710氏その2

710氏その2

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#読者参加型

 

/C:医務室を探す。

 

漸く今の身体にも慣れてきたのか、ランジェはふらふらと、時折壁に手を付きながらも、
館を探索していた。どうやらどの部屋にも必ず罠がある訳ではなく
(もしかしたら引っ掛からなかっただけかも知れないが)、数室を覗いてみたものの、
特に何かがある訳ではなかった。
勿論、少年と山賊が居た訳でもないが。

 

「…はぁ、はぁ… くそ、コレくらいで息が、切れるなんて…」

 

額に汗をかきながらも、歩みは止める事なく…
しかし、荒く息を吐きながら、ランジェは舌打ちした。
今の格好が動きにくい、と言うのもあるだろうが…
息切れの原因は、恐らくは身体にみっちりとついてしまった、この脂肪の塊のせいである。
つまりは仮に着替えられたとしても、この息切れからは逃げられない、と言う事。
何とかして山賊側にいると思われる術師を見つけ出し、解呪させない限りは…
へたをすれば、一生このままの可能性だってあるのだ。
頭によぎる絶望的な可能性を振り払うように頭を振り…
それに合わせて丸々と膨らんだ身体をタポンタポンと揺らしながら、
ランジェはある部屋の前で立ち止まった。
別に、扉に何か変なものがある訳ではない、ただ…

 

「…消毒液の、匂い…?」

 

そう、戦士である彼女が自身の生傷を癒す時に、嫌と言うほど嗅いできた、
あの匂いがその部屋の向こうから漂って来たのである。
部屋の前で扉を見ながら、彼女は考える。
ランジェはこれから、もしかしたらすぐにでも山賊と戦わなければならない。
もし、万全な状態であったならほぼ無傷で居られただろうが…
今の身体では、勝てたとしてもギリギリだろう。
その時身動きが取れなければ、結局少年を助ける事も出来ず、そのまま果てる羽目になる。
…それでは、意味がない。
彼女の目的はあくまで少年の救出で有り、自分の小屋まで戻る事が目標なのだ。
それならば―――医務室が目の前にあるのは、好都合なのではないだろうか。
そう、自分の中で結論付けたランジェは、慎重に…
音をたてないように扉を開くと、中を覗き込んだ。
そして、中の光景に、彼女の眼が驚きで見開かれる。

 

…半ば廃墟だろうと思っていた医務室の中は、彼女が思う以上に整然としていて、
清潔感が保たれていた。
床には誇り一つなく、ベッドまで完備されており、棚の中には薬品類まで取りそろえられている。
だがしかし、何よりも彼女を驚かせたのは―――椅子に腰かけていた、白衣の男性… 否、
子供―――が居た事だった。
ランジェはこれまでの事を思い返し、思わず身構える。
元の身体ならば様になっていたであろうその姿も、鏡餅のような肥満体になった上に、
ベビー服に身を包んでいては滑稽でしかなく。
そんなランジェの様子を見た少年は、クス、と可笑しそうに笑みを零し、口を開いた。

 

「…どうしたの? 具合が悪いならこっちにおいでよ」

 

悪意も何も籠っていない、善意に満ちたその言葉に、ランジェは思わず毒気を抜かれる。
何しろ目の前の少年は椅子に座ったまま、ただこちらを見てるだけなのだ。
余裕がある、というよりはまるでそれが当然と言ったように。
そんな少年の姿を見て、ランジェは構えを解くと… 怪しむように、口を開く。

 

「…君は、何者だ? 此処は廃墟の筈だが」
「僕は医者だよ… 安心して良い、別に山賊と関わりがある訳じゃないさ。
この館が廃墟になる前から、ずっと此処に居るしね」

 

少年は屈託のない笑みを浮かべながら、頬を掻いた。
だが逆に、ランジェは驚愕に目を見開く。
…廃墟になる、ずっと前から?
此処はもう、廃墟になってから少なくとも年以上の単位がかかっているのに?
そんな廃墟に、この少年がずっと、居る…?

 

「まさか、君は…」
「うん、君の想像通りだよ。僕はこの館に住む地縛霊さ…
此処から、この医務室から、ずっと出られない、ね」

 

その言葉に、ランジェは思わず言葉を失う。
だがそんなランジェの様子を気にかける事もなく…再び、口を開いた。

 

「…で、具合が悪いんじゃないの?」
「あ… む… 確かに、具合は悪い、というのかも知れないが…」
「それじゃあ診せてよ。僕が診てあげるからさ」

 

屈託のない笑みを浮かべながらそう言う少年に、ランジェは断る事も出来ず…
少年の前の椅子に座ると、尻肉に深く椅子が食い込み、ランジェは落ち着かないように腰を動かす。
ランジェは、気がつかなかった。
ランジェが少年の前に座り込んだ時に、少年の口元に、歪んだ笑みが浮かんだ事に。

 

 

/医務室

 

「それじゃあ、先ずちょっと前をはだけて見せて?」
「う… す、済まない… この服… 実は、脱げないんだ…」

 

ランジェの言葉に少年は意外そうな顔をすると… 徐に、ランジェのベビー服を引っ張った。
強い弾性を持ったソレは、少年が引っ張るとゴムのように伸びる…
が、切れるどころかほつれる事もなく…
そんなベビー服をマジマジと見つめながらも、少年は肩を竦めてみせた。

 

「…ほんとだ、何か特殊な素材で出来てるのかな… 若しくは呪いか。
まあ、それじゃあこのまま診察しちゃうね?」
「あ、ああ。宜しく、頼む…」

 

ランジェがそう言うと、少年はコクリと頷いて…
手に持った聴診器を、ランジェの胸元に押し当てた。
ぶにゅ、と音がに超えそうな程に胸元の肉は柔らかく歪み、聴診器がめり込んで。
少年は首を傾げながら、何度も聴診器を押し当てると…
その度に、ランジェの身体中の肉がたぷたぷと震えてしまい。
その度に、ランジェは今の自分の身体を自覚してしまい、羞恥に顔を赤らめた。
そしてしばらくペタペタ、ぶにゅぶにゅと押し当て、離してを繰り返し…
ふう、と少年はため息を吐く。

 

「ダメだ、心音も何も全然聞こえないや… もう、ちょっと太り過ぎだよ?」
「あ、ぅ… い、いや、これは… 最初から、こうだった、訳じゃ…」

 

少年の窘めるような言葉に、ランジェは耳まで赤く染めながら、そう返す。

 

「そりゃあ始めから肥満な人なんていないよ。ちゃんと自制しなきゃ駄目じゃないか…
これじゃあ、その内病気になっちゃうよ?」
「だ、だから違うんだ。これは、この館の山賊達に… ひゃっ!?」

 

そんなランジェの言葉を遮るように、少年はランジェの腹を抓むと… 軽く、上下に振ってみせる。
たったそれだけのことだと言うのに、ランジェの身体はたぷんたぷんと波打ち…
ランジェは小さく声を漏らすことしか出来なくなってしまっていた。

 

「言い訳しちゃダメでしょ。そうやって直ぐに言い訳しちゃうから、太っちゃうんだよ?」
「ひゃっ、ぅ、ぁ… わ、判った… 判ったから、やめ…っ、やめて、くれぇ…」

 

たぷたぷと肉を震わせながら、年端もいかない子供に窘められた上に、肉まで揺らしてしまうという醜態をさらしたからか、ランジェは懇願するかのようにそう言って、瞳に涙を溜める。
その様子に満足したのか、少年はランジェの腹から手を離すと、笑みを浮かべた。

 

「良し良し、自分で認められれば肥満も解消できるんだから、ね?」
「あ… あ、ぅ… わ、わか… 判った…」

 

よしよし、と子供にするかのように、少年に頭を撫でられると、
ランジェは抵抗を覚えながらも、頷いてしまった。
本当は自分から太った訳でもないと言うのに… ただ、流れにそって、つい頷いてしまったのだ。

 

「それじゃあ、さっそく治療しちゃおっか」
「え… な、治るのか!?」

 

少年が何気なく放った言葉に、ランジェは思わず噛みつくように顔を上げた。
そんなランジェの様子に笑みを浮かべながら、少年は自信ありげに頷いてみせる。

 

「当たり前でしょ、これでも10年以上医者をやってるんだから。
それじゃあ、ちょっと待っててね〜」
「あ、ああ…」

 

少年は軽く言葉をかけながら、薬品棚を漁り出す。
その様子を不安げに… しかし期待するように、ランジェは見守っていた。
少しして、あ、あったあった、と呟きながら、少年は薬瓶を二つ取り出し、ランジェに見せる。
薬瓶の中の液体は両方とも液状で、同じ量が入っており…
唯一の違いと言えば、その色だけだった。

 

「…赤と、青の薬瓶?」
「うん、そうだよ。赤が不確定にする薬で、青が想像を反映する薬。
この二つを合わせて飲んで、理想の身体を想像すれば、たちまち肥満解消って事だね」

 

事もなげに言う少年に、ランジェは思わず眉をひそめた。
…本当に、そんな都合のいい事があるんだろうか?
これも、ひょっとしたら山賊達の罠なのでは…そんな、疑念を胸に抱く。

 

「…疑ってるみたいだね。
まあ、確かにこの薬はそんなに都合がいい薬じゃなかったりするんだけどさ」
「どういう事だ?」
「単純な話だよ… この薬の効果が切れた時に、その人はその姿で固定される訳だけど…
 …この薬は、人の深層心理を読み取るんだ」

 

そう言いながら、ふるふると薬瓶を少年は手で弄ぶ。
その様子を、ランジェも食い入る様に見つめていた。

 

「それで、何か不味い事でも?」
「当たり前だよ… 良いかい? 深層心理って事は、頭で考えたって駄目なんだ。
所謂本能が求めてる身体になるんだから、必ずしも元に戻れるなんて言えない。
寧ろ下手したら獣になったり、魔物になっちゃうかも知れないんだよ?」

 

少年の言葉に、ランジェは思わず息を呑んだ。
つまりは、下手をすれば… 私はもう、人間ですらなくなる、という事だ。
亜人ならばまだいい、下手をしたらただの魔物になり下がってしまう。
そう考えると、ランジェは身震いをした。

 

「…まあ、大抵の人は元の自分の姿を渇望するから大丈夫だと思うんだけどね。
でも、おねーさんみたいな意志薄弱な人には厳しいかも…?」
「…どういう意味だ?」

 

少年の言葉に、背筋を震わせていたランジェは思わずムッとした表情で問いかける。

 

「そのまんまの意味だよ? 肥満になっちゃう人って大抵意志薄弱なんだもん…
もしかしたら、唯の豚になっちゃうかもしれないし」
「馬鹿にするな、私は意志薄弱なんかじゃない… 貸してみろ」

 

ランジェは半ば少年の手から薬瓶をひったくる様にすると、拗ねたように少年を睨んだ。
恐らくは、少年の言葉にプライドを傷つけられたのだろう。

 

「んー、まあ良いけど… それを飲む時は、一気に赤、青の順で飲み干してね?
で、飲みほしたらベッドで寝ておく事。」
「判った…ん…っ」

 

少年の言葉に頷くと、ランジェは赤の薬瓶をあけ、一気に全て飲み干し…
次いで、青の薬瓶を一気に飲み干した。
そして、ふらふらと椅子から降りると、そのままベッドに倒れ込み、シーツを被って。
少年はそんなランジェの様子に苦笑すると、看病するかのように、ベッドの横の椅子に座った。

 

「…効果が出るまで、どれくらいかかるんだ?」
「ん、すぐに出るよ?ほら、もう変わってきた」

 

少年の言葉と同時に、ランジェの身体に変化が起き始める。
160cm近くまで縮んでいた身長は、徐々に伸び始め…
同時に、肉の柱のようだった腕も、細くなりながら長さを取り戻す。
そんな自分の様子に安堵を覚えながら、ランジェは感嘆するかのような視線を
自分の身体に向けていた。
突きだし、肉割れを作っていた腹も引っ込み始め、そして尻肉も、乳房も、
元の形を取り戻していく。
気付けば脂肪で真ん丸だった顔は元の状態に近くなっていて。
そんな自分に歓喜するランジェを見ながら、少年は…
ランジェに見えないように、歪に笑みを浮かべた。

 

「すごいやお姉さん、本当はそんな体だったんだね?」
「ああ… 山賊に罠にかけられた時はどうなるかと思ったが… ありがとう、助かったぞ」

 

笑みを浮かべながら、ランジェは少年に礼を言う。
少年もうんうん、と頷いて… そして、不意に、言葉を放った。

 

「…でもさ、お姉さん。それ、本当にお姉さんの元の姿なの?」
「え… あ、ああ。当たり前じゃないか」

 

少年の突然の言葉に、きょとんとした様子で、ランジェは答える。
それと同時に、順調に戻っていた身体は… 僅かに、鈍った。

 

「だってさぁ、さっきお姉さん、僕にお肉を掴まれてぷるぷるされてる時… 感じてたでしょ?」
「…っ!? ば、馬鹿な… 何を馬鹿な事を!!」
「そんな事言っても無駄だよ? だって僕は医者だもん…
患者さんの事くらい、一目でわかっちゃうよ」

 

そう言いながら、少年はランジェのお腹を摩り始めた。
そう…まるで、最初の診察の時を、思い出させるかの、ように。
それと同時に、腹筋で割れていた腹に、再びぷっくりと肉が乗り始める。
しかし、それに気付いていないのか… それとも、少年に気を取られているのか…
ランジェは、言葉を紡ぐ。

 

「ち、違う! そんな事はない、私は…」
「それにさ… 実は今の格好も気に入っちゃってるんでしょ?
ベビー服を着ながら館を歩くなんて、普通の人には無理だもん♪」
「違う! この格好は、無理やりさせられたんだ!!」

 

少年の言葉に、ランジェは頭を振って否定する。
…だが… そんな事など、嘘だと言わんばかりに… 元の身長まで戻っていたランジェの身体は、
再び縮み… 肉を纏い始めた。

 

「無理やり? でもさ、そう言ってる割には… 満更でもないって表情してたよ?」
「そんな… そんな事は…」

 

まるで、少年の言葉に洗脳されるかのように、ランジェは次第に語尾を弱め始めた。
その様子に、少年は先程までの無垢な笑みではなく… 狂気に歪んだ笑みを見せる。
だが、それが見えていないかのように… ランジェは、フルフルと頭を振った。

 

「それにさ… ほら、見てごらんよ… お姉さん、結局さっきの姿に戻ってきてるじゃない…」
「え… あ… そ、そんな…これは…こんなの、何かの間違いだ!」
「間違いっていうなら自分で確かめてごらんよ… ほら… 此処に鏡があるから… 立って…」
「う… ぁ、ぅ…」

 

少年に促されるかのように、ランジェは言葉に従い… 全身が映る大きな鏡の前に立つ。
そこに映ったのは、医務室に入った時の姿に戻りつつある、自分の姿だった。
その姿にランジェは目を見開き、声にならない悲鳴を漏らす。

 

「…ほら、もうこんなに戻っちゃった… お姉さんの本当の姿は、こっちなんじゃない?」
「ち…が、う… 私… 私、は… こんな、姿じゃ… こんな姿じゃ、ない!!」
「…へえ、中々強情なんだね」

 

はっきりと否定して見せたランジェに、少年は面白い、といったような笑みを見せる。
その表情に漸く気がついたのか、ランジェは鏡越しに少年を睨んだ。

 

「貴様…っ、一体何者だ!!」
「もう、騙す必要もないかなぁ… 良いよ、教えてあげる、子ブタさん♪」

 

小馬鹿にするように、ランジェの耳元でそう囁くと、少年は笑みを浮かべながら、
そっとランジェの肩を抱いた。

 

「…僕は、エヴァンジェ様の使い魔… そう言えば、解るかな?」
「エヴァンジェ… まさ、か… あのエヴァンジェか!?」
「そうだよ、子ブタさんがむかぁしむかし、プライドを踏み躙った、あのエヴァンジェ…♪」

 

少年が発した名前に、ランジェは思わず息を呑む。
エヴァンジェは、子供の頃ランジェの家の近くに住んでいた、巨人族の幼馴染だ。
生まれつき重病を患っていて、苛められているエヴァンジェをランジェは何度も助けた事がある。
だが、本当にそれだけなのだ…
感謝される事があったとしても、彼女から恨まれる筋合いなど、ランジェには無かった。

 

「誤解だ、私はエヴァンジェを苛めたりなど…」
「はいはーい、質問コーナーは終了、今はこっちを見ようね子ブタさん♪」

 

反論… と言うよりは、訴える様に言葉を放つランジェを遮るかのように、
少年はランジェの頬を掴むと、無理やり鏡に目を向けさせる。
少年に掴まれた頬はぶにゅ、と歪んでいて、圧迫された目が自然と押し上げられていまい…
ランジェは、滑稽な… 典型的な肥満児の顔を、晒してしまっていた。

 

「ほら… 違う違うなんて言ってるけど、やっぱり子ブタさんだよ、君♪
肉で塞がれた細い目を必死に開いて、鼻を鳴らして…さ… 本当に、豚みたいじゃないか?」
「だ、だから違うと言ってるだろう! ん、が… もう騙されんぞ、貴様の言葉には…っ」

 

そう言いながらも… ランジェは、実際に少年によって頬を抑えられた事によって、目を細め…
その目を、必死に開き… さらには、呼吸が苦しいからと鼻でも息をする度に、
無様に鼻を鳴らしてしまう。
その事実から目を背けることが出来ずに…ランジェは必死に否定しながらも、
半ば自分でさえ、少年の言葉に納得し始めてしまっていた。

 

「ほら… フガフガ鼻が鳴っちゃってるじゃないか♪ それに… さ、僕みたいな子供に諭されて…
実はさっき、感じちゃってたんでしょ?」
「ん、ご…っ、違う…っ、違う、違う違う! そんな事はない…
そんなの、全て貴様の、妄想だ…っ」

 

ランジェはそう言う度に荒く息を吐き…そして、鼻を鳴らし、無様な醜態を晒してしまう。
それだけではなく… 今度は、更に身長まで縮み始めたのだ。
少年よりも大きかった身長は、次第に近くなっていく。

 

「…ねぇ、良い事を教えてあげようか…」
「…ん、ごぉ…っ?」
「実はさぁ、あの薬… 別に願望をかなえるのでも、何でもないんだよね♪
一本目は一時解呪の薬で… もう一本は、さ…」

 

少年の言葉に見る見る内に、ランジェの表情が絶望に青ざめていく。
それじゃあ、さっき飲んだ薬は… 一体、何だったのか、と。
それを問いかけるよりも早く、少年は…耳元で、そっと囁いた。

 

「…身長と体重を入れ替える薬でした〜… そろそろ効果が出てくるよ♪
あっははは、残念だったねぇ、お姉さん… これで子ブタちゃん決定だぁ♪」
「な…っ、そ、そんな… そんな…っ、あ、あぁぁ…っ!?」

 

絶望するランジェの前で、姿見に映った自分が急速に姿を変えていく。
少年よりも少し高かった身長は縮み… 少年と同じ高さになり…
そして、それよりももっと小さくなって。
腹はムクムクと膨らみ、ベビー服を押し上げ…
乳房は申し訳程度に膨らみ、尻肉はムクムクと、勢いよく膨らんでいって。
足も腕も、身長が縮んだ分短くなるかのように、
短足と言われても差し支えないものになってしまい。
顔も横に広がっていって… 肉で目は細くなり、顎の下にも肉が溜まっていってしまう。

 

「ふ、ぶふぅ…っ、ん、が… あ、あぁぁ…」
「…ぷっ、あはははははは!!! 最高だよ最高!
もうお姉さん巨人族なんかじゃないよねぇ、こんなんじゃ!!」

 

変化が終わり… 入る時以上に肥え、そして縦に縮んだランジェの姿に、
少年はベッドの上で笑い転げる。
ランジェは息苦しそうに、必死に呼吸をして… 鼻を鳴らしながら、少年を睨みつけた。

 

「ふ、が…っ、よ、よくも…っ!!」
「あはは、何するつも…って、え… う、うわああぁぁぁぁぁっ!?」

 

笑い転げていた少年は、思わず驚愕に目を見開いた。
…肉塊が、目の前で飛んだのだ。
それも、自分めがけて。
当然の如く、避ける事も出来ずに…少年は、ランジェの下敷きになった。
骨が砕け、肉が潰れる音を聞きながら… ランジェは荒く息を吐き、起き上がろうと身を捩る。

 

「…っ、ぁ… あ、はは… 凄いや、おねえさん… こんな事、できる、なんて… エヴァンジェ様が… 憎み… 尊敬する、気持ちが… 良く、わかる、よ…」

 

ランジェが軽く身体を起こすと、そこにはペチャンコに潰れた少年の姿があった。
複雑骨折とか、そう言う事はないが… まるで、マンガのように一枚の紙ッペラになっている。

 

「…っ、はぁ… ん、ぁ… だか、ら… エヴァンジェに、恨まれる、覚え、など…」
「知らないよ、そんな事… まあ、いいや… これで、僕の役目も… 終わり、だし…♪」

 

にへら、と狂気と苦痛にゆがんだ笑みを見せる少年に、悪寒を覚えるも…
気付いた時には、既に遅かった。
カチリ、と首元で音が鳴り…そ して、体中に熱が走る。

 

「…っ、あ、あぁぁ…っ!? な、何を… した…っ!!!」
「あは、は… エヴァンジェ様から… 君への、プレゼント、さ… 喜んで、おくれよ…♪」

 

息も絶え絶えに、少年はそう呟くと… 煙のように、姿を消す。
くそ、と悪態を吐きながら、ランジェは熱を持った身体を抑え込むかのように、
その場にうずくまった。

 

「う、ぁ…っ、あ、あぁぁ…っ!」

 

余りの熱さに悶えるランジェ。
その身体は、膨らむ訳でもなく… 今までただ、だらしなく広がっていた贅肉が、
まるで持ち場に戻るかのように、均整のとれた形になって。
下半身中心に付いていた肉は、腕にもぷくぷくとつき始めて…
それだけではなく、脇の下まで段差ができるほどに、肉が付き。
そして…ランジェの耳は、肉を纏いながら、横に広がり始めたのである。

 

「はぁ…っ、ぁ、ぁ… 一体、何が…」

 

熱が治まったのか、荒く息を吐きながらも、ランジェはゆっくりと起き上がり…
そして、鏡に目をやった。

 

「…あ… あ、ぁ… なんだ… 何だ、これは…?」

 

そして、信じられないと言った様子で、顔に手をやる。
先程までと比べると、逆に顔はぷくぷくとしながらも、見難いものではなくなっていた。
身体中の肉もバランスよく付き…良くも悪くも、乳房以外は均整のとれた身体にはなっている。
しかし… 彼女を驚かせ、絶望に叩き落としたのは… 彼女の、耳だった。
プックリと肉を纏い、大きく横に付きだしたその耳の形には… どこか、見覚えがあったのだ。

 

「…こ、これ… これは… ぶ、豚、の…?」

 

そう… まだはっきりとした形にはなっていないが、豚のような耳の形になっていたのである。
それだけではない… ランジェは、尻肉の辺りから感じる違和感も、感じ取っていた。
僅かにベビー服を押し上げている、これは…尻尾、だ。

 

「そ、そんな… そんな、まさか…っ」

 

悲鳴を上げそうになる自分を、ランジェは必死に抑える。
悲鳴を上げてはいけない。
心が折れてしまったら、少年は誰が助けるのだ、と自分を叱咤する。
そうして、ようやく荒く息を付きながらも、平静を取り戻すと…
ランジェは、医務室の棚を漁り始めた。
縮んだ身体では高い所に手が届かず、悪戦苦闘するが…目当ての物を見つけたらしく、息を付く。

 

「…ん、ふぅ… あ、有った…」

 

彼女の手に握られていたのは、手術用のナイフだった。
手入れされていたのか、鈍く光りを放つそれを袋にいれると、腰に括りつけて…
そして、決心したかのように、歩きだす。
魔法の主が解れば、後は…と、一縷の希望に、かけるかのように。

 

 

/ステータス変化
・パルヴァ=ランジェ(種族・巨人族)
 年齢:15歳
 身長:165cm
 体重:145kg
 3サイズ:100・120・140(重度肥満)
 装備:呪いのベビー服
 備考:年齢退行につき、戦闘力大幅ダウン。しかしまだ山賊よりは強い。
 ↓
・パルヴァ=ランジェ(種族・巨人族(豚30%))
 年齢:15歳
 身長:145cm
 体重:165kg
 3サイズ:120・140・155(重度肥満)
 装備:ナイフ・呪いの首輪・呪いのベビー服
 備考:身長と体重がスワップした。

    更に呪いの首輪によって豚種が混じり始めたため、巨人族としての能力ダウン。
    武器は有るものの、戦闘力は山賊の子分程度に。

 

 現在??度:-9

 

 

次選択肢候補
A:二階・勉強部屋を探す(羞恥系・重度)
B:中庭・薔薇の迷路を探す(変化系)
C:二階・書斎を探す(羞恥系)
D:一階・宿直室を探す(変化系)
E:一階・ダンスホールを探す(変化+羞恥系)

 

 

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