666氏その1
第2話
翌日は土曜日で学校は休みだった。
朝食を食べ終わると、すぐに僕は自分の部屋に戻り、例のプログラムを起動させた。
「さて、と…」
いよいよ復讐の始まりだ。
名前欄に「河野美咲」と入力し、美咲のデータを表示させる。
身長:159.2cm
体重:49.6kg
B:トップ84.8cm、アンダー66.7cm
W:57.4cm
H:84.1cm
「どうしようかな…いきなり激太りさせるというのもいいけど、 徐々にスタイルを崩していって美咲が焦るのを見るのも悪くないよなあ」
しばらく悩んだが、結局徐々に変化させていくことにした。
となれば後はどのように変化させていくかだ。
「美咲は胸に自信を持っているからな。最初は胸を減らしていくのをメインにして、その後にじっくり太らせてやるか」
スレンダーなのに巨乳だというのが自慢だった美咲が、デブなくせに胸は無いという全く逆の身体になってしまうのだ。
「ははっ、大いに楽しませてもらうよ、美咲」
大まかな方針が決まったところで、具体的なプランを練ることにする。
昨日いろいろと調べてみたところ、何か特定の条件をトリガーにして身体を変化させる、ということも可能のようだった。
例えば、"くしゃみを1回するごとにウエストのサイズが1p縮む"というような方法も可能なのだ。
「最初は簡単な条件にした方がいいかな」
僕はちょっと考えてから、"午前0時になるとトップバストのサイズが1p縮む"と入力した。
最初のうちはこれくらいにして、徐々に条件を追加していくことにしよう。
翌週の金曜日。
僕が教室に入ると、美咲はすでに自分の席にいた。
「おはよう、美咲」
「あ、…おはよう平助」
美咲が顔を上げる。なんとなく表情が暗い。
それはそうだろう。
この1週間でバストが6pも減ってしまった。
自慢の巨乳が台無しである。
さすがに本人も変化に気付いてきたようで、胸をそびやかすように歩いていたのが今では胸を隠すかのように少し前かがみになって歩いている感じがする。
「なんかさ、美咲って最近やせ気味じゃない?」
「そ、そんなことないって。気のせいだよ。やだなー、もう」
美咲が少し引きつった顔で笑う。
以前ならやせていると言われればむしろ喜んでいたというのに、これは思ったよりも精神的に効いているようだ。
「ところでさ、明日プールに行かないか?」
「プール? あー、明日はちょっと…」
「修一も誘おうかと思ってるんだけど」
「え?」
「用事があるんなら別にいいけど」
「あ、そういうわけじゃないの。うーん、どうしよう…」
修一に近づくいい機会ではあるが、自慢の巨乳が目減りしているということで、美咲は悩んでいるようだった。
「な、行こうよ。」
「…うん、そうだね。せっかく誘ってくれたんだし」
本音は「せっかく修一君が来るんだし」だろうが。
最初は渋っていたのに、まったく調子のいい女だ。
「それじゃ、細かいことは後で決めようか」
先生が入ってきたので、僕は話を切り上げた。
学校から帰ると、僕はさっそくプログラムを起動させた。
お試し期間は今日で終わりだが、既に昨日のうちに購入手続きは済ませてある。
今日からは正式に製品版が使用できるのだ。
そしてその製品版には、嗜好変化プログラムという新しい機能がついていた。
その名の通り、これはターゲットの人間の嗜好を変化させてしまうものだ。
もっとも人格を変えたりするほどの力はない。
食べ物の好き嫌いや服装の趣味を変える程度のもので、デートを楽しく演出するのに役立つかな、といったところである。
「でも、これもまた別の使い道があるんだよね」
僕は美咲の好きな食べ物をいろいろと変更していった。
「カツ丼、ハンバーガー、牛丼、から揚げ、酢豚、エビフライ、ラーメン… うーん、もっと何かないかなあ」
思いつく限り、できるだけ高カロリーな食べ物を入力していってやる。
"以上の食品を、1日最低5品は食べないと気がすまない"
「うんうん、いい感じだ」
僕はほくそえみながら、どんどん変更点を入力していく。
"甘いお菓子やスナック菓子を見ると満腹になるまで食べずにはいられない"
"小腹がすいてくるとマヨネーズを飲みたくなる"
「ふふ、これでほっといても勝手にぶくぶく太っていくだろうな」
あとは明日のプールに向けて、何か条件を追加しておくとしよう。
そして土曜日。いよいよプールだ。
僕と修一はプールサイドで美咲が来るのを待っていた。
「なあ平助、せっかくのデートなのにいいのか? 俺、邪魔なら帰ってもいいぞ?」
「いや、未だに2人だけだとなんか気恥ずかしくってさ。 修一がいてくれた方がいいんだよ」
本当のところは美咲を釣る餌になってほしいだけなんだけど。
「そんなもんかね。まあ、どうせ暇だしいいんだけどさ… あ、美咲ちゃん来たぞ」
そう言って修一が手を振る。それを見て美咲がこっちにやってくる。
「二人ともお待たせ〜」
そういってニコッと笑う美咲の胸は、大きく膨らんでいる。
…おかしい。
今朝確認したが、今の美咲のバストサイズ(トップ)は77.8pで、こんなに豊かな膨らみは出ないはずなのだ。
そういえば、以前プールに来た時は谷間を強調するようなビキニを着ていたのに、今日は谷間の隠れるワンピースを着ている。
(何か小細工したな。多分、パッドが入ってるんだろう)
よほど修一に本来の自慢のスタイルを見せ付けたかったのだろう。
(まあいいさ、すぐに大恥かくことになるんだから)
僕はそう思い直し、さっそく3人でプールに入ることにした。
プールに来て2時間ほど経った。
休憩なしで遊んでいたので、結構疲れた。
そろそろ上がろうかという僕の提案に二人も賛成し、プールサイドに上がろうとする。
その時、美咲が何かに気付いたように慌ててプールに戻った。
「どうしたの?」
「う、うん…もうちょっと泳ごうかなー、なんて」
どうやら自分の体の変化に気付いたらしい。
それで慌てて水中に戻ったのだろう。
昨日、僕がプールに備えて新たに追加した条件。
それは、こういうものだった。
"水着を着ている間、10分ごとに1kg太る"
ここに来てから約2時間経ったということは、12kgほど太った計算になる。
よく見ると、水着の紐が肩の辺りに食い込み始めている。
それより下は水中にあるためによく分からないが、おそらく似たようなものなのだろう。
「修一君悪いけどさ、ちょっと飲み物買ってきてくれない? 私もすぐに上がるから」
そう言って修一を遠ざけようとする美咲。
修一がいない間に上がるつもりなのだろう。
「ああ、いいよ。平助もなんかいるか?」
「いや、僕はいいよ」
それじゃ買ってくる、と言って修一は売店の方に歩き出した。
修一が見えない位置に行ったのを確認してから美咲はプールサイドに上がり、急いで更衣室の方に走り出す。
「あれ、どこ行くの、美咲」
わかっていながら、僕はわざと呼び止めてやる。
「体が冷えちゃったから先に上がって着替えてるわ。修一君にもそう言っといて」
美咲はいらだたしげに返答し、そのまま更衣室に行ってしまった。
しかしその間に、僕は美咲の体の変化を確認することが出来た。
まず、きゅっとくびれていた腰には脂肪がつき、ゆるやかな曲線が描かれていた。
太ももはむちむちと張り出し、ハイレグの部分は水着が食い込んでかなりきつそうだった。
二の腕も少しふっくらとして、たぷんとしたわきの下にはやはり水着が食い込んでいた。
ここに来た時は少し余裕があるくらいだった水着はぴちぴちになっており、あれでは脱ぐのも一苦労ではないかと思えるほどだった。
「もうとてもスレンダーとは言えない身体になっちゃったな」
その後すぐに修一が帰ってきたが、やたらににやついている僕を見て少し不気味に思っているようだった。