塵屑蟲

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3、
***

 

翌日、私は学校に行った。
とても授業を聞いたりできそうな気分じゃ無かったけれど、休んでも解決しそうにない。
病院に行くわけにもいかない。
「うぇ…きもちわるい…」
昨日の夜、もの凄くたくさん食べたから、朝から胸焼けがする。
かと言って、朝食を抜くとお腹の中の蟲の餌が無くなるかもしれない。
そうなれば、私は死ぬ。体の中から食い殺される。
だから、今日は朝から食パンを何枚か詰め込んできた。
胸焼けに加えて、お腹が張っているからさらに気持ち悪い。
教室に着いて自分の席に着いた後は、ずっとお腹を押さえて突っ伏していた。

 

 

しばらくそうしていて、そういえば今日は友達が誰も話しかけてこない事に気付く。
普段親しく話をする子は数人ほどだけれど、皆揃って遅刻したり休んだりするだろうか。
そう思って顔を上げると、目の前に“あいつ”が立っていた。
「…おはよう。」
栗色の髪の毛のクラスメートは、そう言ってにっこりと微笑む。
「な…!?」
「大丈夫…?顔色…悪いよ…?」
こいつは何を言っているんだろう。私の顔色が悪い原因はお前なのに。
「大丈夫…?顔色…悪いよ…?」
まったく表情を変えず、同じことを言うゴミ子。まるで人形みたいだった。
気持ち悪いというより、何か恐怖を感じる。
「何言ってるの…!あ、あんたのせいで…」
「…大丈夫…?顔色…悪いよ…?」
私の言葉を無視するように同じ事をくりかえすゴミ子。
「今日、保健委員の人、休みなの。だから、クラス代表の私が、保健室に、つれて、行くね?」
不自然にゆっくりそう言うと、ゴミ子は私の手を取って、私を支えるように立たせた。

「…昨日は、しななかったのね…」
「!?」
耳元でゴミ子が小さく呟いた。私は驚きで声が出なかった。
「誰もいない所で話そう…?ここだと、バレちゃうよ?みんなに…」
確かに、ここで昨日の事を騒ぐとクラス中に今の私の状態がバレる。それは嫌だ。
私は言われるままに体を支えられたまま、教室を後にした。

 

***

 

「…どういうつもり?」
校舎の裏、人気のない物置の所で、私は目の前のクラスメートに言った。
「なあに?」
「なあに、じゃないでしょ…!?だって、あなた昨日…!!」
「私からの贈り物…よろこんで、もらえたー…?感想が、聞きたかった…のー。」
虚ろな目でクスクス笑うゴミ子。やっぱり、薄気味悪い。いつもの事だけれど。
「喜んでない…!!どうすればこの蟲が取り出せるのか教えなさい!」
私はゴミ子の肩を掴んで揺すりながら聞いた。
「…しらない」
「知らないとか言ってんじゃ無い…!!」
「…本当に、しらないもの。」
けらけらけら、という乾いた笑いがゴミ子の口から漏れる。
「だって、取り出す必要、ないもの。調べて無いよ。」
「…っ!!!」
私は思わず目の前の顔に平手を食らわした。ぱあん、という高い音が響く。
「…いいもの…痛くても…いいもの…。」

叩かれたままの姿勢で、小さな声で呟くゴミ子。
「もう、私が殺されようが……えへへ…しのうが……へへ…えへ…良いの…
 もう、これでいいんだもの…」
「どういう事なの…!」
私の声に、ゴミ子は首をぐるん、と動かして私の顔を見た。
「あなた達が苦しめば、それでいいの。」
「は…あ…!?」
何言ってるのこいつ。
「私は、もういいの…。気が済むなら、殺して、いいよ…?あなたが、私を。
 いじめて、いいよ?なぐって、いいよ?けっても、いいよ?いいよ…?
 いいの…、あなた達の人生が、台無しになればいいんだもの…え…へへへ…
 私は、どうなっても、いいの。」
無表情で薄気味悪い笑い声を出しながら、訳のわからない事を言っている。
「あ、あなた何言って…」
「もう、あなたの、あなた達の人生は…普通のものじゃ、無い…。えへへ…やったー。
 あなたの人生、だいなしだー。みんな、みんな、だいなしだー…」

「あ、あの…」
「だいなしだー…だいなしだー…」

 

それからゴミ子は私の前で、虚空を見つめながら「だいなしだー」を繰り返し続けた。
一時間目の始まりのチャイムが鳴るまで、ずっと…

 

***

 

一日中、私は心ここに在らずだった。
とにかく、いつお腹の中の蟲の餌が無くなるか、怖くて仕方ない。
私にこの蟲を飲ませた張本人も、何を聞いても乾いた笑いを漏らすばかりだった。
というか、なんだか今日は彼女の雰囲気が尋常じゃない。
何処を見ているかわからないというか、魂が抜けてる感じに無表情で、
しかも時々体を左右に揺らしている。二度と話し掛けたくない雰囲気だ。
それは皆も同じな様で、ゴミ子は今日一日、ずっとクラス中から無視されていた。

 

お昼休み、私は学生食堂でお昼を食べた。いつもは友達と食べるけれど、
今日はそんな気分になれない。というか、それは困る。
「…やっぱり…多いかな…」
私の目の前には、今日のお昼のカレー。2皿目。
学食のカレーを2皿も食べる所を、友達に見られる訳にはいかない。
確かに、別に友達と食べなくても、ここは学食だからかなり人目はある。
でも、ちょっと時間をおいて2皿目を買ってくれば遠目からは解らないハズ。
一応、カウンターのおばさんには「友達の分」と言っておいたし。
「私」
「ん…(もぐ…もぐ…)」
昨日からの暴飲暴食もあって、今かなりキツい。
実は1皿目から胸がつかえて厳しかった。お腹の中に鉛でも入っている感じだ。
「う…(もぐ…)ぶ…ふ…(もぐ…)」
でも、食べない訳にはいかない。いつでも胃の中を満たしておかないと。
今の私はもしかすると、「小腹がすいた」程度でもお腹の中の蟲に食い殺されるかもしれないのだ。

食べすぎで頭がガンガンするけれど、死ぬよりはマシ。
それよりも、早くこの蟲を誰にもバレないうちに体の外に出さないと。

 

***

 

 

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