334氏その2

334氏その2

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「ぶは?!ここは・・・?」
ひんやりとした冷たさを頬に感じて私は目覚めた。
辺りを見回す。
夕日に染まる校舎。高いニレの木が傍に生えている。
「あ・・ここは、学校の裏庭・・・。」
どうやら草むらの上で倒れていたようだ。
「なんで、こんなところにいるんだっけ?朝、学校に行って・・先生が何かプリントを配って・・
大変なことに気がついて・・」
駄目だ。それが何なのか思い出せない。
私は水を浴びて頭をしっかりさせようと、重たい体を起こして、水洗場に向かった。
水洗場は少し離れているだけなのに、100m以上ある気がする。
やっとの思いで水洗場に着くと、丁度よくバケツに水が張ってあった。これを使おう。
手で水をすくうためにバケツを覗き込んだ時、水面に映った私の顔に違和感を持った。

 

(あれ・・・私の鼻ってこんなだったっけ?)
そこには鼻の穴が上を向いた、豚のような鼻をした真ん丸な少女が小首をかしげていた。
といっても首はないに等しく、傾けた頬と肩の間には肉の段ができている。
(私の鼻ってもっと鼻筋が通っていたような・・?)
それに以前の私は太っていたが、制服のボタンがしまらなくなるくらいのデブだったっけ?
(あれ、そもそも私って・・・
昨日まで痩せてたけど巨乳の美人でモテモテだった気がするんだけど・・)
私が悩んでいると、背後から声がした。

 

「あら、そこにいるのはクラス一のデブス、小尾里さん。そこで何をしているの。」
振り返ると金髪の女子生徒が立っていた。
確か、同じクラスの中端さんだ。
美人で学校のミスコンでは優勝を争ったことも(あった気がする)。
それ以来、良きライバルとして仲が良かった。
昨日の朝のホームルームの時も私を気遣ってくれた。

 

それよりもデブスという言葉が気になった。美人の人気者ではなくて?
「ね、ねえ、私って昨日は痩せてたよね?」
「ええ!?」中端さんは「何を言ってるんだこいつは」と言いたそうに目を丸くした。
「あなた、入学した時から太ってたじゃない。」
「え・・でも私って。前はこんな顔じゃなかった・・と思うんだけど・・」
「あはは、まあ、あなたの顔は学校の中でも最低ランクだから
現実逃避したくなる気持ちもわかりますけど、
しっかりと現実を受け止めた方がよろしくてよ。」
「で、でも中端さんとはミスコンで良きライバルで、親友だったじゃない。」
「クスクス、あなたのようなブスとこの私が親友だったですって?
冗談もほどほどにしてほしいわね。」
「え・・・」
「あなたはデブでブスでおまけに食い意地が張っていて、クラスの中でもぼっちじゃない。
何をいうんですの?」
「あ、うう・・」
「うふふ、まったく、あなたにはそうしてうつむいている姿がお似合いですわ。」

中端さんの嘲笑を浴びで、私は何も言えずに涙を浮かべるしかなかった

 

翌朝。
朝のホームルームが始まる前の教室。
不安と焦りが私の心に満ちていた。
(絶対、私は痩せてて美人で人気者・・・だった気がする。)
確かに昨晩体重を測ると100kg(あれ、少し増えた?)だったけど。
お尻とか大きすぎてぴったりのサイズがなくてスカートがピチピチだけど。
お腹の贅肉が制服にしまいきれないけれど。
おっぱいはホルスタイン並みだし、
角度によっては頑張れば美人に見えないこともないし(昨晩鏡の前で練習した)
きっとみんなが私の魅力に気付いていないだけなのよ。
これは何かの間違いだわ。
間違いは正さなきゃ。

 

私は中端さんを囲んで談笑している男子生徒達のグループに近づいていった。
「ね、ねぇ・・」
「あ、なんだ?」私を一目見ると、男子達はうっとおしそうな表情に変わる。
一瞬たじろいだが勇気を振り絞って、自慢の爆乳を寄せ上げて彼らをうっとりと見上げた。
「ね、ねえ、何話してるのぉ?私にも参加させて?・・んはぁ」

 

だが、彼らの反応は冷たかった。
「うるせえなぁ、今忙しいんだ。あっち行ってろよブス。」
「そ、そんな・・」
「そんなもこんなもねえよ。あ、もしかして腹減ったのか?」
「ひ、ひどい・・よ。」
「ぶはは、そんな風にかよわい様子をよそおったって駄目だぜ。
中端さんの美貌にはかなわないんだから。な、中端?」
話題を振られて中端さんが冷酷にほほ笑む。
「さっきの格好、巨デブのあなたがするべきではないわ。」
その言葉が心に突き刺さる。
「そ、そうだよね。私ったら、デブで・・・・・・おまけにこんな顔だもんね・・」
私は暗い気持ちで自分の席に戻った。

 

それからの日々は、私にとっては地獄のようだった。
休み時間に中端派の男子生徒達が私の陰口を言うのだ。
デブ・ブス・豚・・・
授業中にも私への悪罵が書かれた紙が教室中に回されていた。
一度勇気を振り絞って先生にいじめのことを言ったが、
鈍感な先生は「気のせいだろ?お前と中端は仲がいいじゃないか?」と取り合ってくれなかった。
事実、中端さんは先生がみているときだけ私に親しくするのだ。
私もそんな態度が嘘だと分かっていても、
それを振り切ってしまうと本当にひとりぼっちになってしまう気がして、
彼女と偽の関係を続けてしまっていた。

 

「はぁ・・・」
今日もチャイムが鳴って学校が終わった。
クラスでのぎすぎすした関係からやっと解放される。
(帰ってお菓子でも食べよう・・・)
このところ、帰りにお菓子を買って家で食べるのが唯一の楽しみになっていた。
空の胃袋に食物を満たすことで、辛い現実を少しでも忘れようとしていた。
コンビニで適当にケーキやジュースを購入し、帰路を急ぐ。

 

川辺近くの人気のない道を通っていた時、後ろから声をかけられた。
「あ〜、いたいた。豚ちゃ〜ん。」
ねっとりとした悪意のある声。
振り返ると数人の取り巻きの男子生徒達を従えた中端さんが立っていた。
「まったく、あなたが鈍足で助かったわ。学校からずいぶん探したんですから。」
「な、なに・・?何か用?」
「あなた、先生に私達がやっていること密告したでしょう?
先生から言われたわ。「小尾里がお前からいじめられていると言ってるんだが、本当か?」って。
幸い、私の華麗な演技で先生をごまかせたからよかったけど、
あんたにやってることがバレたらどうすんのよ。」
「え、だって・・」
「だっても何もないわよ。この私に冷や汗をかかせた罰を与えなければならないわね。」
そういって彼女は取り巻きたちに合図した。
すると、男子生徒達が私を抑え込もうと寄ってきた。
「やめて!」
抵抗しようとして手を振り回したが、

数人がかりの男子に力でかなうはずもなく組み伏せられた。
ドサリとコンビニの袋が手から離れた。
「こいつ、どうします?」取り巻きの一人が中端さんに言った。
「そうねえ。近くに丁度いいところがあるわ。そこに連れて行きましょう。」
彼女はそう言ってにやりと笑った。

 

連れてこられたのは川べりにある倉庫の中。
使われていないのか、段ボールや工作機械が放置されている。
私はそこに運び込まれ、倉庫の支柱にロープで手足を固定された。
「さあて、この生意気な豚さんに上下関係というものを教えてあげなくてはね。」
そう言うと、中端さんは私のお腹を殴った。
バン
鈍い音がして、下腹部に衝撃を感じた。
「あらあら、ぶ厚い脂肪のおかげであまり効いてないみたいだわ。」
バスッ
2発目のパンチが打ち込まれた。
「まったく、あなたがクラスにいるだけで目ざわりなのよ!汗臭いし下品だし!」
呪詛の言葉を吐き出しながら彼女は私を殴り続ける。
「お、お願い・・・もうやめて・・・何でもするから・・」
私は喘ぎながら懇願した。
その言葉を聞いて中端さんの片眉がピクリとつり上がった。
「なんでも、と言ったわね?」

痛みではぁはぁと口を開けていることしかできない私を、
彼女はこの上なくサディスティックな表情で見下ろした。
「なら本物の豚のように鳴いてみなさぁい?」
「え・・それは・・・」
「どうしたの?なんでもするんじゃなかったの?」
「・・・」
「もしかしてできないの?なんでもするっていったのに?私が手伝ってあげましょうかぁ?」
そう言うと、彼女は親指を私の乳首のあたりに押し付け、爪をたててぐりぐりと押し込んだ。
「ん・・・あぁ・・」
「ほらほら、鳴いてみなさいな。ぶひぃ、って。」
よだれをたらし、なすがままにされる私を彼女はさらに責め立てる。
「んん・・はぁ・・」
「どうしたの?もっと強くしちゃうよ?」
「・・ひぃ」
「え?なんだって?よく聞こえなかったわぁ?」
「ん、ぶひぃ・・・」

「駄目ねぇ。もっと大きな声で!」
彼女の掛け声とともに私は一切の羞恥心を投げ捨て叫んだ。
「んあああああ、ぶひぃぃぃ!」
肺の空気を吐き出し終えると、私の局部がぐっしょりと黒ずんだ。
「あら、この子汚いわねぇ?まあ、これであなたは本当の豚さんデビューだわ。おめでとーう!」
邪悪に口元をゆがめた中端さんの拍手の音が倉庫にむなしく響く。
「さて、私の気も済んだし。後は、あんたら好きにやっていいわよ。」
彼女は背後で一部始終を見ていた取り巻き達に言った。
「マジッすか?あざーす。」
一番先頭の男子がズボンのベルトをはずしながら近づいてきた。
「まったく、こんな子が好きだなんてあんたらってどうかしてるわ。」
中端さんが気だるそうにつぶやいた。

 

それからのことは覚えていない。
気がつくと、破れた制服とコンビニ袋を抱えて下着姿のまま自室で泣いていた。
「うぐっ、ヒック・・」
がさがさとコンビニ袋から潰れたケーキを取り出しほおばる。
「んぐっ、おいひい・・・」
くちゃくちゃと咀嚼し、次のケーキに手を伸ばす。
「おいしいよぅ・・」
私は全てを忘れようと泣きながら食べ続けた。

 

翌日から私は他人に心を閉ざすことを決めた。
中端やその取り巻きが罵っても無視を決め込む。
私を気にかけてくれる女子生徒も何人かはいただ、全て無視した。
クラスのみんなと疎遠になるのと反比例して、私の食べる量は増えていった。
昼休みになると真っ先に食堂に向かい、目に着いたメニューを全て平らげる。
ガツガツ・・くちゃくちゃ・・ごくん
はふっ・・ずるずる・・・
もぐもぐ・・
その様子を食堂のおばちゃんや周りの学生が化け物をみるような目でみていたが、
私は全然気にしない。
食事だけが私の心を満たす唯一の方法なのだ。

 

食堂の長デーブルを占拠した食べ物を全て食べ終わった後、
立ち上がろうとのっそりと体を起こす。
ぐぇぇっぷ・・
スカートにお腹が締め付けられてゲップが出てしまった。
私は以前より明らかに2回りは大きくなり、段々をつくっている贅肉をさすりながら考える。
(今は何キロだろう・・・)
130キロを超えたところで測るのを止めてしまった。
スカートからのぞく太い足はむちむちとしており、痩せている女子生徒の胴ほどはある。
二の腕もぶるぶるとした肉がだらりと垂れ下がっている。
首はなくなり、顎は三重になりつつある。
(150キロ?200キロ?)
何キロになろうが知ったことじゃない。今の私には食べることこそが重要なのだ。

 

物思いにふけりながら歩いていると、声がした。
「ちょっと、そこの人。」
私は声を無視して歩き続けた。
「ちょっと!待ってよ!」
一段と強い声がしたかと思うと、横からに大きなシルエットが現れた。
「さっきから呼んでいるのに失礼だな!」
目の前に立っていたのは黒髪の太った女子生徒。
顔は脂肪でブクブクに膨らんでいるが、
目元はりりしく、痩せていれば美人なのだろうなと思わせる雰囲気だ。
「なに?なにか用?」
「あなた、こういう薬を見たことはないか?」
彼女の手ににぎられていたのは、どこかでみたことのある白い錠剤が入った小瓶だった。

 

私はその小瓶をじっと見つめた。
一瞬脳裏に鮮やかなイメージがよぎった。
ごみごみとした繁華街と中年の男。
教室とプリント。
割れる瓶と散らばる白い薬。
黒のスーツを着た女性。
それらは意識の上に現れそうになると霞のように逃げて行ってしまう。

 

「え、ええと、多分、みたことがある、と思う・・」
「どこで見た?」
「分からない。けど、どこかで見た。学校近くの繁華街だったかな?」
「そうか、協力ありがとう。」
黒髪は礼を言うと去って行こうとした。
「待って。」
私は無意識のうちに彼女を呼び止めていた。
自分でも分からないが、白い錠剤が過去の大事な何かに繋がりそうな予感がしたのだ。
「なぜ、あなたはそんなことを聞くの?」
強い口調で問われて、黒髪はこちらを振り返った。
「おっと、これは失礼した。近頃、このような怪しい薬が学校周りではやっていてな。
私は教師達にこの薬の調査と取り締まりを依頼されたのだ。」
そういって、黒髪はさっきの小瓶をかかげて振った。
そう言えば、以前担任の先生がそんなことを話していたっけ・・。
そして私はとても重要なことに気がついて・・・。
それってなんだったっけ・・・。

だめだ、思い出そうとすると頭が痛む。
「大丈夫か?」
気がつくと黒髪が心配そうに私を見ていた。
「だ、大丈夫・・。」
「ふむ、少し顔色が優れないようだな。私達の部屋で少し休むといい。」
彼女は私の脇を支え、歩き始めた。

 

黒髪に支えられて歩いて行った先には、「風紀委員会」と書かれた看板がかかっていた。
「おい、ちょっと体調が悪い生徒がいるから寝かしてやってくれ。」
黒髪はがらりと扉を開けた。
部屋の中には何人かの女子生徒がいた。
しかし、それはとても異様な光景だった。
なぜなら彼女達は、程度の差こそあれ、全員太っていたからだ。
胸とお尻だけが太った洋なし体形の生徒。全体にうっすら脂肪がついたふくよかな生徒。
お腹の辺りがパンパンに張りつめている生徒。
太った彼女達がひとつの部屋にいるせいで、その部屋はとても狭く見えた。

 

「あ、委員長、お帰りなさい。」
眼鏡をかけたぽっちゃりとした女子生徒が黒髪に話しかけた。
「鶴崎。こいつをソファに寝かしてやってくれ。」
黒髪は眼鏡に私を預けた。
「わ、分かりました。くぅ、重い・・」
130キロ以上の巨体を託された眼鏡は、息を切らせながらもどさりと私をソファに降ろした。
「ふー、那須原委員長。どうしたんです、この子?」
「この生徒はどうやら例の薬を繁華街で見たといっている。」
「ホントですか?私達をこんなにした薬ですか?」
「ああ、これでようやく事態が進展しそうだ。」
「ねえ」彼女達の話を聞いていた私はいてもたってもいられなくなり、
むっくりと起き上がって口をはさんだ。
「状況が分からないんだけど、私にも説明してもらえる?」
「お、もう大丈夫なのか?」
「うん、良くなった。それよりも、あなた達のことや例の薬について教えて?」
「ああ、すまん。自己紹介が遅れたな。私は那須原。この学校の風紀委員長だ。」

那須原と言えば剣道部のエースで県大会にも優勝している学校の有名人だ。
学校の入学式で一度見ただけだったけど、それにしてもこれほど太っていただろうか。
今の彼女の体は巨デブまでとはいわないが、全体的にもちもちとしていてとても柔らかそうだ。
80キロ前後というところか。
「あなた、私が本当に那須原か疑っているな。
無理もない、太ってしまったせいでだいぶ人相が変わったから・・。」
最後の方は那須原さんのため息で聞こえなかった。
「それについては、副委員長である、私、鶴崎から説明させていただきます。」
眼鏡のぽっちゃり生徒が話を継いだ。
「現在、風紀委員会は、『HI-10000改』という薬について調査しています。
先生から通知があったと思いますが、この薬は服用した人間を太らせる効果がある
極めて危険な薬物です。常習性があり、ここ数週間、我が校の生徒にも多大な被害が出ています。」
そう言えばクラスの女子生徒にも急に太った娘が増えてきたように思う。
しかし、130キロをゆうに超えた私にとって彼女達はまだまだスマートな部類なので、
クラスにデブが増えたという意識は希薄だったのだが。
「私達は教師達から依頼されて学校内におけるこの薬の流通ルートを探っていました。

しかし・・・あと一歩というところで、薬を配っていた黒幕を逃がしてしまったのです。」
鶴崎さんは苦々しげに言った。
「すまん。私が本来の業務を忘れて学校外まで奴を尾行することを提案したからだ。
あげく、返り討ちにあって薬を飲まされ、このようなみっともない体に・・・。」
那須原さんは少し顔を赤くして自らのお腹をつまんだ。
「委員長は悪くありません。私達の実力が足りず足手まといだったのです。」
「それは大変だったわね。でも、犯人の姿は見たんでしょ?」
「ええ、ばっちりとこの目に焼き付けておきましたよ。
黒のスーツを着た冷酷そうな女でした。」
黒のスーツ?
それって、頭の中のイメージに出てきた・・・

 

「しかし、あなたの証言で犯人のアジトが繁華街にある可能性が出てきました。
このことを先生達に伝えて対策を練ってもらいましょう。」
「まて。鶴崎。」
「なんです?委員長。」
「今のままでは、犯人のアジトが繁華街にあることだけしか分からん。
奴の居場所を教師たちに伝えないと、薬の流通を防ぐ対策の立てようがないだろう。」
「それはそうですが・・・」
「私が再度奴をおびき出し、アジトまで尾行する。」
「駄目です。危険すぎます。この前の失敗を忘れたのですか?」
「だからこそだ。この間の借りを返さなければ私の気持ちが静まらん。お前達はこなくていいぞ。」
那須原さんは決意を秘めた目で女子生徒達にいった。
「待ってください!」「私達もお供します!」鶴崎さんや女子達が口々に言う。
「これはお前達をこんなにした私の責任だ。私が始末をつけなければならない。」
「わかりました。ご武運を。」鶴崎さんが悲しそうに言った。

 

彼女達のやりとりをじっと聞いていた私だったが、ある考えが頭に浮かんだ。
「ねえ、犯人をおびきだすなら私がおとりになってあげようか?」
意外な申し出に風紀委員達が一斉にこっちを向いた。
「そんなことはできない。一般の生徒達を危険な目にあわすことはできない。」
「でも、私だってこの件に一枚噛む権利はあるわ。繁華街で薬をみたことがあるんですもの。」
「そ、それはそうだが・・」
「それに万が一、おとりは捕まったら薬を飲まされてさらにデブにされちゃうと思うし。
それなら、私がおとりになったらあなたのリスクは無くなるんじゃない?
太ったこと気にしてるんでしょ?」
私はわざと意地悪く那須原さんに言った。
彼女は眉を寄せて考え込んでいる。
無関係の他人に害を及ぼしたくないという気持ちと
これ以上太るリスクを減らしたいという気持ちの間で逡巡しているのだろう。
なにせ彼女は優秀なスポーツマンなのだ。体形への思い入れは一層強いはずである。
私には彼女の心の葛藤が手に取るように想像できる。
そして、「一人で行く」と言っておきながら、

自分への被害を少なくする案が出ると迷ってしまう彼女が偽善者に思えてならなかった。
「分かった。キミを連れて行こう。ただし、危なくなったらすぐに止めるからな。」
「OK。」
「そう言えば、名前を聞いていなかったな。なんという名前だ?」
「小尾里。」
結局、私の案にのった那須原さんを心の中で軽蔑しながら、私は短く名乗った。

 

 

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