魔王の愉悦と、王女の…
「アーリアさん… クソッ、二人共壊れちゃいないが、もう限界だろう、これじゃあ…っ」
「…ニーナさん… 私達… このまま、終わっちゃうの…? こんな、地下で…
誰もいない、暗い場所で… ブヨブヨになって、壊れて… そんなの、やだよぉ…」
二人の惨状を見て、ニーナは苦々しく、吐き捨てる様にそう呟き…
パージャも心が折れ掛けているのか、その場でボロボロと泣き始めてしまった。
そんな状況に、ニーナもまた心が折れそうになるが…
パァン! と、自分の頬を強く叩くと、サイコロを手に取った。
「…終わらないよ、終わるもんかい。諦めるにはまだ早いさ… パージャ、まだ泣いちゃ駄目だ」
「ニーナ、さぁん…」
「私達まで諦めたら本当に終わっちまう… そしたらセフィリア様達はずっとあのままなんだよ!?
そんな事許せる訳ないじゃないか… 絶対此処を抜け出して… クソ魔王の奴を、ブッ倒すんだ!」
パージャを元気づける様にそう叫ぶと、ニーナはサイコロを再び放り投げた。
コロコロと、サイコロは転がり… それと同時に、ニーナが再び前に歩き始める。
そして、ニーナは7マス目で止まり… 同時に、サイコロも6の面で止まって。
魔力の文字が再び4人の前に浮かび上がると、ニーナは… 息を呑んだ。
『好きなだけ進むが良い。但し、欲深き者は地獄へ落ちるだろう』
額面通りに受けていいのならば、これはつまりゴールまで進めると言う事だ。
このゲームは、誰か一人がゴールに到達すればその時点で終了する。
つまり… 自分が犠牲になるつもりで進めば…
「…駄目だ… それじゃ、駄目だ… 落ち着くんだ、私…
それじゃあ、魔王と戦うなんて絶対に出来ない…」
そこまで考えて、ニーナはそう言って頭を振った。
…もしこれで、自分までセフィリアやアーリアと同じ状況になってしまえば
戦えるのはパージャ一人。
セフィリアも魔術は使えるだろうが、今の状況では戦力になるかすら怪しい。
此処を抜けても戦えるのがパージャ一人では…
魔術を詠唱する隙を突かれて、容易くやられてしまうだろう。
それでは、意味がない。
「…兎に角、一歩でも多く… 私が動けなくならない程度に、進まないと」
そう言いながら、深く息をついて… そして、一歩ずつ前に歩きだす。
一マス進んだ瞬間、ニーナの身体を光が包み… ぷくぅ、と、全身が僅かに膨らみ始めた。
脚はより太く、腹は前に、腕は指先まで僅かに膨らみ…
それを確かめる様にしながら、ニーナは一マスずつ、確実に進んでいく。
「ニーナさん… 気を付けて… ニーナさんまで、ダメになったら私ぃ…」
「大丈夫… 心配なさんな、程良い所で止めるさ… この格好だって寒いし、丁度良いくらいさね」
心配そうに声をかけるパージャに軽く手を振りながら、ニーナは…
一マス進むごとに、体を膨らませていく。
ぽっちゃりで済まされる程度ですんでいた身体は再び肥満体に変わり… 足はドラム缶のように
太く、腹は突き出し… スモックは乳房を隠さず、まるで前掛けのようになって。
腕は二の腕にたっぷりと肉を蓄え、巨尻を治めているオムツはどういう素材でできているのか、
伸縮しながらしっかりと包み込み。
ニーナは、全身から汗を流しながら… 徐々に息を荒く吐き、
そして7マス進んだ時点で、足を止めた。
「はっ、は…っ、これ、なら… 次で、私がゴール出来る… ね…」
そう言いながら、ニーナはその場に膝をつき… そして、自分のもう一つの異変に気が付く。
「…なあ、パージャ… ここ、こんなに暑かったかい…? まるで、蒸し風呂みたいだよ…」
「え… ずっと変わってないよ? 寧ろ、ちょっとひんやりするくらいだけど…」
やっぱりか、と舌うちをするニーナ。
その身体には汗が滴り落ち… 目を細めてみれば、湯気さえ見えてしまうほどで。
スモックは身体にベッタリと張り付き、オムツの中まで蒸れた状態になっているのが解り。
ニーナは、自分の周りに次第に水たまりが出来ていくを見ながら…
両手をつき、少しでも冷たさを感じようと、床に大の字に寝そべった。
(ステータス変化)
・14マス目(実質リーチ)
名前:ニーナ・ヴァルナ
年齢:28歳
身長:167cm
体重:158kg
3サイズ:125・138・129
備考:外せない鍵は存在しないと言われている女盗賊。
全身に肉を纏い、滑稽な格好をしては居る物の、戦闘に支障はない。
だが、極端な発汗体質(暑がりでもある)になってしまい、
身動きをすればそれだけで滝のように汗を流してしまうようになった。
どういう訳か、脱水症状になる訳では無く…
ただ、周囲に汗のにおいと湿度を発生させているだけである。
「…っ、ぁ…安心しな、パージャ… これで、次で脱出、だ…」
「う、うん… うん…っ、後は… 次のニーナさんまで、持ちこたえれば…」
「…ニーナ、さん… ありが… ぐぇっぷ… ありがとう、御座います… 私も… 何とか…
げぷぅ、あと一回… 耐えて、見せます、から…」
「わたち、も… わたちも、がんばりゅ… がんばり、ましゅ…っ」
希望が見えた事で、3人に再び活力が戻っていく。
自分達に降りかかった惨状に変わりはないが、それで道を切り開いたニーナの姿に
心を打たれたのか…項垂れ、茫然自失としていたセフィリアとアーリアも顔をあげ、
ニーナにそう言って。
パージャも負けじとニーナに、涙を浮かべながら感謝すると… サイコロを掴み、投げ上げた。
ぽーん、ぽーん、と何度かバウンドした後… サイコロは、2の面で止まる。
「…わ、私って双六に弱いのかな…うぅ…」
他の三人と比べ、かなり後方に取り残された形になるパージャは
少しだけショックを受けたようにして。
ハムのように絞り出された肉をたぷんたぷんと波打たせながら、2マスだけ進み…
そして、その瞬間、4人の目の前に魔力の文字が現れた。
『晒されるのは己が姿。言葉の刃は心を裂き、魂を砕く』
眼の前に現れた文字に、パージャは顔を蒼褪めさせて…
しかし、頭を振ると、先程のニーナを真似る様に、頬を両手で叩いた。
…たぷんたぷんと波打つ自分の頬と顔に、少し苦々しく思いながらも心を落ち着かせる。
「…皆、大丈夫だから… これくらい、自分で大丈夫だから…!」
そう言うと、3人は心配そうにパージャを見つめながらも… 小さく頷き。
その瞬間、パージャの目の前は、真っ白な光に包まれた。
「…っ、な、何…っ!?」
突然視界を奪われて、狼狽するパージャ。
それと同時に、周囲の空気が変わった事を肌で感じ…
それと同時に聞こえ始めた、聞き覚えのある声に、パージャは薄く目を開けた。
「…え?」
パージャは思わず声を漏らす。
彼女の目の前に広がっていたのは、今では懐かしくすら感じる…
王都の、魔術局の一室だったのだ。
講義室の一角で座っているような形になっており、
周りには見覚えのある学生たちが立ち並んでいて。
教壇には、自分の恩師である講師が、今まさに講義を行っている所だった。
「な、何これ… 幻覚… それにしては、リアル過ぎるような…」
「…ちょっと、黙ってよデブ。唯でさえ暑苦しいのに講義の邪魔までしないでくれない?」
「…え… ぁ…」
呆然として、周囲を見渡しているパージャに、唐突に非難の声が上がる。
周囲からはクスクスと、いやらしい笑い声が聞こえ… パージャの胸に、嫌な痛みが走った。
「クスクス… 魔術だけ出来ても、あんなんじゃねぇ…?」
「贅肉を魔力に変えてるんじゃない…? ふふっ、本当に恥知らず…」
「あ… い、いや…っ、幻覚なんでしょう… 消えて… 消えてよ!!」
非難の声は消える事はなく、寧ろ次第に数を増す様にパージャを攻め立てる。
聞き覚えのある学友の声で再生されるその言葉は、パージャの心を抉るには十分で…
パージャは叫びながら、硬く目をつぶる。
しかし、その上から更に非難の声が浴びせかけられていって…
「何、突然叫び出したわよ、あのデブ… 頭まで脂肪になったのかしら?」
「ははっ、そう言ってやるなよ… きっと頭の中は菓子で一杯なんだろ?
ほら、いつも菓子パンもってるじゃん」
「あ、良く見たら口元もチョコで汚れてるじゃん… 信じらんねー、講義中に食べてんのかよ」
「え… ち、ちが… いやっ、何で…っ!?」
パージャが口元に触れると、チョコクリームが指にべったりとつき…
まるで悪夢のような現状に、次第にパニックになり始める。
今が現実なのか、それとも幻覚なのか… それさえ、あいまいになり始めて。
「パージャ君… 講義中に食事するなら出て行ってくれたまえ。おっと、それとも…
贅肉がつっかえて、立つ事も出来んかな?」
「え… んぁっ!?」
講師のその言葉と共に、パージャの身体は突然膨れ上がり…
そして、机といすの間にぎゅうぎゅうに挟まって、身動きが取れなくなってしまい。
じたばたと手足を動かすパージャの耳に、更に罵声が浴びせかけられていく。
「うわっ、信じらんねー…なんだよあれ、もう豚じゃん豚」
「天才って言ってもあれじゃあ終わりよねー… さっさと養豚場にでも言ってくれないかしら」
「全く、出て行けないならせめてブタらしくしていてクレタマエ」
「ブタ、ブタ、ブタ、ブタ」
「デブ、デブ、クサインダヨ、デブ」
「アルクルシイ、デテケ」
「オマエナンテテンサイデモナンデモナイ、タダノブタダヨ」
「いや…っ、いや、いやっ、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
そうして… とうとう、パージャはその場で失禁すると、気絶してしまった。
それと同時に、光に包まれていたパージャが、唐突に元の場所に、基の姿で戻され…
気絶したパージャは、ぐったりと、力なく横たわって。
パージャはその場で失禁しながら…セフィリア達はパージャの様子に、必死になって声をかける。
「…パージャ!? おい、パージャ、しっかりするんだよ、パージャッ!!」
「嘘… そんな、パージャさん… げぷ、パージャさん!?」
「しょ、しょんな… ましゃか… うしょ…」
そんな、3人の呼びかけに… パージャは、何とか意識を取り戻すと、体を起こし。
そして、ビクっと身体を震わせると、おびえた様子で周囲を見て… そして、3人に声をかけた。
「…こ、此処は… わ、わ、私…」
「大丈夫… もう大丈夫だ、パージャ… 良いかい、落ち着くんだ。何があったか解らないが、
そんなもんは全部魔王の悪趣味なんだ… 気に済んじゃないよ」
酷く怯えた様子のパージャに、ニーナはそう声をかけると… パージャは漸く、落ち着いた様子で…
失禁してしまった自分に気付き、顔を真っ赤に染めて。
今すぐそばに駆け寄って、抱き寄せてやりたい… 否、今の身体でそれをしても不快なだけだから、少しでも気を楽にさせてやりたいと、3人は思いながら…
そうして、セフィリアとアーリアの、最後の試練が始まった。
(ステータス変化)
・3マス目
名前:パージャ・リリン
年齢:15歳
身長:146cm
体重:205kg
3サイズ:120・150・130
備考:若い身でありながら、時期魔術局長との呼び名の高い天才魔術師。
その実力は既に魔術局最高と噂されるほどで、本人もそれを鼻にかけている節がある。
幻覚による恐怖で、心に深い傷を負った。
周囲から視線を感じるだけで怯え、竦む程に気弱になっている。