肥満ハザード

肥満ハザード

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[9月5日・朝]
―高等部校舎、ある教室

 

祐が一睡もできない内に、日曜日の朝が訪れた。
外は強い雨が降っている。
7時頃に男性教師の声で、食べすぎと飲みすぎを注意する旨の校内放送が流れた。
焼け石に水だとは分かっているが…
朝食を軽く済ますと、清水が迎えに来て、高等部の教室へ向かった。
実は、昨日の話し合いで、現在の詳しい状況を調べるために、生徒の健康診断を行うことに決めたのだった。
何かの感染症かもしれない。
調べれば、謎の肥満化の原因がわかり、対策を打てるかもしれない。
さすがに全校生徒の診断は無理なので、ひとつのクラスを標本として抽出してデータをとることにした。
祐が指名したのは2−Bだった。
仲のよい生徒が多いからである。
男性の先生に協力してもらい、生徒を教室に集めてもらっていた。

 

「……これだけですか?」
「はい、一応全員に声をかけたのですが、寮から出てこなかったりで…」

 

教室に集まった生徒は10人とちょっと。クラスの半分ほどか。
来ない半分は、食べ物を詰め込むのに夢中になっているのに違いない。

 

とりあえず、せっかく集まったので、いる生徒だけで健康診断を実施することにした。
祐は、健康診断の目的を生徒に説明する。
この閉じ込められた生活で、具合を悪くした者がいないか調べたい、という説明だ。
はーい、先生わかりましたー、と元気な声が返ってくる。
生徒たちはキャッキャと今日も元気だ。元気なのは元気なのだが…

 

「(一晩でだいぶ太ったな…)」

 

昨日は、殆どの生徒がぽっちゃり目で、2割くらいの生徒がデブの領域に片足を突っ込んでた。
今の教室にいる生徒たちは…以前の体型を留めている者はひとりもいない。
昨日の標準的体型よりむっちりと肉感が増し、多くが小デブ、一部が立派なデブ、そして…

 

健康診断は、聴診器で呼吸を調べたり、口内を検査したりした。
そして、体のサイズを確かめる、身体測定へと進んだ。

 

<それぞれの身体測定(抜粋)>
※測定事項…身長、体重、座高、バスト、ウエスト、ヒップ、腿周り
※服装…体操着、短パン

 

―上田未奈美

 

「先生、心配しないで、私たち全然元気だよ。」

 

未奈美は、全身が「肉々」としている。
顔も、腕も、胸も、腹も、尻も、脚も、全身くまなく脂肪がついている。
まるで脂肪が意志を持って、彼女の全身から贅肉のない部分をなくしてしまおうとして彼女に覆いかぶさったかのようだ。

 

「…バスト99センチ…ウエスト101センチ…ヒップ99センチ…」

 

立派な「樽」型体型だ。
こうなると、サラサラのロングヘアーも暑苦しい。
休日になるとばっちりオシャレしていた娘の末路がコレでは泣けてくる。

 

―桜井杏奈

 

「先生、昨晩はあやちゃんがお世話になりました。」
「え?なんで知ってるの?」
「私、あやと同じ部活なんです。」
「ああ、そうか…」

 

杏奈は今日もニコニコ顔だ。
杏奈が大きな胸の持ち主であることは、祐もよく知っている。
だから、この状況で、彼女がどう変化するのか、祐はある程度覚悟(?)はしていた。

 

「(やっぱり…すご…)」

 

案の定の「胸太り」。
祐の頭には、昨晩の絢子の姿が浮かんだが、それ以上だ。

 

「…胸囲…ひゃっ…118センチ…」

 

胸囲は1メートルを18pもオーバーしていた。
胸囲の測り間違いかと思ってしまえるほどだ。

 

「あ〜、また大きくなってますかぁ?」
「(そんな悠長な…)」

 

杏奈は、大きな大きな胸をぐいと、下から持ち上げた。
手にずっしりとした感触が伝わっているであろうことが見て取れる。
体操着に、ぷくっとした突起が浮かんだ。
下着を着けていないらしい。

 

「…!!」

 

祐も若い男なので、敏感に反応するが、本人に注意することはできなかった。

 

「(ってゆうか…、透ける、とか、気にしないのか!?)」

 

―白雪さやか

 

「ふぅ…ふぅ…大口先せ…お願い…します…」

 

息を切らしながら、顔を赤くしたさやかが丁寧に挨拶をし、体重計に乗った。

 

ギイイ…

 

「………」

 

祐は硬直した、表示の数値は123s…
この体重計も、女子校の備品として購入されておいて、こんな数値を叩き出すとは思ってもみなかっただろう。
教室に入った時に、祐は確信した。
この洋ナシのお化け、もとい白雪さやかこそが、このクラス一の大物であろうと。
肉の洋ナシは、更に横幅も奥行もビッグになっていた。
ただし、昨日は電話帳ですんだ腹肉は、一晩でムクムクと突き出たようだ。
胸やお尻にとった遅れを取り戻そうとしているのか。
そういうわけで、(見ようによっては女性らしい美を感じ取れる)洋ナシ型さえも崩れつつあった。
何より悲惨なのは、他の生徒がぽちゃぽちゃぷっくりと風船みたいに、ある意味ではかわいらしく太っているのに、さやかはハーフの血のせいか、肉の量の差かは分からないが、なんとなく締りがなく、だらしのない太り方をしている。
アメリカの、一日中カウチでファースト・フードをむしゃむしゃ食っているようなデブ女を思い出した。このまま太り続ければ、クトゥルフ神話のクリーチャーみたいになってしまうのではないか?

 

―羽田佳代子

 

「よい…しょっと…先生、これなんか座りにくいよ〜」

 

座高の測定時、佳代子は座高計の椅子が狭いと文句を言った。
それもそうだろう。
佳代子は見事な「下半身太り」だった。
誤解をしないで欲しいのだが、上半身は上半身で、たっぷりと脂肪をまとっている。
しかし、腹から下は、上半身がすっきりしているように見えるくらい、異様な肉のつき方をしている。
腹が鏡餅のように、下にいくほど大きな段々をつくり、その鏡餅をしっかりと支える、腿、腰、尻の脂肪。なんか「安定感」を感じさせるデブだ。
学園指定の短パンをはいているが、キツキツで丈が短くなり、ブルマと誤認してしまいそうである。
短パンは下腹の膨らみを押さえきれず、腰のゴムが食い込んだ下からぼこっと紺色の塊が飛び出す。
そして、下腹に上から押されつつ、押し上げ返そうとするのは太ももの肉だ。
この太もものせいで、短パンの裾が押し上げられ、かつ、裾口にみっちりと肉が詰まっているので、ブルマのように見えてしまうのだ。
お尻は…さやかに次ぐ肥大っぷりだ。
腰幅は肩幅より広い。
さやかと違い、ふたつの塊はぷりぷりっと張りがある。
佳代子が歩くたび、連動して左右の尻肉がふりふり動く。
太い左右の脚が、歩くたびに互いに干渉しあい、歩きづらそうだ。

 

―日野飛鳥

 

「(くちゃくちゃくちゃ…)…お願いします。」
「あのさ…計測の時はお菓子、我慢してくれる?」

 

飛鳥は、お腹の肥大が凄まじい。さやかが洋ナシなら、飛鳥はリンゴだ。
体の中心がぽよーんと膨らんで、そこから、太い手足が生えている感じだ。
出産間近の妊婦のような腹をしている。女の太り方としては珍しい。
身長を測るために背筋を伸ばすと、ボヨヨンとした腹肉が空中にせり出し、大迫力だ。
座ると今度は水平方向に広がり、どっしりと腿の上に鎮座する。
なお、背筋を伸ばしたとき、体操着がめくれあがり、へそが顔を出してしまうというハプニングがあった。

 

「あれ? あれ? 服が縮んだ??」
「(服が縮んだんじゃない、お前の腹が出たんだよ…)」

 

その時はムリヤリに体操着を短パンに押し込めたが、やはり苦しいのか、計測が終わると、短パンをかなり下までずらした。
ぼるるんっと勢いよくまん丸なお腹が飛び出した。
お腹丸出しの、なんともだらしない格好だったが、祐は注意できなかった。

 

―真宮琴音(まみやことね)

 

「きみで最後か…」

 

この生徒とは、あまり話したことはなかったが、祐は彼女を知っていた。
琴音は、成績優秀な生徒である。
ただ勉強ができるだけでなく、冷静で判断能力に優れて、もろもろの学園行事では常に中心にいるので、目立つ生徒だった。

 

「(この娘は、そこそこだな…)」

 

琴音は、ふっくらとはしていたが、他の生徒と比べれば、軽量級といった具合である。

 

「先生、私太ったと思いませんか…?」
「!?」

 

祐は驚いた、最後の生徒になって、初めて生徒の口から「太った」という言葉が聞かれたのだ。

 

「先生、私、大丈夫なのでしょうか…?」
「あ…大丈夫さ、健康状態に異常はないみたいだし…」
「先生、この後はどこにいるんですか?」
「保健室で、測ったデータをパソコンに入力するつもりだけど…」

 

そう聞くと、琴音はぺこりと頭を下げて、祐の前から去った。

 

祐が2−Bの生徒に健康診断の終わりを告げると、生徒はさぁーっと帰ってしまった。
急いで食堂か水飲み場にいったんだな、と祐は推測できた。

 

 

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