海神の島

海神の島

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次の日、真美が目を覚ますと、驚くべき異変に気づいた。
なんと真美は一糸纏わぬ全裸で、肘掛のある椅子に縛り付けられていたのである。
「え?ちょっ、何これ?何で裸なの?」
自分は診療所のベッドで寝ていた筈なのに、今は椅子に縛り付けられて納屋のようなところにいるのである。

 

「おはよう、真美ちゃん。」
声をかけたのは、昨夜お茶をくれた駐在の妻だった。
「あ、あなたは…」
「私の名前は絹江よ。真美ちゃん、恥ずかしいかも知れないけど、ちょっと我慢してね。さあ皆さん、準備ができましたよ!」

 

絹江がそう言うと、扉が開き、男が何人も納屋に入ってきた。

 

「きゃぁ!いやあ!」
真美が叫ぶ、なぜなら入ってきた男たちは全員裸であったからだ。
その上彼らは、染料で身体に渦巻きや波模様を描いた、異様ないでたちをしていた。

 

「ちょっと、え?何を?うわぁ!」
男たちは真美の周りに規則的に並んだ。
よく見ると、真美の座っている椅子は輿の上にあり、その担ぎ手に沿って並んでいる。
「せえーーのっ!よいしょーーーー!!」
掛け声とともに、真美の乗せた輿は持ち上げられた。

 

ガラガラガラ…
絹江が部屋の隅で操作し、納屋の大扉が開いた、外の光が納屋に差し込む。

 

「い、いやああああ!!」
真美の目に飛び込んできたのは、納屋の外に集まった、200人ほどの人の群れだった。
その群集が、皆真美の裸体を凝視しているのだ。
「いや!何!?見ないでよぉ!!」
パニックになり逃げ出そうとする真美、しかし手足を椅子にがっちり縛り付けられた状態では、ジタバタ体を揺らすだけだった。
たくさんの人に裸を見られる、13歳の少女には、消えてしまいたいほどの恥ずかしさだ。
「いくぞー、しょい!しょい!しょい!」
男たちが声をかけ、輿が群集の中に進む。
全裸の少女を載せて。
「いやあ!見ないで!服を、服を着せてください!絹江さーん!絹江さーん!」
「なあに?真美ちゃん?」
傍らを歩く絹江に事態の説明を求める真美。
それにごくごく冷静に答える絹江。
「何ですか!?コレは!!」
「びっくりさせちゃってごめんね。これは『お披露目』よ。」
「お、おひろめぇ…?」

「そう、真美ちゃんは神様の娘さんだから、今から神様の子供がやってきましたよー、って島中の人に見てもらうの。」
「な、何言って…神様の子供!?」
「そう、この島の言い伝え、浜に流れ着いた子供は海の神様、ワダツミ様の子供。神様の子を預かったら島の人は大事に育てなきゃいけないの。」
「(何言ってるのよ、この人たち…)え?…そ、育てる?」
「そう、この島でずうっと、私たちが真美ちゃんの面倒をみるわ。」
「…いやです!私は神様の子供なんかじゃありません!おうちに帰らせてください!!」
「この島にたどり着いたのは、ワダツミ様の意志よ…あなたの運命だったのよ。心配しないで、一生懸命育ててあげるから。」
絹江の目は「本気」だった。
輿を担ぐ男たちの目も、輿を囲む人々の目も…
真美はこれが冗談でも、ドッキリでも、夢でもないことを悟った。
「(…この人たちは普通じゃない…)」
真美は輿の上でうなだれてしまった。

 

輿はそのまま、島内を巡った。
行く先々で島民がいて、真美を見て手を合わせて拝んだ。
真美は顔から火がでるほど恥ずかしかったが、なんとか自分の置かれている状況の情報を得ようと努めた。
島民は、日に焼けていることを除けば、いたって普通の日本人の外見。
島には小高い山があり、緑が多い。
入江に近代的な漁港があり、漁港の近くはいちばん建物が密集している。
山肌には棚田や果樹園がある。
山から流れているのか、小川があり、橋も架かっていた。
自動車もある。商店も電灯も舗装道路もある。
日本の何処にでもあるような、典型的な半農半漁の島―
―しかしそこに住む人間の魂だけが、異界のものとすり替わっている―
そんな印象を真美は受けた。

 

「さぁ、真美ちゃん、ここが新しいおうちよ。」
「お披露目」が終わった真美が連れてこられたのは、スタート地点の納屋がある場所だった。
そこは入り江の集落から離れた、坂の上にあった。
出発するときは気づかなかったのだが、納屋と同じ土地には、3階建ての鉄筋のビルがあった。
窓が小さく、梁と柱ががっちりした古めかしいデザイン。
その苔がこびりついた灰色の壁を真美は眺めた。
「そっちはお世話するひとたちが使う建物。そっちじゃないわよ。あっち。」
手を引かれ、ビルの横を抜けると、四角いコンクリの…地下鉄の入り口のような建物があった。
階段を降り、金属製のドアを開けると、そこは無機質な地下室だった。
広いが、中央のベッド以外は家具がない部屋。そのベッドが妙に大きいのが気になるが…
床も壁もコンクリの打ちっぱなしで、畳や壁紙はない。
天井には粗末な照明。
天井近くに窓があるので、半地下であることが分かった。

 

動物の飼育室のような部屋を見て、彼らは自分を監禁するつもりだと気づいた真美は恐ろしくなった。
「わ、わたし…いやです!帰らせ…」
絹江の手を振りほどき、逃げようとする真美、しかしすぐ後ろにいた男に捕まってしまう。
「いやだ!いやだ!放して!」
ジタバタ暴れる真美だが、屈強な男の腕から逃れることは叶わない。
抱きかかえられるようにベッドに運ばれてしまう。

 

「さぁ、お腹空いたでしょう。お食事よ。」
絹江は若い女性の運んできた皿を抱え、中身を匙ですくい、真美の口に差し出した。
それはお粥のようだった。

 

「いやだ、いりません!」
「おとなしくしねえか!」
バシィ!!
真美を押さえていた中年の男が真美を平手で殴る。
「さぁ、食え!神様から預かった子供は、しっかり食うのが仕事だ!!」
バシッ!バシンッ!!
「これこれ、獏井さん、やりすぎですよ。さ、真美ちゃん、お口あーんして。」
人に殴られたことなどない真美は何が何だか分からない。
自分はいわれのない暴力を受けているのに、絹江は微笑み、お粥を食えという。
訳が分からない。
しかし、もし食わなければ、もっと酷い目にあう。
それだけは分かった。
食べるだけなら…殴られたくない。

 

真美は匙を口に加え、お粥をすすった。
肉や魚や野菜、いろいろが混ざった濃厚な味がした。
「おいしい?たんとお食べなさいね。」
一応、お腹は空いていたので、絹江が口に運ぶまま、真美はよく食べた。
無心で食べ続け、知らず知らずのうちに真美は眠りについていた。

 

 

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