朝比奈みくるの肉塊
#涼宮ハルヒの憂鬱
「・・・・・・」
例によって日曜日がやってくる。
今年は今まで平和な日曜日が来た覚えが無い。
というか日曜日自体まだ2回しか来てないが。
それよりも今日は誰も来ていない。
他のお客さんが次々と焼肉屋の暖簾をくぐっていくのを一体何回見届ければいいのだろう。
恐らく読者の方もこういう経験は絶対しているはずだ。している!!
早く来すぎて他のお客さんが次々とキャバクラに入店していくのに、自分ひとり待ちぼうけを喰らいいつまでたっても入店できないあの状況を!!
あれは・・・非常にさびしいものがあるぞ。
と一人さびしく暇つぶしに読者の方とお話をしていても仕方が無い。
「キョン・・・早かったわね・・・」
「さすがに6000円はきついぞ」
「キョン君、こんにちわ」
「早かったですね」
・・・・・・
お前ら、三人同時に現れるとはどういう了見だ?
俺だけ仲間はずれにされていたのか?
「さ、入るわよ!!」
どんっ!!
「ぐえっ!!」
ハルヒが景気づけに俺の背中を叩いた。
曙かなんかに殴られた衝撃が走った・・・。
「わ〜・・・おいしそうなにおい〜」
「香ばしい香りが食欲をそそりますね」
「ああ、今日は俺も朝飯抜き出しな」
「あ、アンタやる気ね?」
「当たり前だ。とはいってもこの前のお前みたいな無茶はしないがな」
とりあえず俺は懐に忍ばせた秘密兵器を確認する。
大丈夫だ。忘れてない。
緑のお薬は俺のポケットの中で待機している。
念のため、俺と朝比奈さんの分を持ってきた。
万が一、朝比奈さんのお腹がとんでもない事になったときこれを飲ませれば少しは落ち着くはず。
「じゃ、行くわよ!! 高校生4名食べ放題コースで!!」
店員に案内され小上がりまで店内を練り歩く。
さすがに人目が気になる。
俺と古泉ではなく・・・・
ハルヒと朝比奈さんに人々の興味の目線が突き刺さる。
まあ・・・無理も無い。
手持ちの服に着られるものがなくなってしまいぱっつんぱっつんに食い込んだホットパンツに太ももを食い込ませ、さらに恐らくハルヒの持っているであろう服の中で一番大きいと思われるパーカーをつんつるてんに着込み、腹の肉をはみ出させ震わせながら俺の前を歩くハルヒ。
さらに古泉の後ろには・・・・
白いワッフルコートに身を隠しているとはいえ、さすがにコートで覆いきれなくなった巨大な胸とお腹は目立つ。
それよりも問題なのは・・・・
「おい、ハルヒ・・・」
「なに?」
「お前、なんで朝比奈さんにあんな格好をさせる。ここは公共の場だ」
「いいじゃない!! みくるちゃんももう着れる服ないっていうし、それに一番おっきいのがあの服なんだから」
「そういう問題じゃない!! 今は何月だ? 一月だぞ? 冬だぞ? そういう時期にあんなの着せて風邪引いて休んだらどうするつもりだ!?」
「大丈夫よ。もうお肉いっぱいついてるから冷えないわ」
「せめてあの耳はなんとかならんのか?耳は」
「うるさいわね!! 耳が無きゃただのよく分からないレオタードじゃない!! そんなの認めないわ!!」
なんということか、ハルヒは朝比奈さんにバニーガールの格好をさせて来たのだ。
焼肉屋ですよ・・・焼肉屋。
そりゃあ、お客さんがみんなこっちを見るのも分かる。
小さな力士みたいな美少女とウサギさんの格好のまん丸な美少女が連なって歩いてたら・・・・。
「こちらになります」
店員の指示に従い俺は小上がりに上がる。
続いてハルヒ、古泉、朝比奈さん。
という順番に入るわけで結局俺はこの狭い小上がりの中でハルヒの隣に座る事となった。
「狭い・・・。もっと向こういけないか」
「無理よ!! もうお尻が壁にぶつかってるわ!!」
「まあいい・・壊すなよ。壁」
それよりも問題なのは・・・・
掘りごたつに足を入れなくてはいけないため、俺の足がハルヒと朝比奈さんの生足に圧迫される事だ。
60分この状態でいて立ち上がれるだろうか・・・・。
しびれてひっくり返る事はないだろうか・・・。
椅子の席にしてもらえばよかった。
「ご注文がお決まりになりましたらこちらのボタンを押してください」
店員が一人一人にメニューを配り、お絞りを渡す。
早速開くハルヒ。
「すいませんっ!!」
おい・・・店員いる間にメニュー決めたのか!!??
「上カルビ10人前、サガリ10人前、牛ロース10人前、ホルモン10人前、牛タン10人前、あとごはん10人前」
「まてっ!!」
「何よっ!!」
「人数を確認しろ!! ここには4人しかいないのになぜ10人分必要だ?」
「一人分じゃ足りないからよ!! アンタ、焼肉屋来た事ないの?」
「大丈夫ですよ、私も結構食べますから・・・・」
朝比奈さんまで満面の笑みで食べるとか言われても・・・。
「とりあえずそれでおねがいします」
おいっ!! 古泉!!
勝手にそれで注文するな!!
・・・・・・・
結局テーブルの上におびただしい量の肉が並んでいる。
だからいったこっちゃない。
一度に大量に頼むとテーブルから溢れて床に置く事になるんだから・・・。
「じゃあいっただっきまぁすっ!!」
「いただきますぅ!!」
「いただきます」
「・・・・いただきます」
じゅう〜・・・・じゅう〜・・・
ぱち・・ぱち・・・
肉が焼ける香ばしい香り・・・
ところ狭しと網の上に並ぶ肉がぱちぱちじゅーじゅーと食欲をそそる音を立てながら焼けていく。
くるり・・・・じゅー・・・
くるり・・・・じゅー・・・
程よく焼けたところで肉をひっくりかえす。
こういう焼肉屋にくると大体人間の性格が分かるものでやたらめったらひっくり返す奴。
せっかちで焼けてないのに食べようとする奴。
自分の置いた肉は自分の物として決して譲らない奴・・・・。
などなどいろいろと分かるわけだが、大体必ず一人はいる奴がいて・・・・
「キョン!! まだっ!!」
「待て、今とってやるから」
自分で肉を焼かないで食べる専門の奴がいたりする。
この図体だから余計そういうイメージが沸いてしまう。
いや、多分太って無くてもそうだったはずだ。間違いない。
俺はハルヒのさらに肉を取ってやる。
「それも!! あ・・それも焼けてるでしょ?」
次から次へと指示が出され、俺はその指示に従い肉を拾う。
「うわぁ・・・・ほんっとおいしそう〜っ!!」
ハルヒの箸が容赦なく肉を掴み口へと運ぶ。
もぐもぐ・・・・
ごっくん!!
「お・・・・いっしィ〜〜〜っっ!!!」
肉を飲み込んで一瞬溜めを作り、その直後耳がキ〜ンとなるような声で感想を述べる。
頼むから『味のなんとか革命』とかわけの分からない事だけは言わないでくれよ。
一方、朝比奈さんは自分で焼いてひっくり返して・・・・
「どうぞ」
「ありがとうございます」
おいっ!!! 古泉!!!!
なぜお前だけ朝比奈さんに肉を取ってもらっている!!??
お、俺も・・・・
「あ、朝比奈さん・・・・」
「あ、キョン君の分も取ってあげますね」
おお・・・・
「キョン!! 次っ!!」
ばっ!!!!
突然俺の目の前に皿が飛び出す。
ハルヒが肉を速攻で食べつくしてしまった。
次の肉をよこせと指示が入る。
「ちょっとまて・・・・」
ぱっ・・・ぱっ・・・・ぱっ・・・・
「はいよ」
「ありがと」
もぐもぐ・・・むしゃむしゃ・・・・
「次」
ぱっ・・・ぱっ・・・・ぱっ・・・・
「はいよ」
「ありがと」
もぐもぐ・・・むしゃむしゃ・・・・
「次」
ぱっ・・・ぱっ・・・・ぱっ・・・・
「はいよ」
「ありがと」
もぐもぐ・・・むしゃむしゃ・・・・
「次」
・・・・・・
・・・・
・・
「自分で取れ」
「やだ」
「お前、それじゃあ俺が食えないだろう」
「食べなくていい」
「バカいうな!! 俺だって金払ってるんだ!! 俺も食わせろ!!」
ハルヒがさっきから俺に肉を取らせるので、俺はまったく肉が食えない。
しかも10人前のご飯も、ハルヒと朝比奈さんが全部食べてしまった。
「古泉、なんとか・・・・え?」
古泉に助けを求めようとした俺は見たくない光景を見てしまった・・・・。
「はいどうぞ」
「あ〜ん・・むしゃむしゃ・・・おいひいれすぅ」
ちょっとまて、確かにあ〜んと食べる方が逆にはなっているがそれでも許せん。
古泉が肉を取って朝比奈さんに食べさせてあげてるのだ。
しかも直接箸で朝比奈さんの口に運んであげている!!
「こ、古泉・・・? 何をしている?」
「いえ、朝比奈さんがおいしそうにお肉をほおばる姿を見ていてつい愛らしくなってしまって・・・・こうやって食べさせてあげているのですよ」
「次はまだ?」
「あ、はい・・・っと、どうぞ」
ハルヒよ・・・お前もこれくらい愛らしくは出来ないのか?
それよりも、古泉・・・代われ・・・・。
ぴんぽ〜ん
と、突然ベルの音が鳴る。
ハルヒがボタンを押して店員を呼んだのだ。
まだ20分と経っていない。
「軟骨20人前、トントロ30人前、骨付きカルビ20人前、豚サガリ30人前、ハラミ30人前、豚ロース20人前・・・・」
「まて、さっきより多い!!」
「それからえっと・・・これとこれとこれをそれぞれ30人前で」
「おいっ!! 無茶を言うな!! この部屋に置けなくなる!!」
「あ、店員さん。それでお願いします」
「古泉!! 俺の話を聞け!!」
「かしこまりました」
「ってていうか店員さん!! ちょっと!!」
てくてくてく・・・・
「ふぅ・・・この調子だとまだいけるわね!!」
隣でハルヒがパーカーから腹を丸出しにしてさすっている。
もう・・・・これは女の子の姿とは言えないな・・・・。
パンッ!!
ハルヒが腹を叩いた・・・・。
やめろ・・・・親父臭い・・・。
「まだまだ足りないです。私、もしかしたら今日涼宮さんよりいっぱい食べれるかも・・・・?」
朝比奈さん、あなたまでお腹をさすらないでください・・・。
「頑張ってください、期待してますよ。向こうのチームに負けないように僕も応援します」
「ちょっとまて、いつからここは大食い選手権になったんだ?」
「いいじゃない、その方が面白くて」
腹を突き出しふんぞり返っているハルヒが俺に向かってえらそうな口を叩く。
いつの間にかホットパンツのボタンも外し腹全開モード。
「どうやって勝負つける気だ? だいたい、これじゃあどっちがどれだけ食ったかなんてわからんだろう。回転寿司みたいに皿の数じゃ判定できんぞ」
「お腹がおっきくなった方が勝ちってのはどうですか?」
割ってはいる朝比奈さん。
「朝比奈さん、それは危険すぎるからよした方が・・・」
「いいっ!! 採用っ!! みくるちゃん、たまにはいいこと言うじゃない!!」
「ハルヒ、黙れ」
ドガッ!!
ハルヒの大木のような二の腕が俺の顔面を叩きつける。
「じゃあ制限時間内にお腹をおっきくした方が勝ちって事でいいわね!! 負けた方は来週のグランドホテルのディナーバイキングおごり!! いいっ!!」
「ええ、いいですよ」
「じゃあもう味わってなんか食べていられないわ!! どんどんお腹に詰め込むわよっ!! 覚悟なさいっ!! みくるちゃん!!」
「のぞむところです!!」
「おお、朝比奈さんが涼宮さんと真っ向勝負するのもまた・・・。これは楽しい食べ放題になりそうですよ」
やんややんや・・・・
人を裏拳でぶっ飛ばしたハルヒを中心に朝比奈さん、古泉の輪が出来ていた。
もういい、勝手にしてくれ。
「ほらっ!! キョンっ!! そこら辺全部焼けたから取って取って!!」
「はいはい・・・ってかこりゃだめだ、焼けてない・・・」
「多少の事はいいのっ!! 牛肉は生でも食べれるっ!!」
「知らんぞ・・・・腹壊しても」
俺はハルヒの専属肉係にいつの間にやら任命され、ハルヒに肉を運び口に放り込んでやる。
ハルヒはただひたすらその肉をよく噛みもしないで飲み込んでいく。
肉ばかりでなくて野菜も食えよ・・・・。
一方の朝比奈さんは古泉をパートナーに向かえこれまた俺と同じく、古泉の運ぶ肉を朝比奈さんが頬張っていく。
さすがに今度は肉の量が多すぎたと見え、小上がりのスペースに収まりきらない肉を調理場でストックしておいて皿が空くたびに即、次の肉が運ばれてくるようになった。
すいません、『焼肉の豊満園』さん・・・・ご迷惑おかけします・・・。
もう食べるというよりも詰め込むという状況になり、結局コンロの火力を最大に上げ肉の焼けるスピードを速めなくてはならなくなった。
じゅうっ!! じゅうっ!! じゅうっ!!
ぽいぽいぽいっ!!! ばくばくばくっ!!!!!
非常に・・・・おいしくなさそうだ・・・・。
ぴんぽ〜ん
「お客様、とりあえず前回のご注文分はすべてお出ししましたので次のご注文をお願いします」
いつの間にかあの鬼のような量の肉をすべて完食してしまったハルヒと朝比奈さん。
続いて次の注文に入ろうとする。
「じゃあ・・・次は・・・」
「ストップ、二人とも一回立って!!」
「??」
「なによ!!」
「いいからっ!!」
俺の指示にしぶしぶハルヒと朝比奈さんが立ち上がる。
「じゃあ二人とも俺にお腹を出して!!」
「いったいナンなのよ!!」
「いいから出しなさい!!」
「もうっ!!! はいっ!!」
俺の前にパンパンに膨れ上がった腹を突き出すハルヒ。
俺は座ったままハルヒの腹に手を当てぐいぐい押してみる。
「ば、バカっ!! 押したら出るでしょ!!」
うん・・・・まだ大丈夫そうだ。結構膨れてるけどとりあえずはオッケー。
「次、朝比奈さん」
「はい・・・」
恥ずかしそうにお腹を突き出す。
目いっぱい食べてハルヒに負けないくらい膨れ上がった腹は既にバニーガールのレオタードを引き伸ばし、いつ飛び出してくるか分からない状態。
ぐいっ!! むにっ!!
パンパンの張りの中にもほどよい弾力・・・そしてこの肉の柔らかさ・・・・。
極上のお腹だ・・・。まだまだ余裕たっぷり。
これはハルヒの負けだな・・・・。
「よし、とりあえずまだ食べてよし!! ファイッ!!」
俺は二人の腹の具合を確認すると試合続行の合図を出す。
「あ、あんた、そんなことでお腹触ってたの?」
「この前みたいなことをされたらかなわないからな。もし俺が見て危険と判断した場合はレフリーストップをかけるからそのつもりで」
「そんなの必要ないわよ。アタシはちょっとやそっとじゃギブアップしないから。じゃ早速注文・・・・っとめんどくさいわ、もうお任せで」
「かしこまりました」
とうとう注文するのもめんどくさくなりお店側に時間いっぱいまで肉を出してもらう事にした。