魔王の愉悦と、王女の…

魔王の愉悦と、王女の…

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先にいち早く迷宮から脱出していたセフィリアは、
洞窟の奥から現れた、小さな影に視線を向けると…
悲しそうにしながらも、声を出した。

 

「…ニーナ、さん… ですよね?」
「そういうあんたは、せふぃりあさま… かい? くそっ、まおうのやつ、よくもこんな…!!」

 

お互いに変わり果てた姿を見ながら、ニーナは苦々しく吐き捨てる。
セフィリアは申し訳なさそうに肩をすくめるも…
そんなセフィリアの様子を見て、ニーナは小さく息を吐いた。

 

「…せふぃりあさまのせいじゃないさ、わたしがゆだんしたんだ…
 それに、まおうをたおしたら… せきにんは、とってくれるんだろ?」
「…ええ、王女の名にかけて、必ず… 責任を取ります。
 私の人生をなげうってでも、皆を元に戻します… 約束、します」

 

ニーナの冗談めいたセリフに、セフィリアは少しだけ微笑むと… そう言って、再び前を向いた。
そんなセフィリアの様子に、ニーナは安心したように胸をなでおろすと…突然響いてきた、
ドスン、ドスンという足音に振り返る。
見れば、そこには巨大な… とはいっても、二人からすればだが… 影が、
全身を揺らしながら歩いてきていて。
少しすると、荒く息を切らせながら… ようやく、
それが二人の知っている人物なのだと判別できた。

 

「ぜひっ、ぜひ…っ、んが、ぁ… せふぃり、ぁ… しゃま…?
 それに… にーな、どの… でしゅ、か?」
「アーリアさん… 良く、此処まで来てくれました。どうぞ、体を休めて下さい…
 まだ、パージャさんも来てませんから」
「…あんたもさいなんだったね、あーりあ… まあ、すわってやすみな。
 たってるのもけっこうきついんだろう?」
「ぜぇ、は…ぁ…っ、は、ひぃ… それじゃあ、おことばに…
 あまえしゃしぇて、いただきましゅ…」

 

二人の心配そうな言葉に、心底掬われたような表情を浮かべると…
その場に、アーリアは尻もちを付くように座り込んだ。
ズン、という重い音と共に、軽く洞窟が揺れる。
そうして3人が揃ってから一刻ほどした後…
ようやく、聞き覚えのあるもう一つの声が、三人の耳に届いた。

 

「…っ、セフィリアさまぁ〜っ、アーリアさんっ、ドロボ… ニーナさぁん…っ!!」

 

ふよふよと、巨体を浮遊させながら、まるで泣きつくような声を上げるその影は…
変わり果てた姿ではあるものの、3人にはすぐにそれがパージャだと理解できた。
互いに変わり果てた姿になりながらも、生きて再会できた喜びに、4人は思わず安堵の息を漏らし…
笑みを浮かべる。
…無論、今の4人では… 魔王はおろか、上位の魔物が襲って来よう物なら
敗北しかねない程に弱体化しているのだが、その現状を4人は極力考えないようにしていた。

 

「パージャさん… これで、全員揃いましたね」
「ええ… ぱーじゃしゃん、よくここまできてくりぇました」
「まあ、がきんちょ… いや、ぱーじゃにしちゃがんばったほうなんじゃないか?」
「…ありがと、皆… その… 私の事… 笑わないで、くれて…」

 

パージャの言葉に、3人は其々首をかしげて… そして、心の中で、あ、と言葉を漏らした。
3人は20歳を超えた大人ではあるものの、パージャは未だ10代の子供なのだ。
…身だしなみにも一番気を使う時期だと言うのに、こんな事になってしまったなら、それは…
3人とは比べ物にならない程にショックだったのだろう。
きっと、此処に来るまでも… 自分達に笑われるのではないか、とか…
嫌われるのではないか、という不安に駆られていたに違いない。

 

「…ばかだなぁ、あんた… ここまできたやつをわらうわけないだろ?」
「そうでしゅよ、わたちなんて… その、こんなの、でしゅし…」
「そうですよ、パージャさん… 誰も、貴女を馬鹿になんてしませんから」
「…皆… ありが、えぐ…っ、ありが、と…っ」

 

3人の優しい言葉に、パージャはボロボロと泣きだして… 3人はそんなパージャに、優しく接した。
そうしてしばらくした後… パージャも落ち着きを取り戻すと、4人全員に浮遊の呪文をかけて。
3人は漸く自重から解放されると…先程から、視界にあった怪しげな扉に手を伸ばした。
扉は、触れた瞬間に自分から内側に開いて… そして、再び4人は光に包まれる。

 

既に一度受けていたからか、4人の視界はすぐに戻り…
目を開ければ、そこにはまるで、子供の玩具のような色彩の部屋が、広がっていた。
その部屋の奥には、見覚えのある人物の…リーンの姿もあり… 4人はすぐに、戦闘態勢に入る。
ニーナを守るように、セフィリアは前に立ち…
その二人を守る様に、パージャとアーリアが前に立った。
そんな4人の様子を見て、リーンは恭しく頭を下げる。

 

「…驚きました、まさか心を壊す事なく此処まで辿りつくとは…
 正直貴女方を見くびっておりました、謝罪いたします。
 しかし、随分と素敵な姿になりましたね… 正直、少し羨ましいです」

 

リーンのその言葉にも、4人は動じる事もなく… しかし、リーンは気にする事なく言葉をつづけた。

 

「…脱線しましたね。ですが… まだ、偽か真かを決めるには聊か早いので、
 今一度試させていただきましょう。…どうか、貴女方が… ゼブル様の…
 いえ、私達の子供に相応しい事を、祈っています」

 

そう、優しく… 母親が子に話しかけるように、柔らかく呟くと、リーンはそっと4人に手を翳し。
それと同時に、浮遊していた4人の身体はふわふわと、優しく地面に降ろされて…
それと同時に、暖かな光が4人を包み込んだ。

 

「…え… 身体が、軽い…?」
「人間の身でその身体は、不自由だと思いましたので…
 僭越ながら、補助をさせていただきました。
 では、この場の試練を預かる物として… 説明に、入らせていただくとしましょう」

 

優しかったリーンの口調が、再び冷たい、事務的な物に戻る。
四人は若干は動かせるようになった身体を軽く、確かめる様に動かしながら…
リーンに、視線を向けた。

 

「此処は運命流転の間… 貴女方くらいの年齢ならば解ると思いますが、
 俗にいう双六をこれから行っていただきます。プレイヤーは貴女方4人で、
 4人の内一人でもゴールに辿り着けば、その時点でこの試練は終了です。
 全20マスと言う事もありますから、比較的直ぐにクリア出来るでしょう」
「…随分と易しいんですね… どうせ、悪質なトラップが満載なのでしょう?」

 

リーンの説明に、セフィリアは珍しく… 刺々しい言葉を返す。
そんなセフィリアの言葉に、リーンは肩を竦めながら説明を続けた。

 

「…無論、マスに効果はありますが… セフィリア王女の言うとおり、この試練は易しいので、
 その効果を他の3人の内の誰かが肩代わりする事も出来ます。つまり、当の本人さえ良ければ…
 3人は一切効果を受けずに、ゴールする事が可能なのです。…ただし、肩代わりをするには、
 肩代わりをする側がそれを望む必要がありますが。
 ああ、因みに一度効果が始まった後は肩代わりはできませんので、ご了承ください」

 

そこまで言って、リーンはそっと手を翳すと、大きなサイコロが現れて。
セフィリアやニーナでも大丈夫なように、非常に軽く出来たそれは、ポンポンと跳ねて、
四人の前に転がった。

 

「では、この先の部屋で、ゼブル様とお待ちしております… また、お会いできますように…」

 

そして、リーンはそう言うと深々と頭を下げて… まるで煙のように、消えて行って。
それと同時に、部屋は明るくライトアップされて、4人の目の前に、出口まで続くマス目が現れた。
アーリアが試しにマスに足を踏み入れようとするも…
まるで見えない壁があるかのように、足は何かにぶつかって先に進めず。
否応なしに、双六に参加しなければならない事を、4人に自覚させた。

 

「…みんな、こうかはわたちがひきうけましゅ…
 いちばんひがいがしゅくないのも、わたちれしゅから」

 

アーリアの言葉に、3人はきょとんとして… そして、軽くアーリアの身体を小突いた。
小突かれたアーリアの身体はたぷんたぷんと弾み、アーリアは軽く声を漏らして。

 

「ひゃ…っ、な、なにをしゅるんれしゅか!?」
「ばかいってんじゃないよ、まったく… そんなことして、
 だれかがよろこぶとおもってんのかい?」
「アーリアさんに全部押し付けて、自分達が綺麗なままなんて…
 そんなの、嫌にきまってるじゃない」
「…まあ、そう言う事ですね。皆で魔王と倒して脱出しなければ… 私も、嫌です。
 ですから、よほど誰かが… 行動不能になるとか、そう言うことでも無い限りは、
 お互い、自分の効果は自分で引き受けましょう?」

 

3人の言葉に、アーリアは… 先程の自分の言葉を恥じながら、小さくうなづいた。
そうして、セフィリアはサイコロを短い両腕で持ち上げると…高く、放り投げる。
ポーン、ポーンと高く跳ね、転がるサイコロを4人は真剣に見つめて…
そうして、しばらく跳ねた後に、漸くサイコロは止まった。

 

「…4、のようですね。では、行ってきます」
「せふぃりあしゃま… どうか、ごぶじで…」

 

アーリアの心配そうな声に、微笑みながら返すと…
セフィリアは、幾分か動かしやすくなった身体を左右に揺すりながら、自分のコマを目指し始めた。
身体が軽く感じるとはいえ、身体に付いた肉の量は変わる事はない。
まるでペンギンのようにヨチヨチと、左右に身体を揺らし、尻肉を弾ませながら歩くその姿は、
余りにも滑稽だった。
しかし、3人はそんな事を気にする事もなく… 先に進んだセフィリアを、心配そうに見つめて。
たった数メートルを5分ほどかけて、ようやくマス目に辿り着いたセフィリアは、
ふう、と小さく息を吐いた。
それと同時に、4人の前に、それぞれ魔力で書かれた文字が浮かび上がる。

 

『目の前に並ぶのはケーキの山。貴女はそれを、心行くまで貪って良い』

 

浮かびあがったその文字に、首を傾げる4人。
…これでは、効果と言うよりはただの文ではないのだろうか。
そもそも、これでは逆に何もしなくてもいいと言う事でもあって…

 

と、そこまで考えたところで、唐突にセフィリアの身体がふわっと、持ち上がり…
ぽす、と椅子の上に座らされてしまった。
椅子はセフィリアの身体に合わせているのか、座る部分は広く、
セフィリアの巨大な尻でもはみ出す事なく納まって。
次いで、白いテーブルが現れたかと思うと、
次々にケーキ(ホールではなく1ピース)が現れていく。

 

「…要するに、これを食べなければ良いのでしょうか…?」

 

眼の前にケーキを積まれたセフィリアは、事もなげにそう呟く。
…そんなセフィリアの鼻孔に、ケーキの甘い匂いが届き始めた。
砂糖の甘い香り。果物の仄かな香り。ミルクの優しい香り。チョコレートの香り…
普段は気にもかけないそんな香りに、セフィリアは表情を少し蕩けさせて。

 

「(…そう言えば… 普段から公務ばかりで、こういったものは滅多に食べませんでしたね…。
  一つくらいなら… 味見くらいなら、してみても大丈夫、でしょうか…?)」

 

そう、普段ならば決して揺れる事の無い心が僅かに揺らぎ…
セフィリアはフォークを手に取ると、目の前のショートケーキを掬って、上品に口に入れた。

 

「…おい、しい… こんなに、ケーキが美味しいなんて…」

 

口の中でとろける生クリームの甘さと、スポンジの甘さ。
そして、イチゴの酸味にセフィリアは感動したかのように声を漏らして。
そして、少しずつショートケーキを掬っては口に入れ、と言うのを繰り返すと…
あっという間に、ショートケーキを一つ平らげてしまった。

 

「ああ… 美味しかった… あ、このチョコレートケーキも、美味しそうですね」

 

一つだけ、味見くらいと思っていた筈なのに、
セフィリアはチョコレートケーキを手前に引きよせると、再びケーキを口にし始める。
普段ケーキを食べない事もあるが、用意されたケーキの美味しさに素直に感動し…
そして、チョコレートケーキもあっと言う間に平らげてしまう。

 

「…あれ… セフィリア様の様子、何かおかしくない?」
「しょうれしゅか? …せふぃりあしゃまは、ごこーぎでけーきをたべりゅことは
 めったににゃいからじゃないれしょうか」
「あー… たしかに、せふぃりあさまはいつもいそがしいらしいしねぇ
 いや、でもいくらなんでも… セフィリアさま、セフィリアさま?」

 

次々にケーキを食べていくセフィリアを見ながら不審に思ったニーナは、
大きな声でセフィリアに呼びかける。
…しかし、セフィリアはニーナの声などまるで聞こえてなどいないかのように、
夢中になってケーキを食べていた。

 

「…美味しい… モンブランも、こんなに美味しいなんて… ああ、あれはミルフィーユ…
 あれも味見してみましょう♪」

 

楽しげに、まるでケーキを前にした普通の女性のように明るく、ケーキを取っていくセフィリア。
ニーナの呼びかけも届かないその様子に、ようやく異変に気が付いたのか、
アーリアもセフィリアに呼びかける。

 

「…せふぃりあしゃま!? いっかいてをとめてくだしゃい、せふぃりあしゃまっ!!!」
「まさか… くそっ、セフィリアさま、こっちをみるんだ、セフィリアさまぁっ!!!」
「待って、今テレパスで…? 嘘、なんで… 回線が繋がらない!?」

 

慌てた様子でテレパスをしようとするパージャだが、何故かセフィリアに回線は繋がらずに。
アーリアやニーナの必死の呼びかけも、セフィリアには届く事はなく…
そして、次第にセフィリアの様子が変わり始めた。
今まではフォークで上品に食べていたセフィリアだが、
今度はケーキにフォークを突き刺して、直接齧り始めたのだ。

 

「あむっ、ん… あぁ… このタルトも、サクサク感が溜まりません…♪」
「セフィリアさま! めをさませ、セフィリアさまっ!!!」
「お願いセフィリア様、手を止めて!」

 

外からの声が聞こえないのか、セフィリアは陶酔したような声を漏らすと、
再びケーキにフォークを指して、齧り。口元をケーキのクリームやシロップ
、それにスポンジで汚しながらも、それを気にする事なく食べて行って。

 

「…んぐっ、ああもう… もどかしいですね…っ」

 

苛立つようにそう言うと、とうとうケーキを手で直接つかみ…
大きく口を開けて、貪る様に食べ始めたのである。
アーリアやパージャ、ニーナは必死になってセフィリアを止めようとするが、
スタート地点から出る事は叶わず… 声も届かず、テレパスさえ届かずに。
まるで口にねじ込むように、ケーキを貪っていくセフィリアの身体は、
次第にブクブクと膨らみ始めていた。
椅子に余裕を持って納まっていた巨尻は、ミチミチと横に広がり、椅子からはみ出して。
背中の肉も、次第に段を作ってしまう程に膨れ上がり…
腕はたっぷりと肉を蓄え、肉に塗れた指は太く、短くなり。
手に、ドレスにクリームとスポンジ等の食べカスをつけながら…
それでも食べる事を止めないセフィリアの身体は、どんどん横へと膨らんでいった。
そうして、テーブルの上にあったケーキが無くなると… セフィリアは、椅子に寄りかかって。

 

「…ぐぇっぷ… ごちそう、さまでしたぁ…♪」

 

はしたなく、下品にゲップをして見せると…
その途端に、椅子と机は消えて、セフィリアは床に降ろされて。
着地と同時に、全身はたぷんたぷんと弾み、腹に至っては少しでも屈めば
地面に着いてしまう程になっていて。
身体中から、ケーキの甘い香りを漂わせながら… セフィリアは漸く正気を取り戻すと、自
分の姿を見て声にならない悲鳴を上げた。
3人は駆け寄りたくとも駆け寄れない現状に歯ぎしりしながら…
セフィリアに慰めの言葉をかける以外の事が、出来なかったのである。

 

 

(ステータス変化)
・4マス目
名前:セフィリア・ローラン
年齢:25歳
身長:125cm(肉の分身長UP)
体重:216kg
3サイズ:130・163・217
備考:魔術と僧術を使える王女。
どうやら魔王を倒す秘策を携えているようだが…?
身体中に更に肉が付き、リーンの魔法の補助が無ければ自重で動けなくなる程に肥満化した。
尻は常に地面に擦れて、腹も少し屈めば地面に付くほど。
更に、体からは常にお菓子の甘い香りが漂うようになってしまった。
服にはシロップやクリームなどの食べカスがこびりついているが、
今のセフィリアではそれを取る事は不可能。

 

 

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