710氏による強制肥満化SS
「おーい!遠坂!いるんだろ!?」
士郎は何度呼びかけても一向に空く気配のない扉に向かって、今までよりも強めにノックする。
温泉への道よろしく、士郎とセイバーはやっとこさっとこ凛の家へとたどり着いた。
セイバーの方はすでに息が上がっている。
その道中もまた大変なもので、聖杯を争いどことなく駆け巡った冬木の町がことごとく彼女の歩みの邪魔をし、まるで故郷に、ひいてはかつて治めていた王国ブリテンに見捨てられてしまったような、何とも言えない喪失感を彼女の心に与えていた。
「い、いらっしゃーい・・・遅かったわねぇ;」
到着から数分後、やっとのことで小さく開いた玄関の隙間から、凛の顔だけがにゅうっと出てきた。
実は今朝電話を切った後、慌ててすぐに解毒剤の作成を講じていたのだが、ろくに研究もしなかったあのような偶然の産物に、大してマシな対処方法がみつかるわけもなかった。
早々に諦めた凛は居留守による迎撃態勢を整えることにし、士郎とセイバーの襲来に備えていた。
しかし、正午を回っても二人がやってこないものだから、今日は来ないものと思って油断していた。
その日は休日だったので、今日のところは衛宮家には行かないことにし、自宅で過ごそうと決め込みくつろいでいたのである。
そして、ふと窓の外を歩いている、段々自宅へと近づいてくる人影が目に映り、そちらの方へと視線を傾けた。
すると、今の今まで襲来を恐れていた張本人たちと、ばっちり目が合ってしまったのである。
目が合ったときには、すでに二人とも自宅に大分近いところにいたので、むこうからも姿が丸見えだったに違いない。
予期せぬ来訪者の発見から数十秒もしないうちに、家の中にチャイムやノックの音が響き始めた。
ついには名指しの叫び声も聞こえてきたため、しぶしぶ扉を開けざるを得なくなったわけである。
「遅いのはそっちだろ?なんですぐに開けないんだ。それより・・・見てみろよ!どうしてくれるんだよこれ!」
「え・・・?なに、だ・・・れ・・・セイバー!!?」
「・・・///」
凛はしばらく事態が呑み込めない様子だったが、理解したとたん、目をこれでもかと大きく見開き、驚きの声を上げた。
何が起きたかは聞いていた。
しかし、どの程度かは予想の範囲内でしか考えられなかったようで、セイバーのこの状態はあきらかに凛の想像の規格外だったようだ。
その反応に一番困っているのが当のセイバー本人である。
すでに一番大切な人や町の人々に見られているとはいえ、当然というべきか物珍しそうに好奇に満ちた目で見られることにはまだ慣れていなかった。
それも元の自分をよく見知っている者であれば、その恥ずかしさと言ったら言葉にもならないほどであった。
彼女は、自分をこんな姿にした張本人の一角が目の前にいるにもかかわらず、特に返す言葉も見つけられなかった。
その無邪気ともいえる好奇の視線を浴びている間、セイバーは両手を前で合わせ、体の前方を隠すような体制のまま、ただうつむいていた。
もっとも、起伏の激しい3つの山のせいでほとんど隠しきれてはいなかった。
なおも呆気にとられていた凛だったが、不意に我に返ると苦笑いを浮かべたまま二人を自宅へと招き入れた。
「ま、まぁ、とりあえず上がりなさいよ。疲れたでしょ?あっそうだ!何か飲み物持ってくるね!勝手に座ってていいから!(やばいやばいやばいやばいやばい!ただでさえ解毒剤も作れそうにないのに、これは本当にまずいわ!どうやったって誤魔化しきれない・・・)」
そういうと凛は飲み物を取りにキッチンの方へと向かっていった。
その顔は明らかに青ざめており、知人をこんな風にしてしまった罪悪感と、これから追求されるであろうきっつい責任のことで頭がいっぱいになり、半ばパニックを起こしかけていた。
そんな凛の様子を見て、士郎とセイバーは早くも望み薄であることを悟った。
「士郎、こうなったら凛にも協力してもらい、我々で独自に何か痩せる手立てを考えるしかないのでは?」
「そうだな。ともかく、遠坂の意見を聞いてみよう。」
このような計画を練っているうちに、覚悟を決めた面持をして凛が戻ってきた。
「ごめんなさい!!あの後必死でいろいろ考えたけど、何もいい策が思いつかなかったの!だからお願い、許してください!この通り!」
突然、頭を深々と勢いよく振り下ろしたかと思うと、まるで早口言葉の如く、怒涛の勢いで次々と謝罪の言葉が彼女の口から述べられていった。
二人はあまりの唐突さと勢いに一瞬圧倒されたが、少し間をおいてセイバーが口を開いた。
「大丈夫ですよ凛、私は怒ってなどいません。それより皆でこの問題をどうするかを一緒に考えましょう。」
「セイバーもこういってることだし、そろそろ頭を上げろよ。な?」
「セ、セイバー・・・(;;`)」
半分涙目の表情で顔を上げた凛の目に映ったセイバーの姿は、今の彼女にとってはすべての不浄を取り払ってくれる聖女のように映っていた。
ただし、大分体格のいい柔らかそうな聖女だったということは言うまでもない。
それからしばらくして、凛もセイバーの体を触るなどで吟味した結果、士郎と同じような結論に至った。
この贅肉は、どうにも物理的な運動でしか取り除かれることのない、ごくごく当たり前の脂肪ではないかということだ。
「では、やはり我々の推測は正しかったのですね。」
「そうだけど、でも何の慰めにもならないよなぁ。」
士郎はそういうとセイバーの首から下、ボールのように真ん丸と肥え太った体に目を落とした。
確かに、この体ではまともな運動は出来そうもない。
セイバーはその視線に気づくと、急いで体を士郎に背を向けるようにずらし、少しきつめの目で士郎の方をじっと見つめた。
そして士郎はすかさず彼女に誤った。
「なんにせよ、何かしら運動をさせなきゃいけないわけよね・・・そうだ!ダイエット器具を使った運動をしてみたらいいんじゃない?」
「そんなものどこにあるんだよ?」
「ふっふっふ、それがあるのよ。こっちよ!ついて来て。」
凛は二人をある部屋へと案内した。
そこにはダンベルなどの運動道具や大型の器具が置かれていた。
「へぇ、すごいな。遠坂が家の地下をこんな運動部屋にしてただなんて。なんかスポーツジムみたいだな。」
「べっ、別に、ダイエットのためとかじゃないわよ!?あくまで研究のためよ!研究の!」
何の研究かはよくわからないが、自分で答えを言ってしまっていることには敢えて口を出さなかった。
セイバーも二人に遅れて部屋へとやってきた。
「よし、これで少し望みが出てきたな。セイバー!ここでなら思う存分運動ができるぞ!自分ひとりの力でどうにもならないなら、器具の力を借りればいいんだよ。」
「私も付き合うわよ。こうなったのはもともと私たちが原因だしね。」
「士郎・・・凛・・・。わかりました!二人の行為を無下にはできません。一日も早く元の体を取り戻しましょう!(ん?確かここは・・・)」
セイバーは前にもこの部屋に入ったことがあるのだが、それをすっかり忘れていた。
そしてそのことがこの後の大惨事を招くのである。
セイバーが部屋の中に入ると、それまでかろうじて彼女を支えていた魔力が消え去ってしまった。
この部屋では魔法が使えないようにしてあったのだが、聖杯戦争も終わり、用がなくなったため、凛がずいぶん前から物置場をかねた運動場にしていたのだ。
急に支えを失ったセイバーは、目の前にいた士郎と凛に覆いかぶさるように勢いよく倒れ、倒れると同時にドッシーン!という大きな振動が部屋の隅々までいきわたった。
「・・・う〜ん、はっ!士郎、凛!大丈夫ですか!?」
「全然大丈夫じゃないわy・・・あだだだだ!!動かないで!動かないで!」
「いででででで!セ、セイバー・・・!どいてくれぇ、重いぃ・・・」
二人は仰向けになったセイバーの下敷きになり、三人を合わせると「井」の字のような形をしていた。
士郎と凛は二人ともうつ伏せの格好になり、頭はそれぞれ逆の方向を向いていた。
その二人の背骨を折らんとするたたずまいで、セイバーがど真ん中にデン!と寝転がっていた。
「今どきますね!ふんっ!ふんぬぬぬ・・・っ!!!!」
今にも背骨が折れそうな勢いの二人を救わんと、顔が真っ赤になるまで力を込めて起き上がろうとした。
しかしそれも虚しく、日ごろから少しばかり物足りなく感じていた、今となっては枷でしかない大きく育ちすぎた両の胸と、白くてもちもちとパンのように柔らかいくせに断固として凹もうとしない、自己主張の強すぎる大きく出っ張った風船腹が邪魔をして、起き上がることは出来そうもない。
そして力めば力むほど、下にいる二人に重みがのしかかる。
起き上がろうと力を込めるたびに呼び鈴のベルのように、下の二人がリズムをいやがおうにも合わせる。
「ひいーっ!いやぁーっ!いっそごろじっ!でぇー・・・いっ!」
「セイッ!バーッ!早くーーーッ!」
何とも悲痛な叫び声が聞こえてきたため、いったん救出作業(処刑)を中止し、別の方法を三人で模索することにした
「縦がだめなら横に動けばいいじゃない。」
「しかし・・・それではどちらかの頭部の上を通過しなくてはいけないのでは?それは出来かねます!頭が潰れてしまいます!」
「こういう時、ハァーッハァーッ…正義の味方ならどうするんだっけ、ゼェーゼェー…?衛宮君?」
今にも死にそうなとぎれとぎれの声が士郎に投げかけられた。
「コヒューッ、コヒューッ・・・くっ、背に腹は代えられない・・・。セイバー!おれの屍を超えて行け!」
「ですが士郎!」
「いいから早く!俺たちが気絶しないうちに!」
「わかりました、行きますよ士郎!!」
セイバーが思いきり身をよじると大きな3つの小山が士郎の方を向き、それに呼応するかのようにほかの贅肉も揺れ動き、士郎の方へゴロゴロと転がっていった。
ベキベキベキッ!
「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
士郎も凛もすごい悲鳴を上げたが、被害が大きかったのはもっぱら士郎の方で、全身を満面なくロードローラーで轢きつぶされたかのように感じていた。
そして問題の部位、後頭部へさしかかったとき、迫りくる球体の中に彼の頭が収まりそうな場所を目測した。すると、運がいいやら悪いやら、彼の頭はちょうど3つの小山の間あたりに収まりそうだった。
そのことに気付いた士郎は顔を淡い赤色に染めながら、セイバーに停止するよう呼びかけた。
しかし、勢いのついてしまったセイバーに聞こえることはなく、また聞こえていたとしても止まることはできなかった。
彼の頭は彼女の大きすぎる胸の谷間と腹の間にすっぽりとはまった。
そして彼の上から完全にどいた後も頭が挟まったままだったため、2回、3回と再び彼の体を球体が轢くこととなった
この惨事にセイバーが気付いたのは、そのすぐ後だった。
解放されはしたけれどもヘロヘロに弱りきった凛の助けを借り、ぐるぐるに目を回したセイバーは何とか座ったままの状態で起き上がり、二人で士郎の頭を引き抜いた。
凛はもう自分が何をしているかわからないほど、ぐでんぐでんになっていた。
セイバーの方も最初は何が起こったのかわからないといった感じだったが、次第に士郎がどういう状況だったか理解し始めると、羞恥の念で、焼け焦げるほどに顔を紅潮させた。
士郎の方はというと、体こそボロ雑巾のようになっているが、まんざらでもない様子で目を閉じたまま薄ら笑いを浮かべている。
何か楽しい夢でも見てるかのようだ。
「士郎!士郎!大丈夫ですか!?返事をしてください!」
「う、う〜ん・・・山が、パンで・・・ふわふわぁ・・・ゴフッ!ガクッ」
「士郎――――――!!」
今回もセイバーのダイエット作戦は失敗したようである。
その後、士郎が目覚めるまで遠坂邸で看病をし、正気を取り戻すと三人そろって衛宮邸へと帰宅した。
#型月,TYPE-MOON,Fate