624氏その3
#催眠,MC,mc
「風花ちゃん!ご飯よ!」
「い、いらない!今日はお昼に麗菜ちゃんといっぱい食べたから。」
「何ですってー!外でたくさん食べるなってあれほど…、とにかく、ご飯はしっかり食べないとダメよ!栄養のこともあるんだから!」
「で、でも無理ー。」
お母さんはとうとう私を部屋まで連れ出しにきた。
「む、無理だってー!第一私、ダイエット中〜!」
「ダメよ!若い子はすぐダイエットダイエットって体壊すんだから、栄養士の私はちゃんと分かってるのよ!」
「で、でも、お母さん、わ、私最近デブになっちゃって…。」
「そう?分かんないわよ。ほら早く!」
「だから、無理〜!」
ぐーーーーーーっ!!
「えっ…?」
わ、私のお腹?
「何よ、お腹すいてるんじゃない。もしかして嘘ついてたの!?」
「そういうわけじゃ…。」
「じゃあほら、来なさい!」
「あうーーー。」
私はお母さんに引きずられるままに食卓へと向かった。
「あ、確かにちょっと重くなってるかも…。」
「そ、そんな、ひどっ!」
今日は食卓には珍しくお父さんが座っていた。
「あれ、お父さん、今日は早く仕事すんだんだ?」
「ああ、最近ちょっと、大変な患者がいてね、遅くなっていたがようやく解放されてね。」
「へ〜…、ねぇ、それってどんな病気の患者さんなの?」
「風花ー、そういうのは医者は守秘義務で…」
「えー、別に個人情報を出せっていってるわけじゃないんだよー。どんな病気だったかーとか教えてくれてもいいでしょ。お父さんの仕事の中身、私、知りたいんだよ〜。」
精神科なら弱い意思の克服みたいなこと知ってるかもだから、いろいろ聞いてみたいんだよね。
「そ、そうか、父さんの仕事に興味があるのか、はは。それじゃ話そうかな。…実はね、最近よく来ていた患者さんはね、拒食症だったんだ。…そういえば、風花、結構太ってないか?」
「私のことはいーの!それより続き続き!」
「す、すまん。その拒食症の子はね。一度デブって言われたのが悲しくてダイエットをしたんだが…、まぁそれが極度のものだったうえに食欲が減退していってね。本当にガリガリになってしまっていて、どんなにおいしい食事でも吐いてしまうんだ。」
ダイエットね〜、…麗奈は大丈夫かな。
って私もダイエットしてるはずなんだけど。
「それでいくらやってもにっちもさっちもいかなくなってね。このままじゃ命の危険に関わるって状況になってしまってね、ある方法を試したんだ。この十字架を使ってね。」
その十字架は我が家の家宝、代々精神科をやっていた私の家に古くから伝わっているものだけど、何かに使うなんて聞いたこと無い。
「もう、他に方法が無くてね。最終手段ということで催眠療法を使うことにしたんだ。でもお父さん、この催眠がサッパリでね。うまくいくことはほとんどなかったんだ。
それで過去の資料をあさっているとね。この十字架が出てきたわけだ。」
「この十字架?何に使うの?」
「これを使うとね。簡単に催眠をかけることができるんだ。相手にかざして思いを込めながら相手の目に写すだけでね。」
「えー何か嘘っぽいなぁ〜。」
「むっ…、それじゃあ試してみようか。お前に意識を保ったままで催眠をかけよう。
そうすれば催眠にかかっていることが自分で分かるからね。」
「はいはい、やれるものならやってみてください。」
「よし、んーそうだな、じゃあ、ワンとしかいえなくなるぞ〜!」
はぁ、何言ってるんだか。
そんだけのことでさ、催眠にかかるわけ…
「ワンワンワン……ワン!?ワン!ワンワンワン!!」
うそっ…ほんとに!?
「どうだ!恐れ入ったかー!」
「ワンワンワン…。」
「ああ、そうだった、催眠を解くな。催眠よとけろ〜。」
「あー!びっくりした!ほ、本物なんだ…。」
「まぁこれを使ってさ、太るなんてたいしたこと無いとか食べ物はこんなにおいしいとか伝えたらすっかり拒食症は治り食事もとれるようになったというわけさ。まぁ女の子は自然が一番。下手にダイエットしようとするからとんでもないことになるんだ。」
「そ、そうだよね。それに食べることってすっごい幸せなことだもんね。」
「おお、お前もなかなかいいこというな。」
「ほんとね!私の思いが通じたのね!今日もジャンジャン食べなさい!」
「あ、あはははは。そうだね…。」
目の前に並べた料理は本当においしそうだ。
どれもお母さんが一生懸命作ったもの。残すなんてとんでもない。
麗菜はちゃんとご飯たべているんだろうか…。
「そうだ!!」
「ど、どうしたんだ?風花?」
「ねぇ、その十字架貸して!!」
「な、何言ってるんだ。そんなのダメに決まっているだろう。」
「私にも拒食症の友達がいるの!その娘、かわいそうなくらい痩せてて…」
「な、なら私のところにくればいいだろう。」
「その娘、医者嫌いで信用してないから。医者に行こうとしないの。でも、大事な友達で・・・ううっ、だから、お願い!お父さん、私にそれを貸して!」
「そ、そういうことなら、仕方ないな。なくしたりしちゃダメだぞ。」
「はーい!お父さん、ありがと!」
この十字架を使えば、私の頭の中に閃いたナイスなアイディアが実行できる。
そうなのよ!私がやせる必要なんてない。
麗奈が太ればいいんじゃん。
私は正直、これから麗奈よりやせるの無理だし。
私今すっごい冴えてるよ!
今この瞬間、私は世界一冴えてるかも!
麗奈は今で十分スタイルいいからやせる必要も無いし、何より食べることってこんなに素晴らしいことなのに食べないなんてもったいないもん!
明日早速麗菜に会って使ってみよーっと。
「何よー、突然呼び出し…ってあん…昨日よりまた少し太ってるじゃない!!」
「う、うん、よ、よく分かったね…。」
「うんじゃないわよ!あんたそんなに私と絶交したいの!?」
「そ、そんなわけないよ!私麗奈のこと大好きだもん!」
「で、でもデブは嫌いなのよ。嫌!汗臭い!」
「そ、そんなひどいよー。」
「ダメ!近寄らないで!匂いかいだだけでダメだわ。」
ひどいよ麗奈…。そんなにまで、デブってだけで嫌いになるなんて。
「さ、催眠状態になれー!」
私は十字架をかざし声を上げる。
「は、何い……」
そのとたん麗奈の目から生気が失せ、焦点が定まらないぼんやりしたものとなった。
「れ、麗奈、あなたはデブが嫌いですね?」
「ええ、嫌いです。大嫌いです。」
「でも、デブってホントはとても魅力的なのよ。貴方はなんだかんだデブを嫌いながらも本当はデブの体がこの世で最も美しいものだとしっているのです。デブの何もかもがすばらしく見えます。匂いすらもとてもいい匂いに思えます。そう、最上級の香水のような…
貴方は、デブにすごく憧れドキドキし自分もどうにかああなりたいと思います。また、食べることに幸せを感じることもできるようになっちゃいます。」
「デブが美しい…、食べることは、幸せ…。」
これだけなら麗奈が好んでデブになって勝負も私が勝てる。
絶交もしなくてすむ。
でも麗奈は私のことを臭いといった。
長年の友達なのに。
麗奈も知るべきだ、デブだといわれる悲しさも。
「ですが、貴方のなかのデブ、大嫌いは以前のまま残ります。デブは美しく素晴らしいものですが、貴方は素直にデブが素晴らしいと表せず、なぜか恥ずかしく感じてしまうのです。」
「デブは嫌い、けど、美しい。」
「よ、よし。それでいいのです。そ、それでは、さ催眠よとけろ〜。」
「あっ!っと…あれ、な、何かボーッしてたかしら。私。えーっと、何の話…そう、匂い!風花」
私の方に目を向ける風花。心なしか顔が赤くなる。
「あ、あんた、ダイエット勝負、なんだから、や、やせなくちゃダメでしょーが。に、匂いだって、そ、その、きついし…。」
「え、ホントにそう?ホントはいい匂いだと思ってるんじゃないの?」
「そ、そそそんなわけ、な、ないじゃない!」
真っ赤になって否定する麗奈。フフ、何かかわいー。
そのまま麗奈をつかんで抱きしめてみる。
「ほら、いい匂いでしょ〜。」
ほんとはいい匂いのわけない。
昨日なんてお風呂に入り損ねてしまっているのだ。
「あ、あふぅ…、す、少しはね、い、いいかもだけど…。」
ばっと離れる麗奈。
「で、でもデブは嫌いなの!大嫌いなのよ〜!」
「そうかな〜、うっふ〜ん。」
私は右手を頭に左手を胸にあてセクシーなポーズをとってみる。
以前より胸は大きくなったしTシャツは以前のものなのでパツパツでおへそ丸出しだが垂れ下がる腹によりお世辞にもセクシーとはいえない。
だが目の前の麗奈はもう耳まで真っ赤になってしまっている。
「あ、ああ、はぁはぁ、ふ、風花ぁ…。」
「うふふふ、麗奈、今日もお食事、食べに行かない?」
そういって腕を組んでみる。
「あ、はい!そ、そういうなら、じゃ、じゃあ、い、いくわ。」
ふふ、かわいーな〜。
昨日と同じファミレスで昨日のメニューにさらにステーキとハンバーガーを追加する。
目の前では麗奈が昨日と同じヘルシースパを頼もうとしている。
「麗奈、そんな料理じゃ私みたいに魅力的な体にはなれないよ。」
「だ、誰がデブをみ、魅力的だなんて…」
「そんなこといって〜、よっし私の料理二人分頼んじゃおう!」
「え、ちょ、ちょっと待って!」
私はさっと店員を呼び注文を言う。
店員を呼んでいたときはブツブツ非難していた麗奈も店員がきたらおとなしくなってしまった。
「わ、私はデブになりたくないけど…、もう頼んじゃったし仕方ないから食べてあげるわ。」
なるほどね、そういうこと。
あんなこといいながら顔は心なしか嬉しそうだし。
メニューが来たあとの私達は圧巻だった。
二人の女子高生がカロリーの高い料理を書き込む姿は周りから見ればかなり特異なものに写るだろう。
麗奈は途中から苦しそうにも見えたが、それでも一生懸命料理をかきこんでいた。
「きょ、今日は風花のせいでさんざんな目にあったわ。」
「そ〜?結構楽しそうに食べてたけど?」
「そ、そんなこと…。」
「ふふふふふ。」
そういってまた麗奈を抱きしめる。
熱い料理をさっきまで食べてたせいで汗もムンムン、自分でも分かるくらいの異臭と肉。
「あ・・・・。」
だが、麗奈は身動きがとれない。抵抗もしない。
ただ、顔を真っ赤にしながら下を向いてフルフル震えている。
「うふふ、じゃあね、麗奈。またね〜。」
「へ、変なことをしないでよね!で、デブなんて!!」
麗奈はばっと踵を返し自分の家へと向かっていった