710氏その9
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「んー…最近あの子、来ないな…」
とある晴れた日。
黒い髪を背中まで伸ばした、長身の少女は気だるそうにそう呟いた。
見れば、年齢の割に育っている肢体を制服に包んでおり、
少なくとも高校生だと言うのは見て取れた。
薄い学生鞄を持っている所を見ると、恐らくは下校途中なのだろう。
彼女は、冴島冴子。
言わずもがな、エンジェルズの一人、エンジェルグリーンであった。
得意武器は剣であり、今までに斬り伏せてきた怪人たち・戦闘員たちの数は
最早数え切れないほどである。
そんな彼女は、鞄を肩に背負いながら…つまらなそうに、空を見上げながら、
自宅への帰路を歩いていた。
かれこれ、最後に戦ってから2週間が過ぎただろうか。
毎週日曜日にはロリエラが攻めに来ていたと言うのに、先週は影も形も現わさなかった。
知性派のブルー曰く、「いい加減限界がきたのでは」との事。
実際そうだったのだが、冴子は個人的に…と言うよりは、エンジェルズ全員が…
ロリエラと遊ぶ、もとい戦うのを楽しみにしていた為、その分落胆はひとしおで。
冴子は部活にも身が入らず、心配した部員から早く帰るように言われて、現在に至る。
空を見れば、雲一つない真っ青な空。
暖かい日差しに、心地よい風と、平和そのものである。
「…まあ、喜ぶべき事なのだろうが…?」
…不意に、冴子の耳にざわざわ、と言うよりはヒソヒソ、とした声が届いた。
何事かと思い、声のする方向をみれば―――
「―――見つけたぞ、エンジェルグリーン!!」
「ぶ―――ッ!?」
―――そこには、道路を堂々と神輿で向かって来るロリエラと戦闘員、そして…
見慣れぬ怪人が居た。
否、怪人は毎度毎度違っていたから見慣れる事は無いのだが…
雰囲気が違う事を冴子は敏感に感じ取っていた。
そして、それ以上にいきなりな光景に噴出していた。
「ふはは!どうだ驚いたであろう!!
もう正々堂々、お前ら5人を相手にするのは止めたのじゃ!!」
「…いや、まあ…確かに驚くには驚いたが。
と言うか、今さらだが漸く悪の組織らしい事をしたな、ロリエラ」
冴子は思わず苦笑しながらそう言えば、ロリエラは顔を顰め。
しかし、直ぐに余裕を取り戻せば、神輿の上で立ちあがった。
「―――ふっ、そう余裕で居られるのも今だけじゃ!!
ゆけ、最悪怪人デブートン!!!」
ロリエラの号令と共に、ずんぐりむっくりとした怪人が、ずしん、ずしん、と前に歩き始めた。
冴子は思わず構える―――が、怪人…デブートンの歩みは、とても遅く。
地面にヒビを入れながら歩く様は迫力がある物の、正直焦る必要さえなかった。
「…うん、まあ変身」
少し興を殺がれたように、やる気なくそう呟けば、冴子の身体を光が包み。
そして、一瞬後には緑色を基調とした、どこぞの超昂閃忍…ゲフンゲフン、
クノイチのような衣装に身を包んだ冴子がそこに立っていた。
「毎回思うんだが…何故変身の時は動かないんだ?」
「ふふん、これぞ悪の美学なのじゃ!
さあ、改めてゆけい、デブートン!!!」
どうやらデブートンも空気を読んでいたのか、変身した冴子を見るや否や、
まるでラグビー部のように冴子に掴みかかろうと走り出す。
それを見た冴子は口を少し歪めると―――腰に差していた刀に手をかけて。
「ブギィィィィィ――――ッ!!!」
「―――甘いッ!!!」
デブートンの突進をかわせば、それと同時に容赦なく刀を振り下ろした。
肉の裂ける音と共に、デブートンの身体に刀が食い込み―――そして、あっさりと斬り裂かれる。
なんだ、呆気ない。と冴子は呟く。
―――が、次の瞬間冴子は目を見開き、小さく悲鳴を上げた。
裂けたデブートンの身体から、白い…そう、丁度ラードのような物が噴出したのである。
当然間近にいた冴子は、思い切りラードを浴びてしまい…ねっとりとした感触と脂臭さに、嫌悪感を露わにした。
「ぬわっ!?な、何だこれは…!!」
「…ふふっ、くふふっ!!
かかったなエンジェルグリーン!!!あ、デブートンは戻ってこい、今治療するからの」
半ば息も絶え絶えになっているデブートンを戦闘員が担ぐと、
数人の戦闘員が救急箱やらLEDやらを持って取り囲む。
流石は怪人、真っ二つ寸前でも何気に生きながらえているらしい。
が、そんな事は冴子には関係なく…体中に纏わりついたラードを手でぬぐいながら、
忌々しげにロリエラを睨んだ。
「…ロリエラ、何のつもりだこれは!!」
「ふん、私は学んだのじゃ!
怪人ではお主らは倒せぬし、ましてや私でもお主一人さえ倒せぬとな!!
…うん、倒せぬとな…」
自分で言った言葉に傷ついたのか、少しテンションを落とすロリエラ。
しかし神輿に腰かけ、小さく息を吐くと…改めて口を開いた。
「故に決めたのじゃ!これからは主らに嫌がらせしかせぬとな!!」
「んなっ!?あ、悪の組織がそれで良いのか…っ、んぐっ!?」
思わずあきれ返る冴子。
だが、その言葉は唐突に、何かに塞がれた。
冴子の口には白いモノ…そう、ラードが入り込んでいたのだ。
見れば、冴子の身体に纏わりついたラードが、うごめきながら冴子の口に向かっていて。
その光景に、冴子は両手でラードを払い落そうとするも、手に付いたラードまでもが口に向かい。
パニック状態になりながらも、ラードは緩慢な動きで、徐々に冴子の口を通り、
体内に入り込んでいく。
「んぐっ、ん…っ!?んーっ!!!」
「…くふふ、どうじゃ!『ある意味最悪怪人、デブートン』の体液は!!
ほうれ、直ぐに効果が現れるぞ…?」
「ん…っ?んーっ!?んぐ…んぅぅぅぅっ!!!?」
ロリエラの言葉に、冴子は顔をひそめ―――そして、直ぐにその言葉の意味を理解した。
ぶくぅ、と、唐突に冴子のお腹が、まるで空気を入れた風船のように膨らんだのだ。
余りに急激な体重の変化に、冴子は思わず尻もちを吐く。
「ふはははは!!なんじゃ、そのみっともない腹は!!!」
「んぐ…っ、んぁっ!わ、私に何をした…う、ぐぅ…っ」
口に入り込むラードを飲み込みながら、冴子はそう叫ぶ…も、その間も、冴子の変化は止まらない。
パンパンに張り詰めていたお腹は、次第に柔らかく垂れ始め。
それに合わせて、乳房もミチミチと膨らみを増しながら垂れていき。
立ちあがろうとすれば、その腕もぷくぷくと肉が付き始め、指も太くなって。
よろよろと立ちあがる脚は、まるまるとして。それに合わせて、
お尻もまるで巨大な桃のように膨らんでしまい。
幸い、戦闘服の耐久度が尋常でないからか、裂ける事は無かったが、
まるでボンレスハムのように冴子の身体を締め付けていき。
顔も、見る見るうちに膨らんでいき。頬に肉が付き、更に顎も二重になって、目も細まり。
漸く立ち上がったころには、冴子の元の姿は見る影もなく。
そこに居たのは、ボンレスハムのように身体を服に締め付けられた、丸々とした女性だった。
最も、手足が長く長身な分、丸々としていながらも可愛らしい部類では有ったが。
「…っ、ぶはっ、はぁっ、はぁ…っ!こ、こんな…わだ…私の、身体が…」
「くふふふ…はぁっはっはっはっは!!!
どうじゃ!みっともない姿になった気分は!!恥ずかしかろう!悔しかろう!!」
「こ…このぉ…っ!!」
羞恥と怒りに顔を真っ赤に染め、冴子は刀を手に走り出す。
だが、その歩みはまるで、先程のデブートンのように遅く。
歩く度に、だぷんっ、どぶん、ぶるん、と身体中の肉が波打ち。
息をぜぇぜぇと切らしながら、身体中はあっという間に汗に塗れてしまって。
「ぜぇ、ぜぇ…っ、ぶはぁ、はぁ…」
そして、ロリエラに辿り着く前に体力が尽きたのか、その場にどすん、と倒れ込み。
「ふはははは!!みっともない、みっともないのう!
やはり嫌がらせにして正解じゃったわ!!これで溜飲が…」
「…い、イー!イー!!」
満足げにうなずきながら、さて帰るかと準備をするロリエラを、戦闘員が引きとめる。
ロリエラはきょとん、とした顔で戦闘員の顔を見て、不思議そうに首を傾げた。
「何じゃ、どうしたのじゃ?もう充分嫌がらせは出来たであろう」
「イー!イー!」
「何?今なら勝てる?何を、い…っ、あ、あああああ!!
捕らえよ!エンジェルグリーンを捕らえるのじゃ、戦闘員!!!」
「ぶはぁっ、はぁ…く、来るな…くるなぁ…っ!!ああああ――――」
そこで漸く気付いたのか、ロリエラは叫ぶと身動きが取れない冴子に戦闘員が群がっていき。
必死に冴子は抵抗し、緩慢な動きながらも戦闘員を投げ飛ばす…が。
大量の戦闘員に纏わりつかれれば、最早動く事も出来ず。抵抗したのが祟ったのか、体力も尽き。
戦闘員総出で冴子を抱えると、ロリエラの号令と共にその場から去っていった。
「…勝ったッ!勝ったぞ、勝ったのじゃ!!やったー!!!」
ロリエラが何度も反芻するかのように、そう叫んでいたのは言うまでも無い。
/結果。
名前:冴島冴子
年齢:17歳
身長:175cm
体重:59kg → 132kg
3サイズ:87:54:82 → 108・98・113
備考:変身状態のまま確保。
身体能力こそ損なわれていない物の、自重のお陰で戦闘能力が激しく減衰。
現在はカプセルの中で研究班の研究資料にされている。
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