710氏その2

710氏その2

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/幕間:館内某所

 

「…ぷっ、くくく…っ、良い様ね、ランジェ… 自慢の身体もすっかり弛んじゃって…♪」

 

ランジェの姿が映った水晶の前で、少女はとても楽しそうに笑い声を零していた。
それを覗き込んでいた山賊の頭も成程、と言ったように下品に笑みを浮かべる。

 

「ゲハハ、成程な… こうやってあの女を弱体化させてく訳か。
そして、此処に到達する頃には俺達でもボコれる程度にはなってる、と…」
「ええ、そうね… 私はランジェの無様な姿を見て楽しみ、
貴方達はランジェを傷めつけて楽しめる… ふふ、まさに一石二鳥でしょう?」

 

楽しそうに、歌うように言葉を紡ぐ少女に… 山賊は、何故だか複雑そうな苦笑いを浮かべた。
そんな山賊の様子に少女は首を傾げ、口を開く。

 

「…どうかしたの?」
「あー、いや… 痛めつけるのは無し、かもしれネェなってさ。
ほら、あのガキが泣いちまうだろうし… ガキの泣き顔は、どうにも苦手だ」

 

少女は視線を山賊達と遊んでいる少年に向けると、ふむ、と息を漏らす。
一頻り唸った後に、彼女は仕方ないか、と言った表情を浮かべた。

 

「まあ、それは解らないでも無いわね… 私としては、ランジェのプライドと尊厳さえ奪えれば…
無様になってくれれば、それでいい訳だし」
「ああ、俺等もそれで十二分に満足さ。あの高慢ちき… じゃねえが、
戦士だったランジェがどこまで無様になり果てるのかさえ見れりゃあ、それでいい」

 

そこまで言うと、男は仲間の元へと踵を返す。
少女もそうね、と小さく返すとまた水晶玉に見入った。

 

「…ああ、後聞いておきたいんだけどよ」
「何、どうかした?」
「何でアンタはあの女をそんなに憎んでるンだ?」

 

山賊の、ふとした問いに少女は眉を潜め… そして、冷たい声で呟く。

 

「…あの女が、私の心を踏みにじったからよ」

 

その言葉の冷たさと、籠っている憎悪に山賊はそれ以上聞く事もなく、
仲間達のもとへと戻っていった。
少女は少し過去を思い返す様に、虚空を睨んでいたが…
小さくため息をつくと、再び水晶玉へと視線を戻す。

 

少女は迷っていた。
ランジェへの復讐の結果、少年の事を苦しめてしまうのは… 恐らく、確定的だろう。
それが、はたして自分にとって、良い事なのかどうか… 今は、まだ答えは出なかった。

 

 

/C.育児室を探す

 

両手斧を引きずりながら、ランジェは暗闇に包まれた洋館を徘徊していた。
歩くたびに震える腕の肉が鬱陶しいのか、しきりに振り払うように腕を振り…
そしてますます震える二の腕に辟易しながら、部屋の扉を見ては迷い、歩を進める。
額には汗が浮かび、僅かに息を切らしながらも、ランジェは静かに、館の音に耳を傾けていた。
山賊の頭が居ると言う事は、恐らくは一人ではない筈。
あの男は一人で私に勝てると思うほど、思い上がってはいないだろう、と。
そう考えた結果、館の中で何かしら音がする部屋を探すことにしたのだ。

 

「…?」

 

カランカランと、小さく僅かな音が彼女の耳に届く。
普通なら聞き逃してしまうような音ではあるが、此処は打ち捨てられた洋館で、
廊下にいるのはランジェ一人。
わずかな音でも拾えてしまうのは、ある意味当然の結果だろう。
耳を澄ませながら、ゆっくりと、慎重に音が聞こえる方向へと足を進めるランジェ。
そして、段々とその音の源へと近付いているのか、カランカラン、という音は
はっきりと聞こえる様になり始めた。
先程までは苛立ちを隠す事すらしていなかった彼女は、
既にいつ何があっても大丈夫なように、と身構えて。
廊下の突き当たりが見えた頃になって、漸く音が出ている部屋の前に辿り着いた。

 

「…これは… 風… な筈は、無いな…」

 

カランカラン、という音ははっきりとランジェの耳に届いている。
風で鳴っているのかと一瞬考えたが、洋館に入る前に風は
殆ど吹いていなかったのを思い出したのか、彼女は首を横に振った。
となれば、山賊達… 或いは、山賊の仲間がこの部屋を漁っている、という
可能性もあり得るだろう。
そう結論付けて… 今度は先程のように、不用意な事をしないように…
慎重に扉を開けて、中の様子を伺った。
カーテンが閉まっているのか、部屋の中は薄暗く、
彼女の眼には何か物が散在してるようにしか映らない。
小さく息を呑みながら、ゆっくりと部屋の中に歩みを進め…
そして、扉から手を離した瞬間、彼女の背後で、扉が勢いよく、音を立てて閉った。

 

「っ、しまった!!」

 

ガチャガチャとドアノブを回してみるも、鍵まで掛っているのか、一向に開く気配はない。

 

「…っ、それなら…ッ!!!」

 

両手で斧を抱える様に振りかぶり、そして思い切り振り下ろす。
…しかし、まるで鋼鉄の塊で出来ているかの如く、扉には傷一つ付くことはなかった。
無論、彼女の筋力は落ちては居るが… それでも、扉を壊せない筈はない。
つまりは… 再び、ランジェは罠に嵌められてしまったのである。

 

「く… 此処まで強固に出来るとは… 余程の術師が奴等の側に付いているのか…?」

 

彼女は今まで、例え魔術でロックされていても力押しで脱出してきた。
その手が通用しないと言う事は、今まで相手にしてきた魔術師よりも格上、という事でもある。
つまりは、この館はそんな魔術師が作った罠が満載である、と言う事。
そして、ランジェが額に嫌な汗を垂らすのと同時に… 暗闇に包まれた部屋が、突然光に包まれた。

 

彼女は余りの眩しさに目を細め… そして、ゆっくりと目を開いた。
え、と彼女の口から、気の抜けたような声が漏れる。
…彼女の目の前に広がっていたのは、星やハートマークで彩られた壁紙と、恐らくは幼児用であろう木馬や積み木に着せ替え人形、それに赤子用のベッドが置かれた…所謂育児室だったのだ。

 

「…これは、一体…」

 

てっきり得体の知れない魔物や、おぞましい化け物に取り囲まれると思っていたランジェは拍子抜けしたかのように、周囲を見渡した。
長年使われていない筈の育児室は、まるで今さっき掃除されたかのように小綺麗で。
カランカラン、と天井に吊り下がった玩具が鳴っているだけの、
何の変哲もない、ただの小部屋だった。

 

「まさか、閉じ込める為だけの部屋だったのか…?」

 

カラン、カラン、カランと玩具が鳴る音を聞きながら、そう呟くと軽く舌打ちをする。
だとすれば、彼女は窮地に立たされた事になるからだ。
何しろ扉は破壊出来ず、この部屋から出ようにも、出口は入ってきた扉しかないのだから。

 

「…いや、待てよ」

 

そこまで考えて、彼女は顔をあげ、再び部屋を見渡した。
四方を囲む、星やハートマークに彩られた壁…
その一角に、これまたハートマークで彩られたピンクのカーテンがある。
カーテンがある、と言う事は即ちそこには窓があると言う事で…
或いは、破壊できるのではないか、という淡い期待を彼女に抱かせる。
取りあえず試してみなければ、と彼女は斧を引きずりながら、一歩ずつ歩き始めた。
…カランカラン、という音が、一歩歩く度に大きくなる。
丁度部屋の中央に玩具が釣り下げられているからだろう。
そんな事は気にする必要もない、と言ったように彼女は歩きだして…
そして、突然眩暈に襲われた。

 

「…ん… な、なんだ…?」

 

カランカラン、カランカラン、カラン。
一定のリズムを刻む、軽い… 木が触れ合う音が、彼女の脳裏に響いてくる。
赤子を寝かしつけるようなその音色は、彼女も気づかない内に、
彼女の思考能力を奪い始めていたのだ。

 

「…っ、ぅ… だ、ダメ、だ… 意識、が…」

 

カラン、カラン、カラン。
次第に、彼女の頭の中で音色がエコーし始める。
それと同時に、彼女は地面に膝を付き… そして、倒れた。
虚ろになっていく意識の中、ランジェは必死になって意識を保とうとするが…
保てるはずもなく、瞳を閉じる。
部屋ではカランカラン、カランカラン、という音と共に、
子供を寝かしつけるかのような、オルゴールの音色が鳴り響いていた。

 

/幕間:館内某所

 

「…あは、可愛そうなランジェ… 数ある罠の中でも凶悪なのを引いちゃったわね…♪」

 

楽しそうに、愉悦に浸るかのような表情を浮かべながら、少女は水晶玉を撫でさする。
その様子を見ていた山賊の頭は、水晶玉を覗きこむと首を捻った。

 

「凶悪って… これがかぁ? ただアイツを寝かしつけただけじゃねぇか」
「ふふっ、凶悪なのはこれからよ… まあ、楽しみにしておきなさいな♪」

 

満面の笑みを浮かべながら、上機嫌になって水晶玉を愛しむかのように撫でる少女に
山賊の頭は小さくふん、と息を吐くと… ドカ、と少女の横に座り、水晶玉を眺めた。
これからランジェがどんな目にあうのか… 自分自身も、僅かに興奮しているのを感じながら。

 

 

/育児室?

 

カラン、カラン、カラン、カラン。
心地よい音を奏でる玩具とオルゴールの音色に、ランジェは薄く目を開く。
何時の間に仰向けになっていたのかと、彼女は寝起きの、どこかぼけた頭で考えていた。
…しかし、そんな惚けた考えも、直ぐに打ち捨てられる。

 

「(…な、なんだ… 身体が、動かない…)」

 

起き上がろうとした彼女は、腕も足も、それどころか身体全体が全く動かない事に気がついた。
当然の如く声も出ず… 唯一動く首で、周囲を見る事しか出来ない。
周囲を見ると、そこは木の柵に囲まれたベッドの上だった。
部屋自体は変わっていないのか、壁は見覚えのある育児室のソレのままで。
恐る恐る身体を見るも、先ほどから変わりはなく、唯一それだけが彼女を安堵させた。
そして、改めて上を… 天井を見ると、先程からカランカランと鳴り響く、
木の玩具が目の前に飾られている。

 

「(…く… しかし、何故動けないんだ… 身体に、まるで力が入らない…)」

 

カランカラン、カランカラン、という玩具の音と、オルゴールの音色に
少しうつらうつらしながらも、彼女は必死に思考を巡らせる。
今のこの状況は、紛れもなく危機なのだ。
今もし山賊に来られてしまったら、間違いなく… 赤子の手を捻る様に、殺されてしまうだろう。
そうなっては、少年を助け出すことも叶わなくなる。
…それだけが、彼女にとって唯一本当に恐ろしい事だった。
必死に身体を動かそうとする彼女の耳に、オルゴールと玩具以外の… 布が擦れるような音が届く。
そして、その音の方に視線を向けると… 彼女は思わず、息を呑んだ。

 

そこには、可愛らしい、布で出来た人形が居たのだ… それも、自分と同じぐらいの大きさの。
ずるり、ずるりと、布と綿で出来た身体を引きずりながら、
人形が自分の居る場所へと近づいてくる。
そして、自分の寝ているベッドの真横に立つと、見降ろす様に巨大な身体を屈めて…
瞳代わりのボタンで、覗きこむようにランジェを見つめた。

 

『…キャハ、私の可愛いおにんぎょうさん♪ 今日は何して遊びましょうか?』
「〜〜〜〜〜っ!?」

 

くぱぁ、と口を開き、声を発した人形の姿に、思わずランジェは声にならない―――
と言うより声を出せないのだが―――悲鳴を上げた。
声自体は少女の可愛らしいモノではあるが、何しろ開いた口の中には綿が有るだけなのだ。
造形自体は可愛らしくとも、大きさがコレな上にこんな悪趣味な動き方をすれば
悲鳴を上げるのも無理はない。

 

『そうだ、今日は可愛い服を持ってきたから、おにんぎょうさんに着せてあげるね♪』
「(…可愛い、服…? 一体、何をする気…っ!?)」

 

そうして、人形が取り出した服を見て… ランジェは、思わず目を見開いた。
人形が取り出したのは、淡いピンク色で、涎掛けも付いた上に、ハート柄で飾られた…
所謂、赤子用の服、だったのだ。
サイズこそ赤子用ではないとはっきり分かる程に、大きくはあるが…
正直、そんな物を着せられる屈辱などには、彼女は耐えられない。

 

「(やめろっ、そんなもの…っ、冗談じゃないッ!!)」
『そんな可愛くない服じゃ、おにんぎょうさんも可哀想だもんね?
さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね〜♪』

 

必死に抵抗しようとするが、当然の如く身体は動かせず。
どうやっているのかは解らないが、人形は布を丸めたような手で、
一枚ずつランジェの服を脱がしていく。
そして、たぷんと大きさを増した乳房を晒すと… 思わずランジェは羞恥に頬を赤く染めた。
勿論脱がされるのは上だけではなく、結局人形によって、ランジェは本来よりも肉が付き、
弛んだ身体を晒す羽目になってしまう。
ランジェは恥ずかしさで頭が真っ白になるが、それでも身体はぴくりとも動かない。
唯一変化する顔で、必死に恥ずかしさを表現しながら… ランジェは、硬く目を瞑った。

 

『あは、おにんぎょうさんのからだ、ぷにぷにで柔らかーい♪
それじゃあ、可愛いお洋服をきせてあげるからね♪』
「(やめろ、頼む… お願いだ、やめてくれ…)」

 

最早抵抗できない事を心のどこかで悟ったのか、ランジェは堅く目を瞑り…
そして、羞恥に顔を赤く染めながら、早く悪夢が過ぎてくれる事を祈る。
…が。

 

『…あれぇ? おかしーなぁ、サイズがあわないや…』

 

人形の呟いた言葉に、ランジェは思わず安堵の息を心の中で漏らした。
良く考えれば当たり前だ。
先程見た服は、どう大目に見ても子供用。
巨人族である自分が着れる筈もない。
それでも人形は納得がいかないのか、ぎゅうぎゅうと、足を服に押し込んだり、
無理やり被せようと奮闘する。
ランジェはその度に締め付けられるような感覚を覚え、苦痛さえ感じるが…
着せられない、という事へと安堵感からか、先ほどと比べれば幾分か、冷静さを取り戻していた。

 

「(そうだ、服が着せられないなら、きっと人形も諦める筈だ…
  裸を晒したのは、もう仕方ない…)」

 

そんな、半ば諦めと安堵の混じった事を考えながら、ランジェは心の中で溜息を吐く。

 

『…そうだ、服のサイズが合わないならおにんぎょうさんのサイズをあわせればいいんだ♪』

 

…しかし、それも… 人形の、そんな言葉で打ち壊された。
今、人形は一体何と言ったのか。
服のサイズに、にんぎょうのサイズを合わせる?
一体何の事なのか、とランジェの心に再び不安が押し寄せる。
そして、人形の始めた事は…その不安に、過剰なまでに答える物だった。

 

『そうだよね、おにんぎょうさんってばこの服着るには大きすぎるもん♪
  ほーら、小さくなーれ、小さくなーれ♪』
「(え… な、何を…っ! な、何だこれは!?)」

 

人形は、まるで押すかのように… 両腕を広げると、ランジェの頭と足の裏を掴んで…
そして、そのまま押し始めたのだ。
圧迫されるかのような感覚に、初めは悶えていたランジェだったが…
次いで感じる感覚に、思わず目を見開く。
…そう、人形の腕の中で… 徐々に、徐々にだが… 身体が、縮み始めていたのだ。
まるで粘土細工を上から押すかのように、自分の身体が歪み、縮むような感覚に
ランジェは心の中で悲鳴をあげる。

 

『小さくなーれ、小さくなーれ、小さくなーれ…♪』
「(や、やめ…っ、やめろ、やめろおぉぉぉぉっ!!!)」

 

人形が歌うように、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返しながら、両手で身体を押す度に… ランジェの身体は縮み… そして、縮んだ分の体積が横に出るかのように、太腿…
というより足はより太く、そして腹に至っては妊婦のようにつきだしてしまい。
しかし乳房は逆に縮み、脇の下に肉が付き始めて… 腕はどこが肘なのか解らなくなる程に膨らみ、更に指先までも太くなり始め… それだけではなく、縮んだ身体に合わせて短くなり始める。
そうして、人形が歌い終わる頃には…
ランジェの身体は頭二つ分は縮み、顔にはどこか幼さが宿り…
そして、今まではふくよかで済まされていた身体は、完全な肥満体形になってしまっていた。

 

「(あ、あぁ… あぁぁ…っ、こんな… こんな、事が…)」
『きゃは、これくらいになればお洋服もきれるよね♪』

 

絶望に心を砕かれていくランジェの事など気にする事もなく、
人形は先ほど用意していた服をランジェに着せ始める。
先程は完全にサイズが合わなかったが、今度は大丈夫―――とは言っても、ほとんどピチピチだが―――だったのか、布の手で苦闘しながらも、最後のボタンまでを留めて…
そして、ランジェはとうとう、赤子用の、可愛らしい服に包まれてしまった。
腹部や太腿、二の腕は完全にピチピチになっており、
動けば破れてしまうのではないかとさえ思うが… その丸みを帯び、
腹が突き出た身体と幼さを残す顔は、どこか本当に赤子なのかと錯覚させるほどで。
人形はそれに満足したかのように、布切れの口を嬉しそうに歪めると…
相当な重量がある筈の、ランジェの身体を抱き上げた。

 

『お洋服は気に入ってくれた? それじゃあ、今度はごはんをたべさせてあげるね♪』
「(ご、ご飯…? もう、もう止めてくれ… これ以上、何を…)」

 

最早心が折れ掛けているのか、ランジェは心の中で懇願する。
しかし、それをあざ笑うかのように… 人形は、ランジェの口に、
何か柔らかい物を押し込んできた。

 

「(…っ!? な、何だこれは… ほ、哺乳瓶…!?)」
『たくさん食べて、早く大きくなってね♪』

 

そう、ランジェの口に入れられたのは、巨大な哺乳瓶の先端だったのだ。
普通の哺乳瓶ならまだしも、巨大な哺乳瓶の先端は、ランジェの口を一杯に広げ…そして、
半ば直接食道に流し込むかの如く、先端からどろりとした甘ったるい何かが溢れだし始める。
ランジェは目を白黒させながらも、苦しさに飲み…口一杯に膨らませ、口の端から零しながらも、
懸命になって口の中のどろりとした何かを飲み干していった。

 

カラン、カランカラン、カラン、と… 今までパニックになっていて、
殆ど聞こえていなかった木の玩具と、オルゴールの音色が、再びランジェの耳に届き始める。
それと同時に、ランジェの意識はまた、虚ろになり始めた。
んぐ、んぐ、と喉を鳴らしながら、無心になって哺乳瓶からあふれ出るどろりとした何かを飲んで… そして、次第に、まるで風船に空気を送り込むかのように、ランジェの身体が膨らんでいく。
可愛らしい服を押し上げるかのように、腹は膨らみ… 尻肉も、横に広がるようで。
太腿もぷくぷくと膨らみ… しかし、服はまるでランジェの身体に合わせるかのように、
ピチピチになっては緩み、ピチピチになっては緩みを繰り返していた。
早く、早く夢から覚めてくれ、と… ランジェは、心の中でうつろに願いながら…
人形の顔をじっと見つめて。
人形はまるで微笑みかけるかのように、ランジェをゆすると…
ランジェは、まどろみに意識を手放した。

 

 

/育児室

 

カラン、カランカラン、カラン… と言う音に、ランジェは薄らと目を開く。
先程までの事は夢だったかのように、そこはただの薄暗い部屋へとなり果てていた。
残っているのは、自分が寝ているベッドと、天井に飾られた木の玩具。
そして…

 

「…ぁ… あ、あぁ…っ!?」

 

ゆっくりと体を起こそうとするランジェが、いつもは感じない息苦しさを覚える。
起き上がり、体を見れば… あの夢が現実だと言わんばかりに、代わり果て…
そして、あの可愛らしい赤子用の服を着せられていた。
絶望に打ちひしがれたかのように、あ、ぁ、と声を漏らしながら、
ふらふらとランジェは立ち上がる。

 

当然の如く視線も先程までとは打って変わり…
天井に手が届く程だった身長は、今ではジャンプしても届かない程まで縮んでしまい。
あのどろりとした何かの影響なのか、体はまるで鏡餅のように、下半身太り―――
上半身も相当ではあるが―――してしまっていて。
顔にもしっかりと肉が付き、首は肉で埋まってしまっていた。
丸々とした身体と、そのきている服のせいか、今のランジェはまるで歩き始めたばかりの、
肥満体の赤ん坊のようで。
…しかし、絶望に打ちひしがれながらも… ランジェは、ゆっくりと部屋の出口へと歩き始めた。
歩くたびに身体は波打ち、腹がたぽんたぽんと音を立てる。

 

「…っ、くそっ!!」

 

忌々しい服を脱ぎ捨てようと、ランジェは服を引きちぎるかのように引っ張る… が。
その服もまた魔法で出来ているのか、布だと言うのに、まるで強靭なゴムのように伸びて…
そして、解れ一つなく、元に戻ってしまう。
暫く引っ張ったり、破ろうとしたりと繰り返し、諦めたのか…
ランジェは部屋の中を見回す様に、周囲を探る。
…だが、先程まで自分が着ていた服も… それどころか、
唯一の武器だった両手斧さえも、無くなっていた。

 

「こんな、状態で… あの子を、救えるのか…?」

 

この館に来てから初めて漏らす、弱音。
その言葉に答える物は、何一つなく…
ただ、カランカランと、部屋に飾られた玩具が音を立てていた。

 

 

/ステータス変化
・パルヴァ=ランジェ(種族・巨人族)
 年齢:25歳
 身長:215cm
 体重:105kg
 3サイズ:120・100・120(肥満)
 備考:筋肉量‐10% 体脂肪率?30%前後
 ↓
・パルヴァ=ランジェ(種族・巨人族)
 年齢:15歳
 身長:165cm
 体重:145kg
 3サイズ:100・120・140(重度肥満)
 備考:年齢退行につき、戦闘力大幅ダウン。しかしまだ山賊よりは強い。

 

 

よたよたと、変わり果てた身体を揺らしながら、歩くランジェ。
普通なら歩くことさえままならないであろう身体だが、
それでも巨人族であるが故の筋力の高さが救いとなり、その足取りは外見よりは軽やかだった。
最も… この館に来た時と比べてしまえば、雲泥の差ではあったが。

 

 

A:二階・資料室を探す。
B:中庭・物置小屋を探す。
C:一階・医務室を探す。
D:一階・客間を探す。
E:二階・寝室を探す。

 

 

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