394氏その1

394氏その1

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#東方Projectシリーズ

 

霊夢が夜雀の歌を聴かされている頃、魔理沙は湖のそばまで到達していた。
ここまでくれば紅魔館はもう目と鼻の先だ。

 

「はぁ…、さっきまで凍えそうだったのに、今は風が心地良いくらいだな」

 

レティの引き起こした激しい吹雪に判断力を奪われ、肥満弾に当たってしまった魔理沙。
今やその小柄な体は肉のコートを纏っているようなものである。
普通に歩いていたなら暑くなるかもしれない。

 

『くすくす、見てあれ、見てあれ、小豚が飛んでるよ』

 

『黒豚、黒豚、くすくす』

 

失礼な笑い声が風に乗って飛んできた。

 

「妖精か。レティの能力の影響が弱まったから出てきたんだな」

 

幻想郷には数多くの妖精たちが存在するが、その殆どは大した力を持たず、
人間や妖怪を相手につまらない悪戯を仕掛けてくる程度である。
普通なら妖精は人間から隠れて悪戯するものなのだが、
湖付近に湧く妖精はどうも好戦的な気がする。
近くで吹き荒れていた冷気が収まったのをいいことに魔理沙にちょっかいをかけに来たのだ。

 

『ほらほら、ブーって鳴いてみなよ! ブーブー!』

 

「喧しいな。普通の豚は飛ばないんだ。飛べる私は少なくとも普通の豚じゃないぜ」

 

あまり構っているとつけあがってしまいキリがない。
妖精の寿命は生き物の持つ寿命とは少し異なり、消滅してもそのうち同じ姿で復活するので
魔理沙は遠慮なく彼女たちを撃ち落としていく。

 

「…というか、妖精も肥満化の影響を受けてるのか。自分のことを棚に上げて他人を豚扱いとは調子のいい連中だな」

 

肥満の度合いはまちまちだが妖精も太っている。
薄い羽でフラフラ飛ぶ姿はなかなか間抜けだ……… 魔理沙も人のことを言えないかもしれないが。

 

「人間も妖怪も妖精もみんな異変の影響を受けているのか。まさか紫や閻魔は巻き込まれていないだろうな。…いまいち想像出来ないぜ」

 

ばっちり巻き込まれている。そんなこと魔理沙は知る由もないが。
さて、妖精の執拗なちょっかいをくぐり抜け、湖のほとり上空へ差し掛かった魔理沙は
眼下に見慣れた服装の少女を見つけた。

 

「チルノ、何やってるんだ?」

 

高度と速度を落とし箒から飛び降りる。
いつもならうまく着地出来るのだが、体が重くなったせいか危うく転ぶところだった。
チルノと呼ばれた少女は這いつくばって湖に顔をつけていた。魔理沙の声に反応して起き上がる。

 

「魔…理沙? あんたずいぶん大きくなったじゃないのさ」

 

「お互い様だぜ。で、何やってるんだ」

 

「あたいは忙しいの。ノドが渇いて死にそうなんだから。ふふ…、最強の氷精も焼きが回ったわ」

 

大袈裟に自嘲の笑みを浮かべたこの少女は氷の妖精、チルノ。
幻想郷に住む妖精の中では高い能力の持ち主なのだが、如何せん幻想郷屈指のおバカでもあるため
その力は使いこなせてはいない。
気性は荒く喧嘩っ早い。自分より力のある者相手でも無謀に突っかかる性分だ。
大抵は返り討ちに合っている。
そんなチルノもこの異変には参っているらしい。

 

「凄い汗だな。もしかして、溶けてるのか?」

 

彼女のワンピースは頭から水でもかぶったかの如くびしょ濡れだ。
異常な喉の渇きは水分の減りを補わせるために脳がサインを発しているのだろう。
どれだけ水を飲み続けているのか、その体はたゆんたゆんに水太りしている。
氷精のくせに実に柔らかそうだ。
もう魔理沙の言葉など聞いちゃいないのか、チルノは一心不乱に水を飲んでいる。

 

「チルノが突っかかってこないと何だか調子が狂うな…」

 

溜め息混じりにチルノから視線を外し、何とはなしに澄み切った湖面を覗き込んだ。

 

「う…」

 

無意識にうめき声が漏れた。
水鏡に映し出されたのは健康そうに太った少女の姿だ。
まさか自分に二重顎ができる日が来るなんて思ってなかった。
肉に押し上げられた目は少し細まっている。
湖面から目を反らせば今度はデカい腹が目についた。
服の上からそっと触れてみる。柔らかくて弾力がある。
試しにつまんでみると有り余った贅肉が分厚い魔法書と同じくらい掴めた。
妖精たちのサラウンドな嘲笑が耳に蘇る。豚、豚、豚。

 

「…異変を解決したとして、増えた体重は元に戻るのか…?」

 

考えまいとしても不安になる。
妖怪たちは人間に比べて寿命も長いし、新陳代謝も人間より良い。
ダイエットするにしても時間はいくらでもあるのだから気楽なものだろう。
しかし、魔理沙や霊夢は人間なのだ。
下手をしたら一生ダイエットに費やす羽目に合いかねない。
更に最悪、ダイエットもできないほど(つまりは運動ができないほど)
太ってしまうことだってあるかもしれないのだ。
不安にならない方がおかしい。
…だが、ジッとしていたって体重はジリジリと増えて行くのだ。

 

「……あぁぁっ! 暑い! 熱い! あついぃっ! レティは何してんの!? もうやってらんないわ!」

 

「うわっ!? なんだ、唐突に。ビックリさせるなよ」

 

気分が落ちかけていた魔理沙の横でチルノがキーキー声で絶叫した。
それまではレティの能力で外気が冷やされていたため何とか耐えていたようだが、
彼女は魔理沙がのしてしまった。
普通の人間にとってはまだ極寒の世界だが、太りすぎた氷の妖精には
徐々に上がっていく気温さえ耐え難いのだろう。

 

「そうよ、熱いならあたいの能力で冷やせばいいのよ!」

 

理性を失っているのか眼光をギラギラとほとばしらせる。
その目は何故か魔理沙をロックオンしていた。
その殺気が魔理沙には利いた。落ち込みかけていた気分が高揚してくるのを感じる。

 

「おいおい、なんだよ、私は何もしてないぜ。…不本意にもレティを吹っ飛ばしたのは私だが」

 

「じゃあ、やっぱりあんたが悪いんじゃない! 熱気の魔法使いなんか凍っちゃえ!! 喰らえっ、雹符“ヘイルストーム”ぅぅぅっ!!!!」

 

水分を溜め込んだ体は重すぎるようで、空に飛び上がれなかったチルノは地上戦を仕掛けてきた。
地面の上での弾幕ごっこは滅多にやらないが、魔理沙は嫌いではない。

 

「どうした、弾幕が薄いぜ!」

 

体型に似合わぬ敏捷さでチルノが放った氷の弾と弾の間をすり抜ける。
あの肥満弾が混ざっているのも確認できた。今度は余裕でかわす。
いつもに比べれば不格好かもしれないが、パワーとスピードを生かした戦闘スタイルは健在だ。
…もしかするとパワーの方は普段より上がっているかもしれない。
魔法で生み出したカラフルな光線でチルノを牽制する。

 

「あぐっ!? くっそぅ!おとなしく凍れーっ!! 凍符“パーフェクトフリー…」
「させないぜ!!」

 

大きく体勢を崩したまま氷結のスペルを放とうとしたチルノ。
そこに間髪入れずに魔理沙の強烈なヒップアタックが入った。
更にすぐさま体勢を立て直してスペル攻撃で畳み掛ける。
怒涛のラッシュの前には反撃の余地などない。
最も、チルノは巨大な尻に吹っ飛ばされた時点で目を回していたので反撃ができるはずもなかった。
無防備になった氷精に容赦なく熱を放つ球体が襲い掛かる。
スペルカード…儀符“オーレリーズサン”の発動だ。
哀れ、チルノは水蒸気と化した… かに思えたが、それまで溜め込んでいた水分が蒸発していき
みるみるうちに体が細くなっていく。
が、完全に元の体型に戻る前に例の現象が起こった。肥満化だ。
レティ戦では余裕がなくて自分が太っていることさえ認識できなかったが、
今度はじっくり観察することができる。
チルノの体はムクムクと膨らみ始め、あっという間に先ほどより大きなデブに成長していく。
その口から喘ぎに似た呻き声が漏れる。時折ビクビクと痙攣し、苦しんでるように見えるが…
その表情がどことなく嬉しそうなのはどういうことか。
魔理沙や霊夢よりも幾分か幼い容姿で、実際に頭の中身もまだまだ子供のチルノだが、

今の彼女は妙に艶っぽい。大人の女性顔負けだろう。
そのアンバランスな色香に同性である魔理沙も目がそらせない。
思わず生唾を飲み込む。
優に五分はかけたろうか。チルノの肥満化は収束した。
レティが風船のような太り方だったのに対し、こちらは締まりのない水太りだ。
摘んで引っ張ったらむにゅうっと良く伸びそうである。
こんなだらしのないデブなのにやはりどこか色っぽい。

 

「…みんながみんな同じ太り方をするわけじゃないんだな。いらんバリエーションだが」

 

ようやく我に返った魔理沙が呟く。
好奇心に任せてチルノの二の腕を摘んでみると、柔らかすぎる贅肉がでろんと伸びた。
触れたものを凍らせる力を持つチルノだが、今は素手で触れてもヒンヤリ冷たく感じる程度だ。
体温が上がっているらしい。
そういえば戦闘後に見てみたらレティも顔を赤くしていたっけ、と思い出す。

 

「…基礎体温の上昇・一時的な発熱だけが原因、じゃないよな」

 

悪びれなくチルノのスカートの中を覗き込む。
腹肉、股肉を押し退けて確認すると案の定ソコはぐしょぐしょだった。
…これは汗ではないだろう。
体が火照っているのは肥満化に伴う性的な快感が原因だ。

 

「あのとき、吹雪で意識が朦朧としていたとき、私はアレに惹かれてた。今も…… 正直なところちょっと惹かれるな、あの感覚には…」

 

思い出すだけでうっとりするような快感だった。

 

「…あぁ、レティが自分自身を攻撃していた理由が分かった気がする」

 

あれは自慰だったのだ。
最初こそ体を冷やすための攻撃だったかもしれないが、
恐らく途中から快感に我を忘れていたのだろう。

 

「だとしたら、この異変は私たちが考えているよりもずっと厄介な異変なんじゃないか?」

 

平和な幻想郷に暮らす妖怪たちは常に何かしらの刺激を求めている。
つまり、簡単にこの異変に呑まれる恐れがあるのだ。
彼らが自滅するのは構わないが、レティのように理性を失った妖怪による無差別攻撃が
あちこちで始まれば、瞬く間に幻想郷中が巨デブで溢れかえってしまう!

 

「そんな幻想郷はぞっとしないな。モタモタしてられないぜ」

 

湖の向こうにぼんやりと見える紅い屋敷、悪魔の住む家… 紅魔館。
早いところたどり着かねば。
あそこの大図書館なら何かしら情報が掴めるだろうから…。

 

 

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