肥満ハザード

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[9月2日・昼休み]
―学生食堂

 

高等部2−Bは、みんなで固まって昼食をとっていた。
話題はもちろん…

 

「なんだったのよ、今日の授業は、でっかいお腹の音。」
「あれ、ひとりだけ…だったのかなぁ…?」
「あんな音を立てるのが何人もいたってゆうの? あ? 杏奈〜? あんたじゃないでしょうね?」
「ええっ!? ちがっ! …ちゃんと休み時間にお菓子食べたんだけど、それでも足りなくて…あ!…」
「あ〜ん〜な〜…犯人はお前か!」
「ええ!? …あ…1時間目と2時間目は違うもん!」

 

あっさりバレてしまって顔が赤くなる杏奈。
ちなみに、杏奈をいじめている少女は日野飛鳥(ひのあすか)という。
白雪さやかが口を挟む。

 

「もう、いいでしょ、桜井さんをいじめないの。」
「はいはい、杏奈がかわいかったからさ…って、いいんちょ! あんたいっぱいよそったわね〜」
「え…そうでしょうか…わたく、私は普通に…」

 

さやかの皿は、料理が標準よりだいぶ多くよそってある。

 

「はっは〜ん、もうひとりの犯人はいいんちょか? ま、悪いことじゃないから別に…(ぐう〜)…あれ?」
「あはは、飛鳥までどうしたの?」
「…いや、いいんちょのご飯見てたら…って違う違う。今のは…(ぐるるる〜)…!!…」
「あの…日野さん? よろしかったら私の分を差し上げますわ。」
「いいーや、結構! あたしはこれでも今ダイエット中なの。水! 水くれ水! 水でお腹を膨らませる!!」
「あー、水は杏奈が…」
「ん? ほい。」

 

杏奈が独占していた水の入ったやかんを飛鳥に渡す。

 

「ってやかん軽っ! あんたまたがぶ飲みしたわね? まぁいいわ。」

 

軽くなっていたやかんにびっくりする飛鳥。残りの水を全部グラスに注ぎ、飲み干す。

 

「っぷはー、やっぱりここの水はうまいねぇ。」

 

飛鳥は、その後もおかわりをせずに、水を―学園の地下水を―たらふく飲んだ。

 

[9月2日・夕]
―放課後のある教室

 

「んは…このお菓子、甘くておいしーい♪」
「あれ? あんたダイエットでお菓子は断つんじゃなかったの?」
「んー、そうだったんだけど…部活の後輩が夏休みのお土産にもってきてくれて…食べる? 『雪の恋人』。」
「えー、私は…(私もダイエット中なんだけど…でも…)…それじゃせっかくだし、貰おうかな?」

 

―校舎のロビー、自販機コーナー

 

ガコンッ…

 

ここロビーは、生徒たちがくつろぐ場所であり、飲み物やパンの自動販売機が並んでいる。
こころなしか、今日は盛況なようである。
テーブルには、仲良しの生徒たちがグループになって、お菓子を食べている。

 

…ごきゅ、ごきゅ…

 

「あー、コーラおいしい〜」
「あんた今日コーラ何本目よ? もういい加減やめときなさい。」

 

―水飲み場

 

…ごく、ごく、ごく…

 

「はぁ〜、おいしい、やっぱ天然の湧き水はちがうね〜」
「ほんとだね。まだ暑いしね、冷たいお水がおいしいよ。」

 

この学園は湧き水を飲める場所がいたるところにある。
2学期とはいえ、まだ暑い。
冷たい水を求めて、生徒たちがやって来る。

 

「お水おいしい? まだ暑いから、水分をしっかりとるのよ。」
「はーい、先生、わかりましたー」

 

[9月2日・夜]
―中等部寮舎、学生食堂厨房

 

生徒の夕食が終わった頃、祐は今日も厨房を訪れた。

 

「こんばんわ、山野さん。どうでしたか? 今日の生徒たちの食べっぷりは?」
「あら? 大口先生、こんばんわ。それはもうよく食べてくれて…」

 

山野は食べかけの自分の昼食を調理台に置いて、祐に話をする。
しかし、祐はあることに気づいた。

 

「(…あれ? どんぶりがもうひとつ? …おばちゃんの?…)」
「…それでおかわりも…ん? どうしました? 先生?」
「あ! いや…あのぅ…今お食事しているのは山野さんおひとり?」
「ええ、厨房で食事するのはいつも私ひとりですが…何か?」
「(ひとり…それじゃ、あのどんぶりも山野さんの…)…え…ああ、別に…(…二人前? 忙しくてお腹空いていらっしゃるのかな?)」
「そう、で、とにかく生徒たちの食欲はまったく問題ありませんわ。わたしからもよく食べるように言っておきましたし。」
「ああ、そうですか、ご苦労様です。それでは失礼します。おやすみなさい。」

 

祐は厨房を出て行った。
山野が夕飯を再開していることを、祐は想像できた。
しかし祐は知らない、山野が三杯目のどんぶりをよそったことまでは…

 

<祐の日記>
9月2日
9月になったが、さすがにまだ暑い。
校舎では、湧き水を飲む生徒やジュースを飲む生徒がたくさん見受けられた。
発電機の燃料は節約しなければならないので、冷房はあまり使えない。
しかしかわりに無限に出る湧き水で涼をとることができる。
ほんとうに湧き水があってよかった。
この学園が、地震前と同じ暮らしができるのも、水が自給できるからだ。
明日も暑くなりそうだ、水分をよくとるように、先生方に告知してもらおう。
山野さんが言うには、食欲も落ちていない。よかった。
むしろ食欲旺盛になってきているようだ。
食欲の秋か?
山野さんに空っぽになったお釜を見せてもらった。
こんなことは今までなかったらしい。
余りはほとんどなくなって、逆に半数がなんらかのおかわりしたとか。
中にはご飯3杯おかわりというつわものもいたらしい(笑)

ちょっと食べすぎじゃないか?
でもいまどきの娘は小食だから、これでちょうどいいのかも知れない。
食料の備蓄もまだ問題ないし、食事を制限するのは余計なストレスになるだけだから、好きなだけ食わせておこう。

 

 

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