海神の島

海神の島

前へ   7/11   次へ

 

 

「もう少しだ、真美ちゃん。あの切り通しを抜ければ…」
波の音がする。海が近いのだ。
切り通しを抜けた二人の前に、赤い光が飛び込む。
「!」
「!」
ゴオオオ…パチパチ…
「あら?遅かったわね、探偵さん?」
信じられない光景が広がっていた。
岩場には、陣内の仲間が待っているはずの岩場に、絹江が立っている。
そして、見覚えのある島民たちもいる。
手にはポリタンクを持っている。
ボオオオオオ…バチ…バチィ…
海に浮かぶボートは、赤い炎を上げ燃えている。
黒い煙がもうもうと立ち、漆黒の空に吸い込まれていく。
「…!…竹内!神戸!渡貫!」
陣内が声をあげる。

「きゃああああ!!」
真美は、絹江の足元に転がる3人の人間を見つけた。
陣内の仲間? 出血している、動かない、死んでる? 殺された? 

 

「お、お前ら…」
「お前ら? ずいぶんなことをおっしゃるのね? わたしたちの大事な預かり物をさらおうとした余所者の分際で。」
「お前らは狂っている! この娘は依頼主の下に返す!」
「余所者がどう思おうと関係ないわ。この島は、ワダツミ様とともにあるのだから。陣内さん? その娘をお返しなさい。そして一生このことを黙って暮らしなさい。そうすれば…」
「黙れ! この娘は…」

 

ズギュウゥゥゥゥーーンンッッッ!!!

 

「ぐあっ!」
「きゃああ!!」
真美は自分の見たことが信じられなかった。
絹江が懐から鈍い銀色の拳銃を抜いて発砲したのだ。
実銃? なんで? なんでこの日本にそんなモノが!?
パニックになる真美。
「うぐうう〜〜…」
「陣内さん! 陣内さあん!」
うずくまる陣内を揺さぶる。
陣内は肩に被弾したらしい。真っ赤な血がどくどくと噴き出しいる。

 

「この島で鬼ごっこをして、私たちに勝てると思ったの? 交渉も決裂ね。」
「いやああ…」
「さ、行きましょう、真美ちゃん。」
絹江は真美の腕を陣内から引き離した。
男がふたり、真美を両脇から抱える。
気づけば岩場は島民でいっぱいになっている。
一帯の島民が集合したのであろうか?
島民はみな大鉈や斧、鎌で武装している。
日本刀や猟銃まで持っている者もいる。
「いや、いやあ! やめ…陣内さん!」
疲れきった真美に、男たちは振りほどけない。
視界の中の陣内は、武装した島民たちにどんどん囲まれていく。
「陣内さあん!!」
真美にもうひとり男が加わり、真美は完全に抵抗力を失い、連行される。

 

ダアアアァァァーーーーン!!!

 

「ひあぁっ!!」
後ろから聞こえる銃声。
真美は振り向くこともできずに、男たちに引きずられていった。

 

「…ひっく…えっく…うう…」
真美は、軽トラックの荷台に乗せられていた。
軽トラックは沿岸の道を走る。
短い逃避行は終わった。
さっきまで、自由の予感に心を躍らせていたのに、今はめそめそと泣き、猛スピードであの地下室に引き戻されている。
二台には見張りの男がふたり同乗していた。
ふたりとも何も喋らずに真美を監視していた。
ふたりとも拳銃を持っていた。

 

ドタッ
真美は地下室に放り投げられた。
またこの部屋に戻ってきてしまった。

 

「手間をかけさせやがって、まだ逃げるつもりでいたのか!」
かつて竹の鞭で真美を殴った男だった。
「わた…わだじ…家に、ひっ…帰りた…」
久しぶりに泣いて解放を請う真美。
もう狂いそうなほど泣いている。
「まだ分からんのか!!お前は神様の子だ!!この島で太るのが運命なんだよ!!!」
あの竹の鞭で真美を執拗に殴る。
「いや…わだ…太りだぐない…ああああ」
「よく聞け!!お前の親父も母親も、弟ももう生きていない!!俺たちが殺した!!」
「!!」
唐突に男はとんでもないことを口にした。
何? オレタチガコロシタ?
「神の子に家族はいらない。男の兄弟も邪魔だ!」
「嘘よ!だって陣内さんが…」
「あの男の依頼主はお前の親父の弟だ! あの探偵のボートに依頼書があったよ。きっと依頼主は財産を手に入れるために、新しい当主として一族に格好をつけるためだけに依頼したんだ! それをあの探偵はまじめに働きやがって、ご苦労さんなこった!!」
「そんなぁ…」

「お前が生きてると知っても誰も喜ばねぇ! 財産が全部お前のものになるからな! この島で太るのがお前の運命だ!!」
「えやっ…い…お父さ…おか…おが…シン…ジ…うわあああああ!!」

 

「八重頭さん、もういいわ。私たちに考えがあるの。」
絹江が地下室に入ってきた。
いつぞやの白髪の医者も一緒だ。
絹江はボウルを抱えている。
ボウルの中はドロドロした白い物体が入っている。

 

「真美ちゃん。怖かったでしょう? もう大丈夫よ。今日はこれを食べて寝なさい。」
「…うぇ…何も…食べたく…ない…」

 

絹江が男に合図する。
心得たという顔で男は真美の頭を掴み、怒鳴った。
「めそめそしてんじゃねぇ!! とっとと食わなぇか!!」
絹江はドロドロを匙ですくって、口に差し出す。
真美は口を一文字に結び拒絶する。

 

「食え!!」
「んん〜んん〜〜」
「さあ、食べるのよ。」

 

そんな問答が数分続いた時だった。

 

バキュウウウゥゥゥゥーーン!!

 

もう二度と聞きたくない音が地下室に響いた。

 

「ごねるな…」
発砲したのは、医者だった。
床に穴が開き、四方にヒビが走っている。
最初に会った時の穏やかな声とはうってかわって、ドスのきいた低い声で言った。

 

「ワダツミ様との約束はお前を肥やすこと…どんな手を使ってもだ…お前の手足を斬り落として、ダルマにしてもいいんだぞ? いっそのこと、耳を削いで目をくり抜いてやってもいい。食いモンを食えればいいんだ…どうする?」

 

「ひぃいい……」
ジョロロロロオオオオオォ……
真美は銃声と医者の恐ろしい形相、そして両手両足の無くなった自分の姿を想像して恐怖し、失禁してしまった。
「食べます! 食べますぅ! 殺さないでぇ!!」

 

白いドロドロを流し込まれるままに呑み込む真美。
苦い、薬のような味がした。
全てを飲み干すと、トロンと眠くなり、そのまま寝てしまった。

 

 

前へ   7/11   次へ


トップページ 肥満化SS Gallery(個別なし) Gallery(個別あり) Database