぞるように引き裂いた。
案の定彼氏は悲鳴を上げて逃げ出し、べそをかいた女も服に締め上げられるようにならながらもヨタヨタとその場から逃げ出していた。
そこからわずか十数メートル。男がベンチに座りながら呪詛を呟く。
「……リア充なんて死ねばいいのにな。……………。いや。それとこれとは話が別なんだよ……」
「何回繰り返したら動き出すかな……」
次に野太い女性の悲鳴が上がったのは僅かに20分ほどたってからだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
日曜日
(少女のリビング)
「………つまり、私達の所に他の『悪魔使い』が現れたのね?」
前日、私は特にすることもなく家に居た。
そのため街で起きた異変をベリアに言われるまで気づかなかったのだ。
『そウ……なる……。純粋に話し合いに……来たのかもしレナい……けど……相手の狙イハ……女を太らせル事……』
「と、なると私もターゲットに成りかねないわね。接触するなら気をつけないと……。ベリアの力はまだ戻りそうにないの?」
実は私はベリアの姿を見たことはない。初めて会ったときから黒い霧に包まれていたためである。
しかし、今は力が減っているのか薄ぼんやりと影が見える。最初の頃は完全な闇だったのに……。
そう思うとつい大丈夫なのか心配にもなってしまった。
しかし、その返答はいささか残酷な選択肢だった。
『………オマエに分けてある霧を返しテクれれば早く治る』
闇色の霧を返す。それは私を包む偽りを正す行為だ。
本来ならば全く問題ない話だが、明日は学校なのだ。あまり気が進まない。
しかし、ベリア本体に異常が起きているというのならば話は別。
「……っ、解った。直ぐに復活しなさいよ!」
そう、すぐに戻るはずなんだから……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
霧が薄れていくにつれて、逆再生していくように身体に肉が付いていく。
「う……くっ」
他人に肉を付けるようにムチムチとした肉ではなく、でろん。と多少なりとも垂れた肉共。
一度痩せてしまうと、他人が眉を顰める理由というのも改めて解ると言うものだ。
どこか感慨深さを伴いつつ身体を元に戻していくうちに、ある深刻なミスに気づく。
「やばっ……服がっ……!」
今まで太らせる場合霧の中で行っていた為意識するのを忘れていたが、サイズが合わない服は千切れる。千切れる前は服の持ち主を締め付けるのだ。
「ぃぎっ!!痛たたたた!!!」
二の腕、胸元、尻、太腿が次々と悲鳴を上げる。
ビチビチと肉は繊維を引き裂き、引き裂かれた細い繊維は肉をハムのように締め付ける。
何より不幸なことに、全身を包んでいたワンピースは市販品としてはとても丈夫だった。
ヒィヒィと泣きそうになりながら必死に脱ごうとしていたが、バランスを崩し倒れてしまう。
ギリギリと締め付ける細くなった繊維に包まれた私は、もはや巨大なボンレスハムにしか見えないだろう。
ベリアはそれを見てケタケタと笑っている。…まさかコレが目的ではないと思うけれど……。
結局、三十分ほど苦戦し続けていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「結局現れなかったな……」
「でも動きはあったみたいだし……」
「え?来月魔界に帰る!?」
「いや、そういう事情なら仕方ないしな……」
「代わりに監視の使い魔……って最初から使えよ!」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
月曜日。学生たちの一週間の始まりである。
しかし、少女は家に居た。
「………」
本来は学校で計画が成功しているかみようと思っていたのだが、昨晩の一件によって体中に怪我をし、登校する気力が失せたためである。
鏡餅のように床に寝そべり、痛々しい痕が付いた足をいたわりながらベリアの回復を待つ。
『…………』
「まだ?」『マダだ』
「『……………』」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(学校)−神宮寺ver−
神宮寺は朝からチクチクした視線を感じていた。
原因は『最近』めっきりプロポーション維持が出来ていない為であろう。
顔はむっちりと丸みを帯び、首は徐々に消えてきた気がする。
腹はボタンを圧迫し、スカートは悲鳴を上げる。
脇に至っては肉同士の押し合いによって立体感がでてきて、ニーソックスはギリギリと足に食い込んで痛む。
……だが、視線を送る方も受ける方も同じ疑念を持っていた。
何故?何時から?
けれどもはっきりとした事は判らないままに、「ソレ」はただの「事実」として受け入れられていた。
−−けれど、醜さという事実は悪意を呼び、形として現れてきた。
事が起きたのは二時限目と三時限目の節目、お手洗いに行っている僅かな時間だった。
「………っ」
机の中に小さなメモ。その内容を見た瞬間その場から逃げ出してしまった。
『子豚二号ちゃん』
そう書かれていたメモ用紙は風に吹かれ……「消えた」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
−綾瀬ver−
「……?」
私は朝から何か違和感を感じていた。
しかし、どうもなにがおかしいのか掴めない。
それに、常に少し息苦しさを感じる。肩などの関節もいつもより堅く感じる……。
いや、一番の違和感は全身を包む視線だ。
好奇、不安、疑念、憐憫。種類は様々だが、何かしらネガティブな物を感じさせる視線。
それと同時に、皆は一歩壁を作るように接してくる。
しかし、違和感は違和感のまま時間は過ぎ去り、放課後になってしまった。
そこで私は帰る直前の親友の側へ行き、違和感の正体を聞きにいくことにした。
教室にはちょうど他に誰もいない。
「ねぇ、何か一日中視線を感じたんだけど、何か知らない?」
質問は単刀直入に。しかし、返ってきた答えは苦笑混じりのもので。
「もー、綾瀬ぇ。そーんな身体だったら視線を感じるのは当然でしょお?で、何があったのよ?失恋?」
……え?
「え、いや、別に失恋なんかしてないけど……」
「うっそだぁー!このやけ食いの後は、嘘を付かないよん?」
ぐにぃ。 と
全く覚えのない言葉と感触は、私の頭を真っ白に消し飛ばした。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※
同時刻
『……オ』
「! やっと終わったの?」
体を押し上げるようにして−セイウチとがやるように−ベリアのほうを見ると、幾分か困った様子で頭を抱えていた。
『終わっタが……力が……』
……え?
全身に走る悪寒。力が無ければ私の想いは叶わない。いや、叶わない……と言うのは傲慢だ。
ただ、遙か彼方へ去っていくだけ。私の復讐も希望も、全てがおじゃんだ。
しかし、ベリアの懸念はその逆を言っていた。
『力が多スギる……このままダと……』
−−ピンポーン−−
ドアから、チャイムを鳴らす音が聞こえてきた。
「…………来た、の?」
『敵ジャないとイいな』
ここが、別れ道か……
私は再び霧の化粧を自らにかけ、私は席を立ち、インターホンに添え付きのカメラを覗いた。
そこに映っていたのは―――