肥満ハザード
―職員室
祐は職員室にたどり着いたが…
少ない、異変に気づいた教職員が集まったにしては少なすぎる。
これだけしか変に思っていないのか?
十数人、それも全員男性。
それは、学園のほぼ全ての男性教職員であった。
つまり、異変に気づいたのは男性だけだということである。
「これだけですか…?」
「はい、まだ捜しているところなので、後でもう少し増えるかも知れませんが…」
「女性の方は?」
「どなたも取り合ってくれないんです。女性は、学園長も…」
「学園長まで!?」
学園長は女性だ。
この学園のトップまで、この怪異に飲まれてしまったのか。
トップ不在の職員室で、男たちは自分の集めた情報を出し合い、現状の確認と、今後の対応を話し合った。
<現状>
・生徒の食欲が異常に増え続けている。
・水の消費も凄まじい。
・味覚の異常も見られる。
・生徒がふっくらと太ってきた。
・上記の症状は女性の教師、職員にも見られる。若い女性のほうが症状が甚だしい。
逆に、男性に変化はなし。
・上記の症状に見舞われた者は、体の変調をあまり重大に考えない。
・このままでは、当初の予想より早く、食料がつきてしまうだろう。
そして、今後の対応は―もう全会の意思は同じだった。
「これ以上ここに留まるのはまずい気がする。無線機で連絡して、助けを呼びましょう。」
そして、数名の教員が、無線室に向かった…
「なんか…天気が悪いですね…嫌な雲だ。風も出てきた。」
<祐の日記>
9月4日
昨日までに微かに感じていた不安、それが今日ははっきりと目に見えた。
…(略)…
信じられない。
いくらたくさん食べたって、昨日の今日で太るわけがない。
いったいどうなっている。
悪い夢みたいだ。
…(略)…
話し合いの後、無線でヘリでの救助を求めることにした。
こんなこと、俺たちの手に負えない。
消防の担当者に、救援を急ぐように要請した。
「何かあったのか?」と聞かれてはっとした。
確かに、怪我人も病人もでていない。
女たちが食いまくっている、なんて言えなかった。
とりあえず、校医の肩書きを出して、「今は問題ないけども、孤立状態が長引くのは望ましくない」などと言って説明した。
担当者には受け入れてもらえたが、絶望的な答えが返ってきた。
天候が悪く、ヘリがすぐに出せないそうなのだ。
その時は、確かに風がものすごく強くなっていた。
天候の回復を待って、必ずヘリを寄こすと言ってくれたが、ラジオでニュースを聞くと、この先ずっと天気は荒れるらしい。
地震に引き続き、嵐の直撃、まったく運が悪い。
神様、早く助けてください。
[9月5日・午前3時]
―教職員寮舎、祐の部屋
祐は、悩んでいても仕方がないので、夕飯を軽くすませ、早めに眠りについていた。
早めに寝たので、深夜に目が覚めた。
雨が降っていることが分かった。
今は午前3時、起きるには早い、また眠くなるまで、祐はぼんやり天井を眺めていた。
ピーンポーン
部屋のインターホンが鳴った。
祐は校医なので、祐の部屋は深夜でも生徒が訪問できるように、職員室寮の一階、廊下を挟んで学生寮のすぐ隣にあった。
「(…こんな時間に? …急患!?)」
祐は寝巻きにジャケットを羽織って、扉を開けた。
そこには、泣きそうな顔をした、ぽっちゃり…いやでっぷりとした生徒が立っていた。
「…たすくせんせぇ……たすけてぇ…くるしいの…」
「(この娘は、誰だ? …落ち着け、俺のこと『たすく』って読んでる…仲のよい生徒だ…)」
もういい加減に祐は慣れた。
祐は、その少女の脂肪で膨らんだ顔に、断片的に残る特徴から推理した。
首から下は、(たぶん)変わり果てているだろうから、個人特定のアテにならない。
「どうしたの…如月さん? とにかく、医務室に行こうか。」
少女は如月絢子だった。
絢子は香苗の友達で、よく香苗の付き添いで保健室に来ていたので、覚えていた。
この生徒も肉体の変化が激しい。
祐はとりあえず、絢子を室内で繋がっている隣の医務室に連れて行った。
―教職員寮舎、医務室
「それじゃ、話を聞こうか。」
祐と絢子は向き合って椅子に座った。
祐は、絢子の肥満した体を眺める。
どうしても、体の一点に目がいってしまう…
それは、胸、乳房だ。
絢子の胸は、ほんの僅かしか膨らみがなかった。
まだ若いから仕方ないのかも知れないが、同い年の友達がどんどん大人らしい体つきに成っていく中で、少しかわいそうなくらいであった。
それが今は、友達を、この数日で確実に肉がついているであろう友達でさえも、抜いて大きく成長している。
たわわに実った豊かな胸、もしかしたら、この学園随一の大きさかも知れない。
爆発的に肥大した胸は、ヘンな意味を抜きにして、祐の興味を引かずにはいられない。
「あ…あのう…胸が…おかしいんです…」
「…………ムネって、心臓? 肺かな?」
そんなことは分かりきっている。
おかしいのはあきらかに乳房のことだ。
「違います…あ…あ…あの…地震の日から、胸が大きくなっているんです…気のせいじゃないんです…下着もホントにきつくなって…」
絢子は半べそをかきながら、祐に訴える。
実際、ここ数日でみるみる間に胸が膨らんだことは、絢子にすれば恐怖の現象でしかない。
常に、胸に張りがあり、おさまらない。
朝起きた時と、夜寝る時、そしてまた翌朝起きた時で大きさが違うのだ。
「(うおおお…で、でかいな…H? I? もっとか? 胸囲は間違いなく90センチ超えてるよな? もしかして、メートル級!?)」
これだけでかいと、まだあどけない絢子の顔とアンバランスで、何かコラージュ写真みたいに思えてしまう。
「(あ…でも、胸以外もすごいぞ。)」
胸の突出ばかり目につくが、落ち着いて全身を眺めてみると、他の部位の肥満化も、無視できないレベルだ。
でっぷりとした印象も、全身の膨張があればこそだった。
太ももがムチムチしていて、パジャマのパンツがぴっちり貼りついて見るからに窮屈だ。
顔から頚にかけてのラインが肉がつきたるんでて、ダボッとした感じだ。
頬もパンパンだし、手の甲も丸っこい。
末端まで脂肪が詰まっているのだ。
「そ、そうか…あ〜、と、とりあえずサイズを測ってみるか? え、え〜っと、メジャーはどこだっけかな?」
祐は変わり果てた絢子の姿を見るのがいたたまれなくなり、メジャーを探すことを理由に、椅子から立った。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
絢子の息が荒い。
「はっ…先生…私、すごく胸が苦しんです…はっはぁ…張り詰めて、熱くて…爆発しそう…今だって…眠れなくて…はぁーはぁー…」
絢子は肩で息をしながら、羽織っていたガーディガンを脱いだ、そして、パジャマのボタンまで外した。
「…ちょ、ちょっとぉ! 如月さん!?」
祐が振り返った時、絢子はパジャマのボタンを全部外し、胸を出していた。
下着は着けていない。
ムチムチの爆乳が空気に直接触れている。
ぷるるんとピンクの乳首も露出しているのだ。
衣服の拘束がない分、その巨大さが却って増したように見える。
「はぁはぁ…ふうぅ…それにこうすると…気持ちよくて…頭が変になりそうで…」
絢子が両手で自分の胸を自ら揉みだした。
絢子の目がぼやーっとしていく。
「はぁ、はぁはぁ… (もむもむもむ…) はああん! …せんせっ…たすけて…」
「おお、おいおい、そそ、そういうことはだなぁ!!」
予想外の展開に無茶苦茶テンパる祐。
こんなシチュエーションに遭遇したら、「女子中学生の生乳見れた、ラッキー」だなんて思えないものだ。
「せせ、先生男だから、女の子の体のことはよく分からないなァ! 花井先せ…花井先生のところに行ってごらんなさいよう!!」
「…ふえぇ…はない、せんせい…?」
焦りに焦って、祐はいつもと違う口調が出てしまった。
しかも、とっさに花井先生に押し付けてしまった。
「うん…わかったあ……じゃね…せんせぇ…」
絢子はフラフラと医務室を出て行った。
パジャマのボタンは開いたまま、胸が丸出しのまま。
祐の頭は真っ白で、そのことを注意できなかった。
一分くらいして、花井先生の昼間の様子と、絢子がとんでもない格好をして外に出たのに気がついたが、後を追った時、既に絢子の姿はなかった。
絢子が見つからなかったので、諦めて部屋に戻る時、祐は学生寮舎の異変に気がついた。
明るい。大部分の部屋に、灯りがついていたのだ。
祐は寮舎に飛び込んだ、中では甘いお菓子の匂いが漂い、生徒たちが昼間と変わらぬ感じで食べたり飲んだりしていた。
祐はもう寝ろと言って周ったが、たぶん聞いてもらえないであろうことは、祐本人がよく分かっていた。
祐は、自分の部屋に戻って、頭を抱えこんでしまった。祐はそのまま眠れなかった。
医務室を出て、胸を露出させた絢子はどうしたのか?
花井の部屋へ向かった?
いや、実はそうではなかった…
「…あやちゃん? どうしたの、そんな格好で!?」
「…あ…さくらいせんぱい…」
医務室を出た廊下で出会ったのは、桜井杏奈だった。
杏奈と絢子は、部活の先輩、後輩関係である。
杏奈は、飲み水を確保しに部屋を出た時、つらそうな表情の絢子を見つけ、後をつけてきたのだと言う。
ちなみに、杏奈も立派に太ってきている。
「医務室で何をしていたの?」
「さくらいせんぱい…あの…じつは…」
絢子は、杏奈に、胸の苦しみを訴えた。すると、杏奈は優しく微笑み、こう言った。
「胸が苦しいのね? いいわ、楽にしてあげる。一緒に来て。」
絢子と杏奈は、夜の校舎に消えていった。