792氏その8

792氏その8

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「…オンリーワンのデブ… ですか」
その言葉の意味を考えた三田村は少し青ざめた。
「アメリカとかならともかく、日本じゃせいぜい三桁ちょっとのデブが関の山だけど… それじゃあ、あの人はとても満足しないだろうからね。彼女はこれで生まれ変わる… 誰もが振り返る、巨大な肉の塊に」

 

そう言って、学は机の上に置かれた小瓶を手に取る。
それには、どろりとした透明の液体が満たされていた。
「本当はこういうのを使わずに正攻法で太らせたいけど、そうも言っていられないからね」
「そうですね。もうあまり時間の猶予はありませんから」

 

その液体は、学が独自のルートを駆使して入手したアマゾン奥地の未開部族に伝わる秘薬である。
その部族では女性らしい豊満な肉体が美人の象徴として好まれるのだが、栄養状態の悪かった昔ではそのような身体を得る事は困難だった。
だが、この秘薬を飲む事で、容易にふくよかな身体になる事ができるのだ。
今では失われてしまった技術であるが、村の古老に頼み込んで何とか精製した貴重品である。

 

「効能は質素な食事でもふくよかな身体を得る… つまり効率良く体内に脂肪を蓄えるって事さ。コレを今の一日で5000カロリーは軽く食べる彩香さんに飲ませれば… ククク、楽しみだね。」
「…若、ひとつ聞いてもいいでしょうか」
「なんだい?」
「はじめからこの薬を使えば良かったんじゃないでしょうか?」
「いやいや、そういうワケにもいかないんだよ。コレの効果はその人間の体重に比例するらしくてね。一年前のスリムな彩香さんに使っても、せいぜい小デブになるのが関の山だった」
「成程… わかりました。では、ご指示通りトレーニング中のスポーツドリンクに希釈したものを入れておきます」

 

こうして、次の日からほんの少しづつ、だが確実に… 薬の効果によって、彩香の身体は更に贅肉を纏っていった。

 

 

トレーニング後、食事を終えていつものように昼寝をしていた彩香は、喉の渇きに目を覚ます。
季節は真夏。太りきった自分の身体は強烈にかけた冷房でもぐっしょりと汗をかき、着ていたタンクトップは寝汗で汗ばんでいる。

 

「よ、よいしょっと…」
身体を起こすのが、最近辛い。文字通り重い腰を上げ、ベッドの横の小型冷蔵庫から炭酸飲料のペットボトルを取り出し、豪快に飲み干した。

 

…コーラなんて、家に居た時は下品なジャンクフードだと思っていたのに、こんなに美味しかったなんて… いや、今の私には… お似合いの飲み物かもね。
そんな事を自嘲気味に思ってしまう。

 

次に、汗ばんだ顔を洗おうと洗面所に向かった。
少し歩いただけで、ぶるんぶるんと自分の乳房が揺れるのが分かる。
乳房だけではない。お腹も。お尻も、太股も… それぞれがはっきり分かるほど歩く度に揺れている。
内股に歩いているわけでもないのに、太股同士が擦れ合う。
股ずれという奴だ。それ程に自分の脚は太くなってしまっているのだ。
今履いているジャージも、内モモの部分が股ずれで少しほつれてしまっている。
痩せていた時には、自分には関係のない他人事だと、堕落したデブだけの事だと思っていたのに…

 

そして洗面所で鏡の前に立つとぶくぶくに膨らんだ自分の顔が飛び込んでくる。
頬はぷっくりと膨らみ、赤みを帯び、顎は二重顎、首は曖昧になってきた。
見るたびに憂鬱になり、目を背けたくなる自分の見事なデブ顔…

 

無理もない。もはや自分の体重は150kgをゆうに超えているのだから。
しかも、ここ三ヶ月足らずで50kgもの大増量だ。
以前の自分とさして変わらないだけの重量が、急激に身体に付いた計算になる。

 

「それにしても、私の身体… どうなってるんだろう…?」

 

どう考えても、異常なペースで太り続ける自分の身体。
このまま行けば、いつか自分では身動きも取る事もできない、肉の塊になってしまうのだろうか…?
…だが、同時にそこまで太ってしまったら、どうなるのだろうという期待を、僅かながら今の彩香は抱いていた。

 

(な、何考えてるの私… どうかしてるわ)

 

頭の中に芽生えた異常な妄想を必死にかき消す。

 

どうも自分は最近、彩香は鏡の前の太っていく自分の姿に性的な興奮を覚え始めているのだ。

 

醜く強制的に太らされるこの生活は、これまで満ち足りていた彩香に強烈なコンプレックスとマゾヒズムを植え付けていた。
だが、至極まっとうに暮らしてきた彩香には、そんな変態的な感情が自分に芽生えた事を認めたくなかった。
その葛藤がまた、たまらなく自身を興奮させている。
こうして鏡の前に立っていても、自重に負けてだらしなく垂れ始めた、もう爆乳といってもいい程に巨大化した胸や、脇の下ににゅっとはみ出た贅肉、ぱんぱんに膨らんだ極太の二の腕… そして何より、出産間際の妊婦のような出っ張った巨大なお腹が、妙な興奮を掻き立てる。

 

しばし自分の姿をぼんやりと見ていたその時、コンコンとノックの音が部屋に響く。
その物音にはっ、と我に帰る彩香。

 

ドアが開くと、三田村が給仕台を押して大量の夕食を部屋に運んできていた。
「お待たせ、彩香さん。今日もトレーニングお疲れ様。しっかり食べてね」
「あ、ありがとうございます…」
そう彩香が生返事をすると、三田村は部屋から出て行く。

 

心では一応これ以上食べてはいけないと思っていても、身体は運び込まれてきた
大量の食事にもう当然のように反応し、既に食事の臨戦態勢をとっている。
口の中には唾液が溢れ、胃や腸はまるで待ってましたといわんばかりに唸りを上げているようだ。
三田村が部屋から出ると同時に、重たい身体が嘘のように軽快に食卓へと足を向け、椅子にどっかりと大きな尻を腰掛ける。
…もはやパブロフの犬のような見事な条件反射だ。

 

(嫌ぁ… モグモグ、もう、クチャクチャ、食べたくないよぉ… ズルズル、これ以上太ったら、ズズーッ!、私… 私…)

 

自分が太っていく、醜くなっていく恐怖感に、僅かながら芽生え始めたどこまで太っていくのだろう、という期待感、醜い自分を確認するマゾヒズムを複雑に入り混ぜながら、もりもりと夢中で食事を食べていく…

 

その姿にはかつての上流家庭の令嬢の面影など微塵もなく、
傍から見れば肥えさせられるだけの家畜…
豚を思わせるのに、もはや十分だった。

 

 

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