710氏その2
#読者参加型
/B:館主室を探す
「…やはり馬鹿は高い所に、と言うし… 此処が怪しいか」
そう呟きながら頷くと、ランジェはやたら豪華な造りの扉の前に立った。
随分と長く打ち捨てられていたのか、装飾は所々壊れてはいたが、
それでも直豪華さを失っていない辺り、この部屋は恐らく身分の高い者が住んでいたのだろう。
と言う事は当然高級な調度品もある筈だし、山賊が居る可能性としては一番高い…
と、ランジェは我ながら知的だ、と再び頷いた。
どうやら鍵はかかっていないらしく、ドアノブを回すと、ガチャ、という重い音と共に、
扉はあっさりと開かれた。
「…」
薄く開いた扉を蹴る様にしてあけながら、ランジェは斧を振りあげる。
眼の前にもし山賊が居たのなら、すぐに振り下ろすか… 若しくは投げつけられるように、と。
しかし彼女の目の前に広がったのは誰もいない、薄暗い部屋だった。
落胆したかのように、彼女は肩を落とすと部屋の中を見渡す。
…どうやらこの部屋はこの館の館主の物だったのか、壁には肖像画が飾られていた。
調度品はと言うと、殆どの物はなくなっている… 恐らくは、山賊が持ち去ったのだろう。
「だが、それなら奴らは此処に居た、と言う事か…」
ふむ、と頷きながら、彼女は部屋を見渡した。
調度品の無い館主の部屋は若干寂しいような感じはするが、それでも直豪華さを保っている。
どうやら山賊達は興味を持たなかったのか、本棚には歴史書などが詰まっているし、
それに絨毯も高級品なのか、踏み心地が良い。
彼女は部屋を色々見渡して、そしてふとある一点で視線を止めた。
埃が人の手によって削れたりしている部分の一角に、真新しい、小奇麗な手帳が落ちていたのだ。
彼女はそっとそれを拾い上げると、何の気なしに開いてみる。
『―――○月×日
今日でもうかれこれアレを始めてから半年になる。
苦しい半年だったが、その成果はあったと思いたい。
何しろ一日の楽しみだったあれを、あれ程楽しみだったあれを、半年間も我慢したのだ。
元々虚弱だった私には、毎日のトレーニングもだった…
どんなにトレーニングをしても、結局腕立ては10回しか出来なかったし…
でもあと少し… あと少しで、目標に届く… 頑張らなければ。』
「…これは日記、か? 特に手掛かりにはならなそうだが…」
少し落胆しながらも、彼女は更にページを捲る。
『―――○月△日
漸く… 漸く目標に届いた。
これまでの苦労が実を結んだのだ。
思えば半年前、格好良い男性を見たのが始まりだったダイエットも、これで漸く終えられる。
さあ、明日からは私の好きなお菓子も解禁だ!』
「ふむ…これを見る限り館主は女性だったみたいだな…」
特に興味を示す事もなく、次のページを見たらこの部屋を出ようと、
彼女はペラリとページを捲った。
『―――▽月×日
…何故、こんな事になってしまったんだろう。
半年の努力はたった数日で無駄に… そう、完全に無駄になってしまった。
そもそもこんなの不公平だ…
どんなに食べても太らない人もいるのに、何故私はこんなに簡単に肥ってしまうんだろう?
嗚呼、憎い。太ってしまった自分が憎い。それよりも、何よりも太らない女性が憎い…』
「…う…見るんじゃなかったな、これは…」
怨嗟が書きつづられたページを見たランジェは、思わず辟易する。
そして、館主に同情しながら日記を元の位置に戻そうとして…
その瞬間、勝手にページが捲れ上がった。
『―――そう、ランジェ… 貴女みたいな女が憎い!
馬鹿力な癖に筋肉ダルマでもなく、毎日の如く肉を食っても太らない貴女が憎いッ!!
憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイ
ニクイッ!!!」
「な…っ!?」
ページに書き込まれた大量の怨嗟の文字。
そこには何故か… まるで今書き込まれたかのように、彼女の名前が記されていて。
そして、次第に怨嗟の文字は音を、おぞましい程の憎悪が籠った女性の声を伴い始める。
「ニクイニクイニクイ、ニクイ…ッ!! だから… ワタシと同じになってしまえッ!!!!」
「…っ、うわあああぁぁぁぁぁぁっ!?」
怨嗟の叫びと共に、日記から淡い、紫色の光が炎のように溢れ出し…
そして、ランジェを包み込んだ。
片手で斧を振るい、巨木すら薙ぎ倒す彼女でも流石に亡霊… のようなモノは恐ろしかったのか、
悲鳴を上げながら日記を壁へと放り投げる。
しかし既に光はランジェに纏わりつくかのように絡みつき、殆ど全身を覆ってしまっていた。
「く、ぁ…っ!? あ、熱い…っ!!」
ランジェは光を振り払うかのように腕を振るいながら、荒く息を吐き始める。
肌は薄らと汗をかき始め…そして、彼女の気付かぬところで、変化が起き始めていた。
…身体のラインを強調していた、見苦しくない程度(寧ろ美しいとも言える)の筋肉は
徐々に影を潜め始め、それと同時にうっすらとしかなかった脂肪が目立ち始める。
腕を振るう度にたぷたぷと二の腕が揺れ始め、それに気付いたランジェは驚愕した。
「な…っ、な、何だ、これは…!?」
割れていた腹筋も既に見えなくなり、筋肉で割れていた腹部は今度は見事な三段腹になっていく。
全体から見れば通常のサイズだった乳房はムクムクと膨れ上がり、そして尻肉も横に広がり、
鍛え上げられた太腿も、ぷくぷくと、柔らかそうなそれへと変わりながら太さを増していった。
「…っ、ぅ…」
身体中に汗をかきながら、ついには先ほどまでは片手で楽々と扱っていた斧を地面に落とし…
杖のように、体重を預けてしまう。
光が彼女の体から消える頃には、彼女の姿は先ほどまでとは一変してしまっていた。
美しく精悍だった顔にはふっくらと脂肪がつき、丸みを帯びて。
肉体美とも言える筋肉質だった身体は脂肪に覆われ、腹は服からはみ出て、
見事な三段を築きあげて。
腕も少し動くだけで肉が震え、乳房は窮屈そうに服を押し上げ、
尻肉はスカートを破らんばかりに膨らみ。
それに合わせて、太腿もむっちりとした、太いそれへと変わってしまっていた。
先程までは精悍だった美しさは、今では母性的な、柔らかなモノへと変わっている。
「く…っ、これは、一体… 呪いの、類なのか…?」
変わり果てた自分の姿を見ながら一人呟き…
そして、もうこの部屋には居たくない、と言うかのように、
先ほどまでは軽々と扱っていた斧を両手で引きずりながら、館主室を後にした。
/ステータス変化
・パルヴァ=ランジェ(種族・巨人族)
年齢:25歳
身長:215cm
体重:95kg
3サイズ:100・79・95(身長とかから考えると意外と普通)
↓
・パルヴァ=ランジェ(種族・巨人族)
年齢:25歳
身長:215cm
体重:105kg
3サイズ:120・100・120(肥満)
備考:筋肉量‐10% 体脂肪率+30%前後
斧を引きずりながら、ランジェは館主室から離れ、洋館の広間に出た。
…若しかしたら、この洋館には自分を陥れる為の罠が張り巡らされているのかもしれない。
だとすれば、もっと慎重に行動しなければ… と、思いながら。
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