伝助の妄想劇場・閑話
#エイケン
男子生徒は学園を歩いていた。
夏だというのもあるが、学園には異様な熱気がこもっている。
「まったく、どこまで暑いんだか」
文句を言っているようだが、口元は笑っている。
すれ違う女の子の殆どがどう見ても三桁は肥えている娘ばかりだ。
きついサイズの制服に行動を制限させられて歩きにくそうにしている娘、
でっかいスーパーの袋を持ち、中から何か食べ物を取り出し、常に食べている娘、
歩くのもしんどいのか、息切れしている娘、
みんな自分の体に違和感など一切感じていないようだ。
「おや? あれは……」
男子生徒の目線の先には彼が居た。
現実には考えられないこの超常現象の発生源。
「まさか、あの世界の力を彼に与えたらこうなるとはね……
まあ、妄想の方向性は多少引きずったけど」
思わず口元を押さえ、笑みを隠す。
願望を実現する力。
妄想を現実にする力。
彼の隣にはあの哀れな東雲姉妹がいる。
肉塊と呼ぶにふさわしいあの姉妹に挟まれ、苦しそうにしている。
「おやおや、あんな汗だくな脂の塊に押しつぶされて…… 死ぬぞ普通」
たしか、この間は肉のクッションで無事だったが、今度は呼吸困難になるのではないだろうか?
「ん?」
周囲に居た少女達……
確か、東雲チハルの友達トリオだったか、彼女達が彼のもとへと遠くから歩いてる。
すらっとした少女達があの肉の塊姉妹に近づき、何かをしゃべっている。
「チハル…… 大丈夫?」
どうやら汗だくで呼吸が荒いチハルの心配をしているようだ。
あの外見をしているが、彼女らの関係は変化していないのか、フレンドリーな会話をしている。
次の瞬間、彼女らの胸がはじけるように巨大になっている。
(また妄想しているな。)
ユリコにめり込みながら彼女らを見ている伝助の顔は少しうつろだ。
「チハルって胸でかいけど、他もでかいからね〜〜〜」
どこと無く、彼女達の口調や表情が変化していく。
どうやら、元々は抱いていたコンプレックスや敗北感が逆転し、チハル達をけなしているようだ。
胸を強調して彼女らはチハルに見せ付けている。
(はぁ…… ちょっとかわいそうだな)
男子生徒は伝助の側を通り、すれ違いざまに小さな声でボソッと何かを言った。
数歩歩き、男子生徒は後ろを振り返った。
先ほどまで超乳を見せ付けていた3人組は笑っていた。
ふと、彼女達の制服の内側が膨らむ。
彼女達はその違和感に体をさすりだす。
プツとボタンが弾け、お腹の贅肉が顔を出す。
理解できない状況に彼女達はパニックを起こし、走り去っていく。
誰もこの状況下に気がついていない、
いきなり太ったのではなく、太っていたと認識している。
どうやら彼の妄想は中途半端な不完全燃焼だったらしく、
周囲のやせている女子生徒たちに変化が起きる。
一歩歩くごとに太っていく娘もいれば、一瞬で太る娘もいる。
(さて、アッチを見に行くか)
次の日、彼女ら3人は重い足取りで学校に来る。
人の域を超えた超乳を揺らしながら、ぽこっと膨らんだお腹を見せながら。
その後ろで男子生徒とうつろな眼をした伝助が歩いている。
一緒に学校に向うというより、伝助の近くを無関心のように男子生徒が歩いているだけだ。
「おは…… よう」
彼女らにチハルが鈍重な体を必死に鞭打って彼女らに合流する。
「おはよう、チハル…… 今日も暑いわね」
赤坂ルカがチハルを見ながら悪意を持って言い放つ。
「そうそう、誰かさんのせいで余計にね」
祗園キカもチハルの胸と腹をもみながら笑う。
「うん、恥ずかしい体だよね」
天神ミカはストレートに言い放つ。
その言葉を聞き、チハルは落ち込むような表情をしてからとぼとぼと歩き出す。
「チハル〜〜 早くしないと間に合わないよ〜〜
まあ、そんな重たい体で急いだところでタカが知れてるけどね」
最後のルカの言葉に伝助の眼に怒りの表情が宿る。
『あ〜〜あ、俺は知らないっと』
他人事のように言い放つ男子生徒、実際に無関係であり、元凶なのだが……
(さあ、宴の時間だ)
男子生徒の心の声と共に彼女達の最悪の一日が始まった……
赤坂ルカ 75(A)・56・82 → 109・88・82
祗園キカ 81(B)・57・83 → 120・90・83
天神ミカ 85(D)・59・83 → 140・100・83
「ねえ、キカ……」
トイレの鏡の前でルカは自分の胸に隠れた腹をつまみながら怯えた声を出す。
「なに?」
「私たち…… 太った?」
彼女達の巨大な胸の下に十分せり出たお腹が彼女達の恐怖をかきたてる。
「だ…… 大丈夫、チハルよりやせてるって、あんな醜い肉の塊じゃないんだから……」
「そ、そうよね?」
二人で確認しあい、恐る恐る互いのお腹をつかみ合う。
お互い十分に蓄えている脂肪が手の中でやわらかく形を変えた。
「う…… ちょっとまずい…… よね?」
「うん、まずい……」
『何がまずいんですか?』
ふっと、突然声をかけられ、二人は振り返った。
そこには女子生徒が立っていた。
どっちかといえば貧弱でこがらな体つきをしており、興味深深な表情でこっちを見ている。
「知ってる?」
「ううん、はじめて見る……」
突然現れた女子生徒に二人は警戒しており、
女子生徒も警戒されていることを分かった上で笑っている。
『お二人みたいな体つきの人の何がまずいんですか?』
ジロジロと二人の胸と腹を見る女子生徒の顔には悪意のこもった笑みが張り付いている。
「あんた!! どこのクラスの誰なの!! いきなり変なこと言い出して」
ルカがむかついたのか、怒鳴る。
『そんなに怒鳴らないでくださいよ、豚が鳴いているみたいですよ?』
その言葉を聞いて二人の怒りのボルテージが上がる。
「誰が豚よ!!」
ルカがそう言っていると、用を足したミカが出てきた。
「どうしたの? そんな大声だして……」
「ミカ、この子、私たちのこと…… 豚だ…… って……」
振り返り、ミカの姿をみた二人の動きが止まった。
「どうしたの? 二人とも……」
「ミカ…… どうしたの? その……体……」
昨日まで…… いや、ついさっきまで自分達と同じ用に巨大な胸をし、
ちょっと(?)膨れたおなかの体型だったはずなのに……
「暑い…… 暑いよ……」
トイレの個室の幅とほぼ同一のお腹周りにたるみきった足、歩くのがつらいのか、
滝のように足元を水びだしにしてミカは立っていた。
『ブタですね、あなた達も豚なんでしょ?』
『ブタ』という言葉を強調するように女子生徒は言い放ち、あざける。
「ルカ〜〜〜、キカ〜〜〜どうしたの?」
脂ぎった体を引きずりながらミカが迫ってくる。
『ブタはブタ同士遊んだらどうです?』
女子生徒は笑いながらトイレから出て行く。
「ま、待ちなさい!!!」
ルカはすぐに追いかけようとするが、それよりも危険なものを感じ取った。
振り返ると汗まみれでテカリながら接近してくる肉の塊……
それも一歩踏み出すごとに汗が飛び散り、せり出たお腹を持ち上げながら、来る友の姿だ。
「こ、こないで……」
「い、いや……」
恐怖で腰が引ける二人に、肉に埋まっためがねに涙を浮かべながら肉の塊はより接近してくる。
「く、くるな〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
迫り来る肉から逃げるために二人はトイレから飛び出て走り出す。
二人はもうパニック寸前だ。
お腹の肉を揺らしながら、全速力ではしりながら頭を整理しようと必死になっている。
『ブタだ』
『ブタね』
『ブタがいる』
『ブタブタブタ』
走る二人に当然のように浴びせられる『ブタ』という言葉。
まるで最初から自分の名前がブタだというように。
体が重い。
一歩一歩が重い。
何よりも暑い。
汗が出る。
二人とも気がついていない。
一歩踏み出すごとに体が肥えていることを。
『ブタ』と呼ばれるごとに体が太っていることを。
二人で全身の肉を揺らしながら走っていると、二人は足がもつれ、盛大に転んだ。
「ててて・・・」
ルカは立ち上がろうとするが、あることに気がついた。
立てない。
うつぶせの状態になり、手と足が地面についていない。
肥大したお腹が体を持ち上げているのだ。
「な、ナンなの!! この体!!」
声も太った人間特有のくぐもった声で、じたばたするが、みっともない体をさらすだけだ。
「る…… ルカ……」
キカの声も聞こえ、ルカは必死に首を動かし、キカの姿を見た。
溜まりきった脂肪のせいで上体が起こせないルカは苦しそうだ。
『あれぇ? こんなところにブタが寝てますよ?』
あの女子生徒の声が聞こえる。
「本当に、邪魔なブタだよね?」
女子生徒の隣に伝助が居た。
「ヒトのことを悪口言う前に自分の姿を見てからにしたらどうなのかな?」
二人を追いかけてきたミカが息も絶え絶えに二人に寄り添う。
「うう、どうして…… なんでこんなデブに……」
『だって、ブタだもんw ね?』
『ああ、ブタだ、ブタはおとなしくブタ小屋に居たほうがいいな』
そう呼ばれて、3人の体がまた太る。
女子生徒の後ろに立つ男子生徒は伝助にぼそぼそと何か言った。
「ブタ小屋か、確か校舎裏にあったよな……」
『おいしい…… もっと食べたいよ〜〜〜』(これ以上太りたくない……)
『みて、私のおなか〜〜』(みっともない…… 見ないで……)
校舎裏にある飼育小屋、壁中が鏡張りになった小屋の中で3人のブタがえさを食い漁っていた。
教室1つ分ほどの小屋に両手両足で移動するミカ、
えさ入れの前に鎮座し、自分のお腹をもみながら悦に入っているキカ、
そして、チューブを咥えて流動食を絶えず食い続けるルカ。
ブタ小屋の前には飼育委員の生徒たちがえさを運んでいる。
『まったく、このブタ小屋はくさいな』
『ホントだね』
中に居るブタを世話している飼育委員の初等部の子供達(身長が小さい分
完全に肉饅頭状態)を見ながら男子生徒と女子生徒はつぶやく。
『しかし、いつまでそうしてる気だよ…… というか、お前もいつか太るぞ』
『ははは、なにいってんの〜〜〜大丈夫w そのうち戻るから〜〜
でもこんな貧相なのもいやだけどね〜〜』
男子生徒と女子生徒は笑いながらブタ小屋を去る。
その日から、ミカ、ルカ、キカの3人の生徒の存在は消えた。
ブタ小屋に同じ名前のブタがいるが、全校生徒全員、そのブタをかわいがっているだけだ。
食べ、飲んで、眠るだけの人語をしゃべるブタが今もまだ太り続ける。
赤坂ルカ 109・88・82 → 130・800・200
祗園キカ 120・90・83 → 140・500・300
天神ミカ 140・100・83 → 200・300・300