肥満ハザード
[9月2日・朝]
―高等部寮舎、学生食堂
「いただきまーす、うーん。学食の朝ごはんはやっぱりおいしそうだわ。」
「いただきまーす。…んむ…おいっしーい! 食堂のおばちゃんたちは最高だわ。」
「むぐ…一ヶ月半ぶりだからねー♪ …はむ…ああ、本当においしい。…あん…おいしすぎ…んぐ…んぐ」
「って、杏奈、あんた食うの早すぎ。もう少し落ち着きなさいって。」
「ふふふ…杏奈ったら、朝起きて早々、お菓子つまんでたもんね♪ お腹空いてるんだもんね?」
「…! ぐふっ! …ちょっと、佳代子ぉ、みんなの前でヘンなこと言わな…ん! んぐ! んんっ!!」
杏奈という少女は、佳代子の発言に食事をのどに詰まらせてしまった。
「ほらほら、あんたがっつくから。ほら、お水飲みな?」
「(…ごくごく…)…ぷは…はぁ〜、お水おいし…おかわり!」
「あんた、今日もお水ばっか飲んで〜」
杏奈も昨夜水をたくさん飲んだひとりだ。
ちなみにこの少女、桜井杏奈(さくらいあんな)はボケボケの印象に似合わず、学園有数の「巨乳」である。
「だってのど渇いたんだもん。」
「まぁ、朝に水分をとるのはいいらしいから、いいんじゃない? 寝てる間に水分がなくなるんだって。」
「あ〜、そうなんだ。」
「…もの足りないなぁ…おかわり行って来まーす!」
「…ったく、あの娘はよく食べるわねぇ…」
「乳のために栄養がいるんでしょう…」
[9月2日・1限]
―高等部2−B
「…昨日眠れたー?」
「…昨日のお菓子だけどさ…」
「…後でうちの部屋来ない?…」
「…あー、暑いー…」
…がやがや…ざわざわ…
ガラッ
「はーい、皆さん。席に着きなさい。始業のベルは鳴っているのよ。」
ざわつく教室に入って来たのは、白いスーツの女性だ。
モデルばりのプロポーション、いや、その大きな胸からすると、アイドルと言ったほうがふさわしいか。
スレンダーな体に、豊かな胸、砂時計型と形容するにふさわしい大人の魅力、高等部の英語教師、鈴沢まりみ(すずさわまりみ)だ。
「えーっ!? こんな時にも授業するのー?」
「そりゃないよー、まりちゃん!」
教室中からブーイングがあがる。
どうやら、生徒たちは地震があったので、全授業休講だと思っていたらしい。
「本校は2日の1限から授業です。地震があったって授業運営にはなんの支障もありません。ほら皆さん、1限は英語です。教科書を出して、出して。」
渋々生徒たちは授業の準備をした。
―30分後
…カツカツ、コッ…
「…ですから、ここの関係代名詞が…」
ぐるるるるるるるうぅぅぅ〜〜〜…
「……」
「……」
「……」
「…くすっ…だぁれ? 今のお腹の音は? 昨日夜更かししすぎてお腹空いちゃったのかしら? お昼休みまで我慢なさいね。」
教室がどっと笑い声に包まれた。だが…
[9月2日・2限]
―古文
「…この『べし』の意味は、ここでは…」
ぐううぅぅ〜〜〜…
「……」
「…ぷっ、あははっ! なぁに? またぁ? いったい誰よ?」
「あっはっはっはっは…」
[9月2日・3限]
―数学
「…え〜、ですから、直線ABの傾きは、微分を使って…」
ぐぅ〜きゅるるる〜〜…
「……って、おい…また?」
「……」
[9月2日・4限]
―世界史
「…18世紀のイギリスは…覚えてますか? 三角貿易を…」
ぐううう〜…ぐぐうううう〜〜…
「…やあね、もうすぐ昼休みよ。って、あれ? みんな、どうしたの?」
「……」
「……」