394氏その1

394氏その1

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#東方Projectシリーズ

 

霊夢から逃げるように飛び出した魔理沙は早まった鼓動を何とか抑えようと必死だった。

 

(私だけじゃなかった)

 

霊夢には悪いが自分より大きく太った彼女を見たときは内心ホッとした。
男の子のような言葉遣いで性格もさっぱりしている魔理沙だったが、やはり年頃の女の子。
自分の容姿くらい気にしているのだ。
霊夢にはバレなかったようだが体重が増えてきたことには数日前から気づいていた。
実は魔法の研究に勤しんでいたというのは事実で、うっかり寝食を忘れることもあるくらいだったのだ。
当然宴会もしてないから食事量は質素と言えるレベルだったし、
運動だって魔法の材料のキノコを探して森を飛び回ってたから十分足りていたはずだ。
魔理沙が体重増加に感づいたのは三日前、風呂で体を流していたときだった。
僅かにだが下腹に身に覚えのない肉が付いていたのに目敏く気づいたのだ。
慌てて体重を計ってみると3キロのプラス。
翌朝恐る恐る計ってみたら更に2キロプラス。
まさか異変か? とも思ってはみたが、こんなちっぽけな変化が「幻想郷を脅かす異変」とは考えにくい。
もしも自分の不摂生が原因で太ったのだとしたら、異変のせいにして見ないフリをするのは恥ずべきことだ。
そんなわけで一日絶食して走り回ってみたのだが、今朝の体重測定では5キロのプラス。
いくら何でもおかしいと思って霊夢の様子を見に行ってみたら…

 

(私はまだマシな方なんだな)

 

全く。迷惑な異変を起こすやつもいたものである。
見つけ次第、全力でふっ飛ばしてやる。
意気込んだ魔理沙をからかうように冷たい向かい風が吹いた。
首をすくめてマフラーを口元まで引き上げる。
怖いもの知らずの魔理沙にも弱点はある。寒さだ。

 

「う〜。この数日で一気に寒くなったな。デブは寒さに強いって聞いたが10キロ増えたくらいじゃ体感温度は変わらないのか?」

 

紅魔館は湖のそばに建つ。目的地に近づけば近づくほど寒さは厳しくなるだろう。
慣れた道のりだが寒さばっかりは慣れでどうにかなるものではない。
それにしても妙に静かである。
いつもなら悪戯好きな小妖精たちがちょっかいをかけてくるものなのだが。
多くの妖精たちは暖気を好む。この寒さでは物陰で凍えているのかもしれない。

 

「今年はどうも寒すぎる気がするぜ。こんな日に喜ぶのは氷精か冬の怪くらいだな」

 

ぼやいていると再び強い風が吹き付けてきた。白い息が流れていく。
そのあまりの勢いにたまらず目を瞑って舌打ちをした。

 

「まだよ、こんなんじゃまだまだ寒くならないわ〜」

 

「!!」

 

目を瞑っている一瞬の間に何者かが進路に立ちふさがっていた。
その体を見た魔理沙は思わずポカンと口を開けてしまった。

 

「せっかく冬が来たというのに、今年はなんでこんなに暑いのぉ〜?」

 

目の前に現れた少女はまるで雪だるまのような体型をしていた。
大きく丸く膨れた顔、お腹、白い肌。首はない(ように見える)。
一体どういう素材で出来ているのか、身にまとった衣服はゴムのようにびろーんと伸びて体にぴったりフィットしている。
真面目に雪だるまの妖怪なのかと納得しかけていた魔理沙だったが、その服装には見覚えがあった。

 

「あ、もしかしてレティか?」

 

「もしかしなくても私よ」

 

レティ・ホワイトロック、冬にのみ出現する寒気を操る妖怪だ。
もともとふっくらした少女だったが、これはまた大きく成長したものである。

 

「せっかく寒くなってきたと思ったのに、出てきてみたら急に暑くなりだしたのよ〜。仕方がないから私の力の及ぶ範囲だけでも冷やして回ろうと思って」

 

「この数日の寒さはお前が原因か。全く迷惑な奴だぜ。大体、急に暑くなったのではなく、急に太ったの間違いだ。そうか、デブは寒さに強いってのは事実だったんだな」

 

あれだけ太れば防寒具も必要ないのだろう。
寒がりとしてはちょっと羨ましいが、花も恥じらう年頃の少女としては勘弁願いたい体型だ。

 

「とにかく、私か霊夢が異変を解決すればこれ以上暑くなることはない。もとい、太ることはないぜ」

 

「その前に参っちゃうわよぅ」

 

と、のんびり嘆くとレティは何の前触れもなくスペルを発動した!
強烈な冷気が辺り一帯を包み込み、吹雪のレーザーが舞い、雪弾が飛び交う。

 

「うわっと!? おい、脳みそまで脂肪になったのか? 宣言なしにスペルを発動するのは反則…… なっ!?」

 

爆発した冷気の威力に比べて自分に飛んでくる弾が少なすぎる。
訝しむ間もなく魔理沙はすぐに理解した。
間違いない。レティは魔理沙を攻撃したのではなく、レティ自身に向けてスペルを放っている!

 

(本当におかしくなってしまったのか!?)

 

恐らく熱を冷まそうとしてのことなのだろう。それにしたってムチャクチャだ。
大体、いくら矛先がこっちに向いていないにしても流れ弾が飛んできて危険極まりない。
更に周囲の気温が急激に下がるため、魔理沙の動きはどんどん鈍っていく。

 

「ま… まずいぜ、このままじゃジリ貧だ…」

 

一旦退けば危険は回避出来るだろう。だが、ことは一刻を争う。
レティがあの地獄の冷房を停止するまで待っていたら季節が巡ってしまうかもしれない。
かと言って敵意はなく、決闘の申し込みもしてない相手に攻撃していいものか。
少々躊躇う。
(霊夢なら躊躇わずに攻撃したに違いない)
流れ弾も次第に弾数が増してきた。吹雪で視界も悪い。
遠のきつつある意識に鞭打って魔理沙は活路を探しながら箒を滑らせていく。

 

「……ん?」

 

吹雪で白く霞む視界に何かが映った。

 

「なんだ… あれ」

 

それは弾だった。黄色いぶよぶよとした気味の悪い弾。
しかし、何故か魔理沙はそれにひどく惹かれていた。
朦朧としていたからなのかもしれない。まるで吸い寄せられるように弾に近づいていく。
レティが撃ち出した弾とは別物なのか、それは熱を放っている。
暖かい。そう考えたところで意識に限界がやってきた。
小さな火にすがるマッチ売りの少女よろしく無意識に手を伸ばす。

 

バチッ

 

「っ!?」

 

強烈な静電気を喰らったような感覚に魔理沙は我に返った。
わずかに遅れて被弾したことに気づく。
だが普段と違って怪我をすることも力が抜けることもなかった。
代わりに下半身が熱くなってくる。妙な快感が襲ってくる。
集中力が散漫になって箒から落下しそうになり、慌てて強く柄にしがみついた。
が、それがまずかった。箒に跨っていたのが災いしたのだ。

 

「ひぁっ!?」

 

股が柄に擦れて思いもよらぬ刺激をもたらした。
おかしな声を上げてのけぞってしまう。
そんなことをしている間にもレティの狂ったような弾幕が迫ってきている。
今度は寒さとは別の理由で朦朧としながら、魔理沙は必死に箒を制御し続けた。
だが、雪弾を避けようとするとどうしても黄色い弾にかすってしまう。
かする度におかしくなりかける。そのうち、なんとか耐え続けた魔理沙もついに弾道を見誤った。

 

「しまっ…!!?」

 

幸か不幸か、魔理沙が真っ正面から突っ込んだ弾はレティの雪弾ではなかった。
黄色い弾…… 彼女が知らぬところで霊夢を戦慄させた、あの肥満弾だった。

 

「いっ、あぁぁーっっっ!!?」

 

それこそ発狂寸前の快感が下半身から頭頂部まで一気に突き抜ける。
そのときの彼女は思考が真っ白で自覚していなかったが、
もしそこに第三者がいればその体がみるみる肥えていくのが見えただろう。
箒を握り締める指がむくむくと膨らむのも、肥大化していく尻が柄に食い込むのも、余裕があった胸部がピチピチになるのも、腹が出たせいでエプロンの紐が引きちぎれて落ちていくのも。

 

「や…、だめぇ…っ!!」

 

 

快感が絶頂に達すると同時に今まで攻撃できずにくすぶらせていた魔力が暴発する!
視界を遮る吹雪も雪弾もかき消し、凍てつく大気すらも震わせる魔力の放出。
力の暴走が生み出した弾幕にはもはや見栄も外聞もあったものではない。
辺り一面に滅茶苦茶な軌道で弾やレーザーが吹き出す。
それはあまりにも豪快なエクスタシーだった。
やがて空中で果てた魔理沙は地上へと墜ちていく。
すんでのところで箒に魔力を流し込み墜死は免れたが、無理な着地のせいであちこちを擦りむいた。

 

「うぅ…」

 

その痛みで次第に意識がクリアになっていく。
ようやく焦点が合った魔理沙の目に映ったのは、かろうじて箒を掴んでいる自分の手だった。
ただし、それは今までに見たことがないほど膨れ上がっている。
むくみ、などというレベルではない。指にまで贅肉がこびりついているのだ。

 

「う…… うぁぁ…」

 

擦り傷だらけだが骨に異常はないらしい。
恐る恐る体を起こすと手や腕だけでなく、全身が満遍なく肥満化しているのが分かった。

 

「う、わ……っ」

 

自らの身に起きたあまりの出来事に絶叫しようとした魔理沙だったが、
自分のすぐそばに転がっている肉塊に気づいて悲鳴を飲み込んだ。

 

「ひっ!? な、ま、まさか、まさかな? レティ…?」

 

限界までパンパンに膨れ上がった白い塊。
あの攻撃で服は消し飛んだらしく全裸だったが間違いないだろう。レティだ。
見ると顔だけは真っ赤に火照らせて人事負省に陥っていた。

 

「…雪だるまにしてはバランスが悪すぎだぜ」

 

もちろん顔も大きくなってはいるのだが、それ以上にお腹が膨れていてまるで雪玉である。
自らのスペルで引き寄せられた肥満弾と、魔理沙の魔力暴発で引き寄せられた肥満弾、
それらをもろに被弾した結果なのだった。

 

(あれに被弾するとこうなるのか?)

 

もしもあの一発でレティが倒れなかったら。背筋が冷たくなるのを感じる。
今回の異変では戦いが長引けば長引くほど肥満化してしまう?

 

「上等だぜ。要は立ちふさがる者はさっさと倒せばいいだけだ」

 

この際、自分の攻撃で相手がどんなに太ろうが気にする余裕はない。
異変解決前に動けなくなっては意味がないのだから。
ショックから素早く立ち直った魔理沙は再び箒に跨った…… 下半身の疼きをちょっと警戒しながら。

 

「よし。まだ行ける」

 

箒はゆっくりと上昇した。スピードが落ちた気がするが仕方ない。
100kgの大台を目前に控える巨大な尻に敷かれた哀れな箒は湖を目指して進んで行くのだった。

 

 

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