666氏その1

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第3話

 

 

着替えを済ませた僕と修一は、プールの入り口のところで美咲を待っていた。
「美咲ちゃん遅いな。俺らより早く上がったんだろ?」
「さあ…女の子はいろいろあるんじゃないの」
適当な答えを返すが、美咲がぐずぐずしている理由はおおよそ見当がつく。
おそらく、急激に太ってしまったものでなかなか服が着られないか、贅肉のついてしまった自分の体に茫然としているといったところだろう。
四苦八苦しながら必死にスカートのファスナーを上げたり、自分のお腹の肉をつまみながらため息をついたりしている美咲の様子を想像し、僕は思わず顔がゆるんだ。
その時、ようやく美咲が出てきた。
「お待たせ。さ、帰ろっか」
「ああ」
僕らは3人横並びになって歩き出した。
太ったことが修一にばれたくないのだろう、美咲は僕を挟んで修一とは反対側に立ち、修一の視線をかわそうとしていた。
そのおかげというべきか、僕の位置からはちらちらと横目で美咲の体を観察することができた。

 

(ひどいな…服がぴちぴちじゃないか)
美咲は淡い水色のキャミソールの上に白い半袖のブラウスを着ていたのだが、急激に太ったせいでそれらがぴったり体に張り付いてしまっている。
ここに来る前は余裕のあった袖口は、太くなった二の腕に完全に密着している。
胸はむちむちと張り出し、その大きさだけは僕が小さくする前とあまり変わらないほどだった。
しかし、以前と決定的に違うのは盛り上がった山の形だ。
(なんだか妙になだらかな山になったよなあ。サイズは大きいけど、高いところと低いところの差が少ないと言うか…)
おそらく、太ったことでアンダーバストまで大きくなってしまったためだろう。
以前は胸がもっと急角度に突き出ていて、スレンダーな身体の中でそこだけがアンバランスなくらいにグラマーだったのだ。
それが今では、全体が太っているから胸も大きいという感じになっている。
(カップサイズは結局Aのままじゃないのか? まあ、がんばってダイエットでもするといいさ)

 

続いて下半身の方にも視線を滑らせる。
(あーあ、こりゃまたきつそうだな)
美咲はミニスカートをはいていたのだが、腰まわりが実に窮屈そうだった。
歩きながらなので見づらいが、少しはみ出した贅肉がスカートの縁に乗っかっているように見える。
スカートからこぼれる太ももは実にむっちりとしていて、とてもじゃないがミニスカートが似合う太さの足とは言えない。
(美咲も後悔しているだろうな。ジーパンでもはいてくればわからなかったのに… あ、でもそれだと足が入らないか)
観察しているうちにひとついい案を思いついた。
どうせならもっと太らせてやろう。

 

「なあ、お腹もすいたしなんか軽く食べていかないか?」
「お、いいね」
「え? いや、私は…あんまりお腹すいてないし、なんか疲れちゃったし」
修一はすぐに賛成してくれたが、美咲は渋っている。当然だろう。
「じゃあさ、とりあえず店まで行ってみようよ。歩いていくうちにお腹が減るかもしれないし。それでもダメならそこで帰ればいいだろ?」
「…そうね、それならまあ…」
あまり執拗に断るのはかえって変に思われると思ったのか、渋々ではあるが美咲は僕の案に乗ってきた。
(ふふ、実際に甘いものを見せてしまえばこっちのものだ)
昨日入力した内容がちゃんと機能しているなら、一旦甘いものを見れば食べずにはいられなくなるはずだ。
「それじゃ行こうか。前に美咲と行った美味しいケーキショップがあるんだ」
「へえ、楽しみだな」
「…」
僕と修一は意気揚々と、美咲は憂鬱そうにケーキショップに向かった。

 

10分ほど歩くと、目的の店に着いた。
「ほら、ここだよ」
「結構歩くと長いもんだな…俺、少し汗かいちゃったよ」
「中に入れば涼しいさ、きっと」
季節は初夏。
夕方と言えどもまだ日は高く、プール帰りの僕らにはちょっときつい日差しだった。
「で、どうする美咲? まだ食べれなさそう?」
「うーん、そうねえ…」
美咲はあまり気乗りのしない顔で口ごもる。
やはり食べたくないのだろう。
「ほら、あのケーキなんか美味そうじゃん」
そう言って僕は店内のショーウィンドウに飾られたケーキを指差す。
その指を追って視線を移動させた美咲の顔色が変わる。
「う…」
のどをゴクンと鳴らし、そわそわと落ち着かなくなる。
どうやらケーキを見たことで、異常に食欲が亢進されてきたらしい。

「どうしても無理なら仕方ないけど」
美咲はかなり悩んでいるようだったが、結局のところ湧き上がる衝動を抑えることはできなかったようだ。
「…んー…大丈夫、食べられると思う…」
「うし、それじゃ入るとしますか」
僕らは揃って店に入った。

 

「あの、これも追加で」
美咲が6個目のケーキを注文する。
見ているこっちが胸焼けしそうである。
確かに"満腹になるまで"と入力したが、ここまでのものとは思わなかった。
「甘いものは別腹っていうけど…実際に見てみると凄いな」
修一が小声で僕に話しかけてくる。全く同感だ。
最初のうちは美咲も修一を意識してか大人しく食べていたが、だんだんと食べるスピードが上がってきている。
(うーん、僕が言うのもなんだけど、お腹こわさないだろうな)
「すみません、これ追加で」
そうこうしているうちに美咲はさっき注文したケーキを平らげ、7個目に取り掛かろうとしている。
「ちょっと美咲ちゃん、まだ食べるの?」
「う、うん。なんだか食べ始めたらもっと食べたくなっちゃって」
恥ずかしそうに答える美咲。
美咲自身、なぜこれほど食欲が沸くのかは理解できていないだろう。
(こりゃ、肥満化はかなり速く進行しそうだな)
なかば呆れながらそう考えていると、ブチッという何かが切れるような音がした。

 

「ん、何だ?」
周りも見ても、特に変わった様子はない。
空耳かと思って視線を戻すと、美咲が青い顔をしていた。
「美咲?」
美咲は下の方を見ている。
何だろうと思っていると、修一がかがんで何か丸いものを拾っていた。
「か、返してっ」
美咲は慌てて修一の手の中にあるものをひったくると、そそくさとトイレの方に行ってしまった。
あの慌て振りを見て、なんとなく何が起こったかわかってしまった。
(多分、ついにスカートが限界に来てボタンが飛んじゃったんだろうな)
美咲はいつもソーイングセットを持ち歩いているから、トイレに行ったのはそこでボタンを繋ぎ直すためだろう。
(それにしても、あのスレンダーだった美咲がねえ)
今朝まではくびれたウエストをしていたわけだから、かなり細いスカートをはいてきたのだろう。
それが仇になったというわけだ。
(修一の前でとんだ醜態を晒しちゃったな。いい気味だ)
大笑いしたいところをぐっと堪える。

「なあ、美咲ちゃんが戻ってきたら帰るか? さすがにもう満腹だろうし」
「ああ、そうしようか」
僕としても、今の光景を見て美咲のスタイルがどの程度崩れているのか数値で確認したくなってきたところだ。
(帰ったら早速プログラムで確認してみよう)

 

しばらくすると、真っ赤な顔をした美咲が戻ってきた。
さすがにこれ以上食べる気にはなれないようで、帰ろうと声をかけると黙ってついてきた。

 

 

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