792氏その8

792氏その8

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それからも、彩香の体重の増加は止まらなかった。
もはや完全に日常で見られる範疇を超えた身体になってしまった彩香は、今では屋敷の誰よりも巨大な肉体を持つデブになっていた。
毎朝のトレーニングのお陰で、見た目とは裏腹に運動はでき、体力もかなりあるものの、流石に走ったりする動作はいささか辛く、運動メニューには足腰に負担をかけないプールやストレッチなどの占める割合が多くなった。

 

今朝も、屋敷内の屋内プールでメニューをこなす。
はじめはこの姿での水着姿に抵抗があったものの、もう慣れた。
水中では自分の重たい身体も少しは軽く感じる為に、今ではプールが待ち遠しいくらいだ。

 

大きな水着を肉でパンパンに風船のように膨らませ、プールを波立てながら泳ぐ彩香の姿は、昔の美しいボディラインはとうに消え失せ、今やまるでトドやセイウチを思わせる。

 

「よし、今日はこれまでにしようね。上がっていいよ彩香さん」
ストップウォッチを片手に、学が声をかけた。

 

「ぷはぁっ、ぷはぁっ」
水から出ると途端にのしかかってくる自分の身体の重みを感じながら、ゆっくりと梯子を上がりそのままプールサイドにへたりこんでしまう。
滝のような汗を流しながら、がぶがぶと失った水分をスポーツドリンクで補給する。
肥満薬の入ったドリンクである事など、もちろん彩香は知る由もない。

 

「お疲れ様。ハイどうぞ」
学から受け取ったバスタオルは、巨大な彩香の身体と相まって錯覚を起こし小さく見えるほどだ。

 

「うんうん、随分立派になったね。僕も嬉しいよ」

 

彩香の身体を見ながら、学は満足そうに呟く。
それはまるで美味しそうに丸々と肥えた… 家畜を見るような口調だった。

 

「…そう、ですね…」

 

一方、彩香の心中は複雑だ。
ここまで太って尚、膨れ上がる自分の体重に、もう歯止めのきかない食欲。
…そして太っていく自分に対する興奮。
これ以上太っては、完全に後戻りができなくなってしまう。
自分は一体どうなってしまうのだろうという不安を、食べ物で紛らわせる日々はいつまで続くのだろうか。

 

「さてと、もう昼前だし、彩香さんもお腹が空いただろう? いつものように、部屋に食事を用意させているからね。どんどん食べて、もっと太ってね」

 

にっこりと笑う学の無邪気な態度が恐ろしい。自分はあとどれ程太らされるのだろう。
もう、体重は200kgに達しようかというのに…
だが、朝から何も食べていない空腹感に勝てるはずもなく、水着姿のまま自室に戻っていく彩香。

 

(しかしあの薬は恐ろしい効果だね… 下地ができていたとはいえ、ここまで太るとは正直思わなかったよ。まるでドラム缶のような胴体に立派な贅肉の段差ができて…
フフフ、…そろそろ頃合いかな)

 

彩香の大きな後姿を見ながら、学の口元が少し緩む。
そして、彩香がいなくなったのを見計らって携帯電話を取り出した。

 

「あぁ、もしもし? 三田村さん。うん、そろそろ例の… そう、手配をお願いできるかな」

 

 

その翌朝、彩香はノックの音で目を覚ました。
眠い目をこすりながらドアを開けると、三田村が紙袋を手渡してくる。

 

「おはよう、彩香さん。これに入っている洋服に着替えて、至急、1階のダイニングに来てくれるかしら」

 

それだけ告げると、三田村はさっさと1階に降りてしまった。

 

(着替え… って事は、この中に入ってるのは洋服…?)

 

部屋に戻った彩香は紙袋の中身を取り出す。

 

(な、何なのよこれ…)

 

取り出したものは予想通り洋服だった。
だが、そのデザインが今の彩香には大きな問題だ。

 

それは、セクシーなピンクのキャミソールと、デニム生地のホットパンツだった。
もちろん、彩香の現在のサイズに合わせた規格外の特大サイズの、である。

 

以前の痩せていた頃ならまだしも、今の超デブの自分がこんな恰好になるなどとても正気の沙汰では無いだろう。躊躇する彩香だったが三田村は「至急」と言っていた。
下手に遅れては、また何をされるか分かったものではない。
もし食事を抜かれでもしたら、今の自分は一番きつい。
渋々ではあるが、洋服に袖を通す事にした。

 

ウエスト部分が大きすぎる珍妙な型のホットパンツは、足一本に楽々人間が入れるくらいの太さだった。
そんな特大サイズも履いてみると、今の彩香にはぴったりとフィットしてしまう。
極太の彩香の白いでっぷりとした大根足が露わになった。
ホットパンツは柔らかい彩香の下半身の脂肪に無残に食い込んでいる。

 

薄いピンクのセクシーなキャミソールも、まるでカーテンを思わせる巨大さだ。
身体にフィットする素材はやや小さめなのか、彩香の身体にぴったりと密着し、肩紐がボンレスハムのような段差を形づける。
胴回りの生地ももちろん同じく、三段腹や脇腹の段差をくっきりと際立たせた。
薄いピンクの生地は更に伸び切り、今にもはち切れそうである。

 

太い二の腕は当然丸見えになり、動く度にぷるぷると揺れている。

 

(やっぱり、酷すぎるわ…)

 

おそるおそる覗いた鏡の前の醜い姿に思わずげんなりしてしまう。
今の超デブの自分には、当然ながらこの露出度の高いファッションは目も当てられない程に最悪だ。
だが、そんなミスマッチな自分の姿に… どこか興奮もしていた。

 

(ハァ… もう、人並みにお洒落もできない身体なのね… それにしても何て太っちゃったのよ私…)

 

お腹の皮下脂肪を抱え込めば、どっしりとした重量感が両手に伝わってくる。
手を離すと、ぶるん、という音が聞こえてくるように振動する脂肪。
横を向けば、まるで巨大な冷蔵庫を思わせる奥行きのある巨体。
胸と腹は前に、尻は後ろにそれぞれ遠慮なく突き出している。
200kg近い自分の身体と、セクシーな服装は常識的にはグロテスクすぎる組み合わせのはずだ。
だが、不思議と鏡の前から目を離せない。
高まる鼓動、上昇していく体温… ぶわっ、と汗が吹き出してくる。

 

(ハァッ、ハァッ、な、何なんだろう。この気分…)

 

妙な高揚感に襲われつつあったが、脳裏にうっすらと刻まれた三田村の「至急」という言葉が、かろうじて彩香を正気に戻した。
やや興奮で顔を紅潮させながら…言葉通り1階のダイニングに向かう事にした。

 

ダイニングルームには、既に三田村と学が椅子に座っている。

 

「おはよう、彩香さん。いやぁ、流石に元が美しいだけあってよく似合うね」

 

いつもの調子の学の言葉も、今は皮肉にしか聞こえない。
どうせ、私のこの惨めな格好を見たかっただけだろう、とムッとする彩香。
だが、次に聞いた言葉は予想外の一言だった。

 

「さて、じゃあ準備はできたし、一緒に外出しようね」

 

学がそう言うと、案内されるままに玄間のドアから駐車場に向かう。
いつもなら、玄間には見張りがおり、当然彩香は外に出る事などできはしない。
彩香にとっては一年以上ぶりの外出である。

 

高級車の後部座席を自身の巨大な尻で占拠し、腰掛けると隣にそれぞれ学と三田村が座り、車は走り出す。

 

…高級車の広々とした車内も、今の自分には少し窮屈に感じる。
今や自分は横幅だけで、細身の女性の二人分はあるかもしれない。

 

思えば、この屋敷に連れて来られて1年余り、自分はここに監禁され、強制的に家畜のように肥育させられてきた。その結果が今のこの変わり果てた姿だ。

 

1年余りの僅かな期間で、自分の姿は文字通り大きく変貌してしまった。

 

出産間近の妊婦も真っ青の巨大な太鼓腹や、丸太のような太股、
顎の辺りを触れば、首ではなく脂肪の感触がする見事な二重顎。
両隣の学と三田村を足しても、今の自分の体重には遠く及ばない。

 

はぁ、と溜息を漏らすと、せり出したお腹もまた更に膨張するのだった。

 

しばらく車は走り、小一時間ほど経った頃だろうか。
外の景色の緑がやがてビルディングに変わっていき、車は都心の市街地に辿りついていた。

 

渋谷センター街。
日本でも屈指の人通りの繁華街は、今日も賑わいを見せ、右も左も人、人、人で埋め尽くされている。日曜日という事もあり、その量は半端ではない。

 

車が止まると、それまで黙っていた学の口が開かれた。

 

「さてと、じゃあ彩香さん、ここで下りて。散歩してきてよ」

 

…思わず、彩香は耳を疑った。

 

「こ、こんな人の中を、こんな恰好で!?」

 

思わず、彩香の声のトーンも一段高くなる。

 

「この繁華街を、ここから真っ直ぐ通り抜けるだけでいい。それが済んだら食事にしようね。もちろん、逃げるなんて無理だよ? 遠巻きから監視もつけるからね」

 

彩香に構わず、学は楽しそうにこう告げた。

 

「嫌です! ただでさえ… こんなにデブなのに、おまけにこんな恥ずかしい恰好で外を歩くなんて…!」

 

身を乗り出して拒否する彩香はその巨体と相まってなかなかの迫力だ。

 

「…彩香さん、もう付き合いも長いんだし、これ以上言わなくても分かる、よね?」

 

だが、それを遥かに超える圧力の学の言葉。
助手席と運転席にはいかにも強面の黒服もいる。

 

(…ダメだ。どうしようもない)

 

屋敷内の生活で身を持って体験して培われた感覚が、そう告げていた。

 

「わ、わかりましたよっ!! 行きます! 行けばいいんでしょう!?」

 

もはや半ベソの表情の彩香は、諦めた様子で自ら車から降りる。
こうして哀れなデブ女は、休日の繁華街に放り出されてしまうのだった。
車はすぐに走り出すと繁華街の出口側に向かう。

 

「それでは、撮影を開始します」

 

走る車の車内、三田村が無線のスイッチを押すと、外で待機している監視者… いや、撮影班に各自スタートの合図が送られた。

 

「さて、いい画が撮れるといいんだけどね。あんなデブ女が、あんな恥ずかしい恰好でこんな人で溢れ返った雑踏を歩くなんて、いかにもあの人の好きそうなシチュエーションだし、さ」

 

 

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