魔王の愉悦と、王女の…
「…それじゃあ、行くよ」
ニーナの言葉に3人は小さく頷く。
それと同時に、ニーナはサイコロを放り投げ… そして、その瞬間4人はその場から姿を消した。
後に残ったサイコロは、6の面を示すとそのまま、初めから無かったかのように薄らぎ… 消えて。
そして、悪夢のような双六の時間は終わったのである。
「…いや、実に素晴らしい。仲間に恵まれている事もあるが、何より…
姿形に捕らわれぬ、その魂が素晴らしい」
闇の中に、そんなゼブルの声が響く。
それに追従するかのように、リーンも呟いた。
「正直驚きました。セフィリア王女とアーリア殿は脱落するものと思ってましたから」
「そうだな… いや、だがしかし良い意味で期待を裏切ってくれた。後は『仕上げ』、だな…
かつて、君にそうしたように」
そう言いながら、少しだけ罪悪感に囚われたように、声のトーンを抑えるゼブル。
しかし、そんなゼブルの心を癒すかのように、リーンはゼブルを背後から抱き締めて。
「…アレが無ければ… 私はまだ、人のまま彷徨っていました。
そのお陰で、今の私がいるんですよ?」
「…ありがとう、リーン。私は本当にいい妻を持った… では行きたまえ、最後の場へ…
私も、準備が出来次第向かおう」
ゼブルの言葉に頭を下げると、リーンは解ける様に姿を消して。
ゼブルはクク、と小さく喉を鳴らすと、自傷的に呟いた。
「…だが、今でも暗い喜びを覚えずにはいられんのは… 恐らくは、魔族の業なのだろうな。
さあ、見せてくれ… 美しい魂が、歪む様を…」
四人が目を開けると… そこは、初めにゼブルと出会った草原だった。
天井は無く、暖かな光が降り注ぎ、柔らかな風が4人の身体を撫でていく。
汗まみれになっていたニーナは、風を心地よさそうに受けて…
そして、改めて自分たちの様子を確認する。
…4人はそれぞれ、体格に合わせたのであろう、大きさの違う真っ白な椅子の上に座らされていた。
ブクブクと膨れ上がった尻肉などが痛くならないように配慮がなされているのか、
椅子は柔らかい素材で出来ており、4人の身体を柔らかく包んで。
そして、目の前には広々としたテーブルと… 向い側には一つ、
誰も座っていない椅子が置いてあった。
「…げぇっぷ… なん、でしょう… これは…? 私達は… げふぅ…っ、
確かに、双六を終えた筈、ですが…」
ゲップをしながら、顔を赤らめつつ… セフィリアは疑問を口に出す。
他の三人も同様なのか、一様に首を傾げ… そうして、暫くすると、
4人の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「お待たせ致しました、セフィリア王女、パージャ様、ニーナ様、アーリア様。
此処まで来て頂いた事に、感謝いたします」
そんな丁寧な言葉と共に… 目の前の空席の脇に、突然リーンが姿を現した。
失礼します、と一言呟くと、リーンは席につき… そして、微笑んで。
「ゼブル様は只今皆様方を持成す準備をしていますので、その間は、私が相手をさせて頂きますね。
皆様もお疲れだと思いますから、ゆっくり寛いで下さい」
今までのように事務的ではなく、どこか親しい人物に話しかけるような、
そんな優しい口調でリーンはそう言うと、そっと手を上に翳し。
その瞬間、4人の前に様々な種類の御馳走が姿を現した。
肉や魚、パンに米、酒にジュース、果物に野菜、それにお菓子と、
あらゆる種類が網羅されたそれに…
思わずセフィリアはゴクン、と喉を鳴らし、涎を垂らしてしまう。
「…げ、ぷ… 何のつもり、ですか… 私達は、貴方の主を倒しに来たのですよ」
「ええ、それは重々に承知してます。ですが… 私は…
いえ、私達は、貴女達と争う気はありません」
「訳の、解らない事を… げぇっぷ! 魔王、なのでしょう… 貴女の主は。数多の冒険者を、
葬っておいて… 今更… ぐぇっぷ… そんな事、信じられる訳が、ないでしょう?」
でしょうね、と、セフィリアの言葉にリーンは微笑みながらそう応え…
そして、それと同時に、少しだけ悲しそうな顔をした。
「ですが… 冒険者の方々は生きています。私が丁重にお世話をさせて頂いておりますので、
無事どころか健康そのものですよ。ゼブル様が此方に来次第、全員その場で解放するつもりです…
です、が」
そこまで言って、リーンは表情を曇らせる。
此処から先を言っていいのか、と躊躇している様子で…
そんなリーンの様子に、パージャは口を開いた。
「何よ、言いたい事があるなら言えばいいでしょ?」
「…ですが、その前に一つ聞きたい事があります…
何故、貴女達はゼブル様を倒しに来たのですか?」
「当たり前じゃないか、魔王は世界に災いを齎す者…
逆に聞きたいけど、何でそこに疑問を持つんだい?」
「嗚呼… やはり、貴女達も、私と…」
ニーナの言葉にリーンは悲しそうに俯き、言葉を切る。
そんなリーンの様子に、4人は… どうにも、妙な感情を抱いていた。
彼女は魔王の仲間だ、それどころか伴侶でさえある。
だと言うのに、何故… 彼女に、敵意を抱けないのだろう。
自分達をこんなにも変わり果てさせた、張本人だと言うのに。
「…ゼブル様は、此方に来てから其方に対して悪影響を与えた事はないのに、ですか?
私達が来たと言うだけで、私達を殺しにきた冒険者を捕らえただけなのに…
それでも、そう言えるんですか?」
「そうだとしても… げ、ぷ… この世界は、今まで幾度となく魔王によって危機に瀕しています。
…ぐぇ、ぷ… それを、顧みれば… 仕方のない事では、ないですか?」
セフィリアは、ゲップをしつつも… 冷たく、リーンの言葉を断ち切って。
リーンは寂しそうに笑うと、口を開いた。
「この世界は、それほどまでに大切ですか? 貴女の周りの人間は…
それほどまでして守らなければ、なりませんか?」
「当然… げふ…っ、民を守るのが… 私の、役目ですから」
「…判りました。では、お話は此処までとして、食事にしましょうか。
安心して下さい、毒などは一切入っていませんから」
セフィリアの言葉にリーンは小さく頷くと、そう言って…
それを示して見せるかのように、上品に、一品ずつ食事をし始める。
4人はそんなリーンに顔を見合わせるも… 何故か、4人はリーンを疑う事が出来ずに。
先ずはパージャがお菓子に手を伸ばし… アーリアも、それに続くように。
そして、ニーナまでもがパンと酒に手を伸ばすと… セフィリアも、
とうとう我慢できなくなった様子で、手で肉を掴みそうになるのを我慢しながら、
しかしフォークをステーキに突き刺すと、直接齧り始めた。
「それなりに味にはこだわってますから、貴女方の口にもあうと思いますが… 大丈夫ですか?」
「んぐ、ん… ま、まあそこそこ美味しいんじゃない? お城のとは比べ物にならないけど…」
「あむ、ん… おいちい、よ…?」
「…癪だけど、まあ美味しいね」
「あむっ、んぐ… あぶっ、んぐうぅ…っ」
素直じゃない返答をするパージャに、素直な返答をするアーリア。
そしてニーナは少し憮然とした表情で酒を煽り、体に汗をかいて。
…セフィリアに至っては、応える間もなく、ガツガツと肉を貪り始めていた。
「それは何よりですね… ふふっ、では私も食事を続けましょうか」
そんな4人の様子をみながら、リーンはクス、と初めて楽しそうな笑みを漏らし…
そして、そう言いながらも4人の様子を見守っていた。
当の4人はそんなリーンの視線に気付く事もなく、夢中になって目の前の御馳走に手を伸ばし、
食べていく。
パージャは口元を砂糖やらで汚しながら、頬に一杯詰め込むように食べて。
アーリアも、手も服もお菓子のカスで汚しながら、貪る様に。
ニーナは酒を飲むだけでは無く、チーズを丸ごと齧り、パンを飲み込むように食べて行って。
そして、セフィリアに至ってはとうとう素手で肉を掴んでは口に詰め込み、
牛乳やシロップの瓶詰を、ガブガブと飲み干しながら、勢大に放屁をして。
そんな、余りに異常な状況にも関わらず、4人は最早食べ物しか目に入らないと言った様子で、
一心不乱に、欲望のままに目の前の御馳走を貪って行った。
そんな4人の身体は、次第に横に広がり…
それだけでは無く、まるで空気を吹き込まれたかのように、
腹肉が弛みながらもパンパンに膨れ上がっていき。
椅子は既に4人の体重にベッタリと潰れそうになっているものの、
4人はそれにさえ気付く事なく、ガツガツと御馳走を貪り、周囲を汚して。
身体は丸く、重く、そしてどんどんと膨らんでいき…
そして、リーンはテーブルの御馳走が半分程度まで無くなったのを見計らって、
パキンと指を鳴らした。
「うぶ…っ、んぐううぅぅぅぅぅっ!?」
「お、おも…っ、おもいぃぃ…っ!!」
「うげぇっぷ… な、なに、わ、私… 一体、何を…」
「あ、ぶ…っ、か、体が… 動かせ、ねぇ…っ」
それと同時に、4人の動きが唐突に止まり… そして、余りの自重に苦しみながら、正気に戻り。
先程までの自分たちと、今の身体を見て…4人は絶叫したくなるのを我慢しながら、
リーンを睨みつけた。
「…っ、げぷぅ…っ、少しでも… 信用したのが… 馬鹿、でした…っ!!」
「ごめんなさい、でもゼブル様の命令でしたから… さあ、仕上げと行きましょうか」
「そうだね… うん、良い仕事だったよ、リーン。やはり君は素晴らしい…
では始めようか、セフィリア王女… 君達に、現実を見せてあげよう」
憎しみを込めたセフィリアの言葉に、リーンは少し申し訳なさそうに言うと、
その背後からゼブルが現れて、リーンを背後から抱き締める。
そして、ゼブルがそう告げるのと同時に… セフィリア達の周りからテーブルが、草原が…
そして青空が消えて。
「…うげぇっぷ… う、嘘…」
…そして、彼女達の周囲には… 洞窟で姿を消した、沢山の冒険者たちが立っていたのである。
冒険者達は突然現れた彼女達に顔を顰め… そして、口を開いた。
「…何、これ」
自分達を助けに、そして世界を救いに来た者に。
そんな、冷たい言葉を。
(ステータス変化)
名前:セフィリア・ローラン
年齢:25歳
身長:145cm(肉の分身長UP)
体重:516kg(詰め込まれた食べ物も含む)
3サイズ:230・293・377
備考:魔術と僧術を使える王女。
どうやら魔王を倒す秘策を携えているようだが…?
下品な仕草と、肉塊と化した身体を豚のドレスで包んだ『豚姫』。
完全に行動が出来ないほどの肉塊となり、今、その姿を… 守るべき民草に晒している。
名前:パージャ・リリン
年齢:15歳
身長:156cm
体重:346kg
3サイズ:220・193・190
備考:若い身でありながら、時期魔術局長との呼び名の高い天才魔術師。
自分の肥え太った身体を冒険者達に晒してしまい、悪夢が脳裏を過って怯えきっている。
名前:アーリア・ケイロン
年齢:5歳
身長:82cm
体重:235kg
3サイズ:136・152・165
備考:騎士団でも有数の実力者である、長身の女性。
パージャの影に埋もれる様に居る為、まだ気付かれてはいないが… 自分の変わり果てた姿を、
見知らぬ他人に見られる事に再び冷静さを取り戻し、恐怖に震えている。
名前:ニーナ・ヴァルナ
年齢:28歳
身長:177cm
体重:358kg
3サイズ:175・238・229
備考:外せない鍵は存在しないと言われている女盗賊。
周囲に自分の醜い姿を見られる事に若干恐怖を覚えているものの、
それ以上にこれから起こるであろう「出来事」に危機感を覚えている。