突発性肥満化彼女

突発性肥満化彼女

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3日が経過した。
夕食時である。喜一は例によって友人と飲みに出かけており、研究所内には鏑木と高槻しかいない。
二人は食堂で、鏑木が調理したミートソーススパゲッティを食べている。

 

「けぷ…ごちそう様でした」
5皿目を平らげた高槻がぺこりとお辞儀をし、手を合わせた。口元にはソースで汚れている。
「よく食べるよなぁ」
「そう? それほど食べていないと思うんだけどねぇ」
ナプキンで口元をふきながら、彼女はまるで他人事のようにげっぷまじりの声を出した。
「ダイエットはしているのか? 最近お前が運動しているところを見たことがないんだが」
「そ、それは…」高槻は少し言いよどんだ後、
「なんだか体が重くて運動する気にならないんだよ。明日から絶対に始めるから!」ときっぱりと言った。
「その台詞、昨日も聞いたぞ」
「そ、それに一昨日から体重の増加もないし…」
呆れた表情で高槻を見る鏑木。彼女は口をへの字にしつつも、少し恥ずかしそうである。
「(心なしか、高槻が段々だらしない性格になってきているような…?)」
鏑木は心の中で高槻の内面に生じている変化を危惧していた。

 

事実、自律的だった高槻の性格は肥育薬を服用したことで徐々に変化してきている。
元来、自らの欲望をうまくコントロールできていた彼女だったが、肥育薬がもたらす爆発的な食欲増進効果によって、食欲に対する彼女の自制のタガが外れてきていた。
食べても食べても食欲が収まらず、その異常とも言える食欲を我慢することができていない。

 

しかも、彼女自身は自分が大食漢になったことを自覚していない。
「(以前より食べる量が少し多くなったかな)」と感じている程度である。
加えて、大食に順応して胃袋も大きくなってきているので、
一層満腹感を感じにくい体になっていた。
鏑木は気づいていないが、これも彼が開発した肥育薬の作用である。

 

しかし、高槻の体には確実にカロリーが蓄積されていた。
暴飲暴食で溜まった何千というカロリーである。
ある閾値を超えると一気にその莫大なカロリーが脂肪となって彼女の体に身に付くのだ。
今回の食事でその閾値を満たしてしまった。

 

「あ…き、来たぁっ!?」高槻が突然むずがゆそうに股をこすり合わせた。
「来た、って何が?」
「あ、あの、肥満化の感じが…あ」
言い終わらない内に、彼女のお腹がむちむちとせり出してきた。
と、同時に胸やお尻、二の腕、ふくらはぎにもみちみちと太くなっていく。
その間、鏑木はどうすることもできなかった。高槻の体の急激な変化に圧倒されていたのだ。
「あっ、はぁっ!?…んん、ん…やだぁ…!?」
最後に大きく息をついて、彼女の肥満化は終わった。

 

高槻沙良

 

高槻は目の端に涙をためている。
前回と同様に、突然襲い掛かる肥満化は精神的な刺激が大きいのだ。
前の体型が軽トラだとすれば、今の体はダンプカーだろう。
見ているだけでも重量感のある体。そのシルエットは、一言でいえば「丸い」。
胸はさらに大きくなり、Gカップは超えている。その谷間は電話帳を挟めるほど深い。
が、肉のつきすぎで形が少し崩れている。
しかし、その巨大な胸を支えているお腹に比べると胸の脂肪など少ないと言えるだろう。

 

お腹が今回の肥満化で一番大きく成長した部位だった。
下腹にふんだんに脂肪が付き、ズボンの上に肉厚の脂肪が載っている。
高槻が呼吸をするたびに大きなお腹が膨らんで、
はみ出た贅肉が、ぷる、ぷる、と上下にわずかに弾む。
まるで肌色の餅のようだった。
さらに下半身に目をやると、巨木のような太ももが重量が増した上半身を支えている。
足を少し開いて立っているはずなのに、高槻が身をよじると両太ももがこすれる。
その仕草を見て、鏑木は不覚にも下半身が熱くなってしまった。

 

80kgは確実に超えている。彼女の身長を考慮すると重度の肥満に分類されるだろう。
二重あごができつつあるが、幸いにも顔にはそれほど肉はついておらず、
以前のかわいらしさは残っている。
かえってそれが力士のような体と不釣合いだ。

 

「あああ…いっぱい太っちゃった。こんな体、カッコ悪いよ…」
頬を真っ赤に染める高槻。その目に浮かんだ涙を鏑木は拭った。
「じゃあ、明日からダイエット、頑張ろうぜ。デブは嫌なんだろ」
「デブは嫌…だけど…」

 

高槻は押し黙った。
もちろん、今の醜いデブのままでいるのは嫌だ。少しでも早くこの状態から脱却したい。
しかし、彼女の心には全く別の考えもあった。
彼女は今のふくよかな体に妙な愛着を抱いてしまっていた。
それは、教師が優等生よりも問題児の面倒をついつい見てしまうような心情に近かった。

 

また、彼女自身今まで自律的な生活をしてきたため、駄目になることへの憧憬の気持ちがある。
どんどん女の子として堕落してきている今の状態は、崖から身を投げ、落ちていくような心地よさがあった。

 

高槻は逡巡する。
(デブも、悪くないかも…)
自分のお腹の脂肪を揉む。柔らかい感触とともに体温が伝わってくる。
(ちょっとくらい太ってたほうが…かわいい?)
そして、ここ数日の食生活を振り返る。
(食べたいだけ食べてきた。けど…不思議と後悔はしていないかな。
1か月後には痩身薬で痩せられるという安心感があるからかもしれないけど…)

 

「おい、どうした? 考え込んで」
鏑木の声に高槻は我に返った。
「えっ!? な、なんでもない。今日は疲れたからもう寝るね」
そう言い残して、どすどすと足音を鳴らしながら、高槻は自分の寝室に逃げた。

 

 

次の日の朝。
一晩中、友人宅で酒を飲み明かしていた喜一は、早朝に研究所に戻ってきた後、
痩身薬の開発に必要な資料を探すため、書庫の扉を開けた。
そこで、彼が見つけたのは、がりがりにやせ細って床に倒れていた宇津木の姿だった。

 

「な、何か…た、食べ物を下さ…い…」
か細い声で助けを求める彼女の様子を見て、このままでは命の危険があると判断した喜一は
急いで彼女を食堂に運び込み、食事を振舞った。

 

「美味しい…3日ぶりの食事です…」
涙ぐみながら口に箸を運ぶ宇津木。ほどよく落ち着いたところで、喜一は彼女に尋ねた。
「で、あんたはワシの書庫で何をしていたんじゃ?」
「え、えっと…」
元来弱気な性格の宇津木は、喜一険しい表情にひるんでしまい、研究成果を盗むために研究所に侵入したことを話した。その背後には巨大な犯罪組織がいること、任務を成功させないと自分は殺されてしまうことも洗いざらい吐露した。

 

「申し訳ありませんでしたぁ!」
「全く、仕方がないのう」
涙ぐんで俯く宇津木を見て、喜一は白髪を掻いた。
目の前で小さく縮こまっている少女は、研究成果を盗もうとした窃盗犯だが、
どこか憎めない可愛さがある。
「見たところ、嬢ちゃんは犯罪者には向いてないのう。そんな組織、すぐに辞めることじゃな」
「で、でも、組織を抜けようとすると、組織が放った刺客に殺されちゃうし…。」
「刺客?」
「女性なんですけど、凄腕の殺し屋なんです。昔は戦地で傭兵をしていたとか」
「ふむ」
喜一は自慢の白い髭をいじくりながらしばし考え込んだ。
「嬢ちゃん、あんたの組織と連絡を取ってくれるかい?」
「え、ええ、取れますけど…どうするつもりですか?」
「嬢ちゃんを組織の魔の手から助けるんじゃよ」
「はあ…」
喜一に促されるまま、宇津木は携帯電話を取り出し、とある電話番号を押した。

 

「あ、あの、宇津木ですけど…」
彼女が話し始めた途端、喜一は彼女の携帯電話を奪って代わりに話し始めた。
「あー、あんたのところの宇津木っちゅう若い嬢ちゃん、組織を脱退したいらしいぞ。鏑木喜一の研究所にいるから」
電話相手が何か言うまえに、喜一は電話を切った。

 

「な、な、何てことを言うんですか!」
「落ち着け。ワシはあんたに足を洗ってもらいんだ。嬢ちゃんにはもっといい生き方がある」
「で、でも、これで私は組織から狙われる羽目に…。殺されるぅ…うぐっ」
「その刺客を撃退すれば、追っ手はいなくなって、嬢ちゃんは自由の身になれるじゃろ?」
「でも、相手はプロの暗殺者ですよ。敵うわけはありません」
「そいつを撃退する良い作戦があるんじゃよ。ちょうど、肥育薬を作ることができる孫もいるからの」
「?」
含み笑いをする喜一のそばで、宇津木はきょとんと首を傾げていた。

 

 

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