魔王の愉悦と、王女の…

魔王の愉悦と、王女の…

前へ   4/14   次へ

 

 

洞窟の奥へと消えたリーンを追い、4人は洞窟の更に奥へと足を踏み入れた。
重くなった身体ではゆっくりと、それこそ本当に亀の如く鈍重にしか歩みは進まなかったが、
それでも一歩一歩、確実に奥へと進んでいく。
時折現れる魔物も、殆どはアーリアに斬り伏せられ、背後から来てもニーナに首を切られ、
上から襲えばセフィリアとパージャの魔術で消し炭に、と、進む速度はさておき、
4人の歩みは非常に安定していた。
そうして休憩を挟みながら、2時間ほど歩き続けただろうか。
そこでようやく、代わり映えのしない岩の通路に変化が現れた。

 

「…あれは… 門、でしょうか…?」
「そうですね… どうやら、此処が最奥部のようです」

 

アーリアの言葉に、セフィリアはそう答えると一歩前に歩み出る。

 

「待った、セフィリア様。此処は私に任せときな、罠でも有ったら事だろう?」
「…罠の解除に失敗しなきゃいいですけど」
「パージャさん? …申し訳ありません、ではお願いしますね、ニーナさん」

 

小さく苦笑しながら、あいよ、と軽く返事をするニーナ。
どうやらカギが掛っていたのか、懐から細い棒が幾つも集まったようなツールを取り出すと、
ニーナは事もなげに扉のカギを外して見せた。
そんなニーナの技に、3人はほぅ、と感嘆の息を漏らす。
…そして、パージャは漏らした後に、悔しそうに舌打ちした。

 

「では、開けるのは私がやります。ニーナ殿は下がっていて下さい」

 

アーリアの言葉に小さく頷き、後ろに下がるニーナを確認すると、
アーリアは慎重に、自分を盾にするように、扉を開く。
…その瞬間、4人は眩いばかりの光に包まれた。

 

「お待ちしておりました、セフィリア王女」
「…ようこそ、勇敢な姫君と、従者諸君。歓迎するよ」

 

眩い光の中から、先ほど聞いた声と男の声が響く。
漸く眼も慣れ、眼前の光景を見ると…
そこには、とてもではないが信じられない光景が広がっていた。
…青く、澄んだ空。
足元には草むらが広がり、さわやかな風が吹くとさわさわと揺れて。
そして、目の前にあるのは白く丸い机と、それに腰掛けるリーンと、一人の男。
男は人懐っこい笑みを浮かべており、その表情には敵意の欠片もなかった。

 

「…貴方が、魔王ですね」

 

しかしそんなゼブルの様子を意に介する事もなく、セフィリアは冷たい口調で、そう呟いた。
そんなセフィリアの様子に、ゼブルはふむ、と小さく頷くと、至極丁寧に返事を返す。

 

「その通り、私がこの迷宮の魔王、ゼブルだ。ゼブルと呼んでくれて構わないよ、セフィリア王女」
「判りました、ではゼブル… 王女の名の下に、貴方を滅します。お覚悟を」
「…聊か失礼ではありませんか、セフィリア王女。ゼブル様は―――」

 

セフィリアの態度に文句を言おうとするリーンの口を、ゼブルがそっと抑えた。
ゼブルの手が口に触れた瞬間、リーンは少しだけ頬を赤らめ、そして口を閉ざす。

 

「その態度は当然だ。私は魔王で、君は一国の王女。民を守ろうと必死に頑なになるその姿…
 うむ、実に素晴らしい」
「下卑た目でセフィリア様を見るな、魔王」
「余裕扱いてるとぶっ飛ばしちゃうよ?」
「…まあ、オコチャマに同意するのは癪だけど… 私も同意見さね」

 

まるで愛玩動物を愛でるかのようなゼブルの視線に、3人はセフィリアを守る様に前に出た。
各々武器を構え、もし切っ掛けさえあれば、今すぐにでも戦闘に入れるように。
だが、ゼブルはますます笑みを深め、3人にまでその視線を向ける。

 

「いや… 済まないな、そんなつもりは無かったのだが。
 君達3人も、セフィリア王女と同じくらいに魅力的だよ… 久方ぶりだ、良き魂に出会えたのは。
 …もちろん、リーン… 君が一番だが、な?」

 

クク、と笑い声を漏らすゼブルに、リーンは少しだけ嫉妬するように…
寧ろ拗ねるような表情を浮かべ。
そんなリーンの様子に気付いたゼブルは、慌ててリーンの頭を撫で、弁明した。
その様子にさえ油断する事なく、交戦の意思を解かない4人に、
ゼブルはふむ、と小さく声を漏らすと… 手を空に掲げ、そして指を鳴らす。
それと同時に、四人は其々別の色の魔法陣に覆われて… 次の瞬間、姿を消した。

 

「…ともかく、その魂が偽か真か、試させてもらうとするか。偽ならば惜しくはないし、真ならば…
 ふふっ、リーン… 私達にも娘が出来るかもしれないな?」
「娘… 浮気相手の間違いではありませんか?」
「し、辛辣だな、君は… 大丈夫だ、私は君一筋だよ」

 

そうして、残った二人はしばらくの間痴話喧嘩を続けていた。

 

 

 

…4人は、それぞれ別の場所で目を覚ました。
分断されたことを瞬時に悟ったセフィリアはテレパスでパージャと交信し…
パージャは、他の二人にも回線をつなげる。

 

「…聞こえますか、パージャさん、アーリアさん、ニーナさん」
「聞こえてるよ… セフィリア様は大丈夫?」
「同じく、聞こえています… 此方は問題ありません」
「…私も聞こえてる。まあ、概ね問題ないね」

 

自分以外の安否を確認すると、4人はそれぞれ安堵し… その瞬間、割って入る声があった。

 

『突然の無礼で申し訳ないが… 君達が本物かどうか、少しテストさせて貰おう。
 君達は全員別の場所へ飛ばされたと思うが、そこは其々まったく違った迷宮になっていてね。
 …その迷宮を抜ければ、君達はまた合流できる。
 そして、迷宮を抜けたその先で、私は待つとするよ… では、頑張ってくれたまえ』

 

突然、4人の頭に響いた声は、間違いなくあの魔王の声だった。
4人は其々苦々しく思いながらも、セフィリアが口を開く。

 

「…どうやら、其のようですね。残念ですが、此処からは各々切り抜けるほかないようです」

 

その声に混じるのは、少しの恐怖と、そして申し訳なさ。
責任を感じているのであろうと、3人は即座に感じ取り…
そして、口を開こうとすると、それを遮る様にセフィリアの声が響いた。

 

「ですが、私は皆を信じています… また、無事に再会しましょう」

 

セフィリアのその言葉に、3人は其々小さく頷いて見せると、言葉を返す。

 

「当然です。あの魔王を、打ち倒して… そして、国へ帰りましょう」
「任せて、セフィリア様! ぱぱっと抜けて、さっさと終わらせちゃうんだから!」
「まあ、以下同文さね」
「…有難う、御座います… 皆… では、また後で…」

 

3人の言葉にセフィリアはコク、と頷くと…小さく言葉を交わし、テレパスを切った。
4人の前に広がるのは、全く違った地獄。
しかし4人は、必ず再会するという約束を胸に、其々の地獄へと向かって行った。

 

…それが、どういった結末を招くのかも知らずに。

 

 

前へ   4/14   次へ


トップページ 肥満化SS Gallery(個別なし) Gallery(個別あり) Database