651氏その1

651氏その1

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そして1時間後。
アニスはサクラに連れられてとあるビルの半地下にある店舗にいた。
「な、なんだ。この格好は…!?」
「よく似合ってますよ」
「こんな…こんな恥ずかしい服を着るなんて聞いてないぞ!」

 

アニスはサクラと色違いのメイド服を着せられていた。
胸元は大きく開いており、脂肪太りの胸の谷間が見える。
無理やり履かされたニーソックスが太ももに食い込んで、痛い。
袖口や胸元に盛り付けられたフリルが気恥ずかしさをより一層際立たせている。

 

「どんな店なんだ、ここは!?」
「とある性癖を持った方専用の風俗店ですよ」
「ふーぞくてん?」
「はい。簡単に言うと太った娘が好きな男性専用のキャバクラです」
「ふ、とった…だと…」
「極めてマイナーなジャンルなので競合相手がいなくて大変繁盛してますよ〜」
「そ、そ…」
「そ?」
「そんなド変態な客の相手なぞしてられるか!」
「ああ、待って下さ〜い! あなたの立派な肥満体を見込んでスカウトしたのに」
「ぐるじい…手を離せ!」
「従業員が二人だけしかいないんです! あなたに逃げられると困るんですよぉ〜!」

 

数分もみ合った後、サクラは息を切らせてアニスに言った。
「わ、分かりました。日給を弾みますから!」
サクラが提示した金額は一般的なサラリーマンの給料と比べて破格だった。

 

「本当にそれだけくれるのか?」
「はい。あなたは太っている割には肌ツヤもよくて美人です。それだけのお金を払う価値はあります」
「しかし…」

 

この仕事を断れば他に仕事があるのか。
一円も稼げずにのこのこと家に戻り、あいつ(アニスを召喚した若い男)に許しを請うことだけは嫌だ。
あれだけ激しく口喧嘩した手前、魔王としてのプライドが許さない。

 

「わ、分かった。不本意だが…というか、凄く嫌なのだが…働こう」
アニスは渋々頭を縦に振った。

 

そして。
アニスは大勢の観衆が見つめる中、スポットライトを浴びてステージの上に立っていた。
「お、おい。サクラ、これはどういうことだ?」
「この店名物のステージショーですけど?」
「座ってお客の接待をするだけだったはずじゃ…!?」
「まあまあ、固いことは気にしないで〜」

 

サクラはマイクを取り、壇下の客に語り掛けた。
「みなさん、私の店に来てくれてありがと〜う!」
歓声が室内に響き渡る。

 

「今日は新しい娘を紹介しま〜す!」
「あ…アニスだ。みにゃ…皆の者、私をみられりゅことを光栄に思うがよい」

 

思いっきり噛んでしまった。アニスの頬が引き攣った。
しかし、観衆にはむしろ好評だったようで「きつそうな見た目だけど意外と可愛い娘じゃないか」
「ドジっ子だな」と声が漏れ聞こえてきた。

 

「アニスちゃんは初めてだから慣れていないけど、皆さん温かく見守ってくださいね」
「(魔王である私がなぜこんな辱めを受けねばならんのだ…)」
「それでは早速参りましょう! モミジちゃん、例のもの持ってきて〜」

 

サクラが手招きすると、店の奥からブクブクに太った女性が出てきた。
バニー服を着たボンレスハムが歩いているようだ。
だらしなく垂れ下がった贅肉が服からはみ出ている。

 

「も、もってきまひた…ぜぇ…ぶぅ…」
女性は白濁液が入った巨大なガラス瓶(5Lはあるだろう)を台車に載せて運んでいる。
ガラス瓶の表面には「高濃縮栄養剤」と書かれており、長いホースが接続されている。

 

「お待たせしました! 当店名物のアレで〜す」
装置に接続されたチューブを手にしてサクラは笑みを浮かべた。

 

観客のボルテージが上がっていく。

 

「…すごく嫌な予感がする…」
「アニスちゃんはモミジちゃんと違って綺麗に太れるでしょう」
「ふ、太れるって…まさか」
「元アイドルのモミジちゃんはこの栄養剤を飲まされて体重が40kgから200kgに激増してしまいました。アニスちゃんはどうなるかな〜?」
「ま、待て! 何をす…ングモゴ」
「ごめんなひゃい、アニスさん」
「モミジちゃん、グッジョブよ〜。それでは、やっちゃってくださ〜い」

 

アニスは目の端に涙を浮かべながら首を横に振ったが、口に突っ込まれたホースから容赦なく栄養剤が注ぎ込まれた。

 

容赦なく栄養剤が胃袋に流し込まれるにしたがって、アニスの腹はせり出してきて。
肺を圧迫する膨満感に耐えながら自らの体を見ると、腹だけがまるで風船のように膨らんでいて。
ついにはスカートのボタンが弾け飛び、観客席まで飛んで行ってしまった。

 

ホースが取り外され、アニスは一息つくことができた。
たぷたぷと音がする腹を両手で持ち抱えて罵声を上げようとするも、栄養剤が喉の奥までこみ上げてきたため口を開くこともできず。
ただサクラを睨むことしかできなかった。

 

しかしそれもつかの間。
体中に掻痒感を覚え、アニスは再び自らの体を振り返る。
最初はゆっくりと、そして次第にその速度を増しながら全身に贅肉がついていく。

 

胸に。腰に。足に。
柔らかそうな脂肪が段をつくり、しかし張りを保ちながらアニスの体を変化させていく。

 

脂肪で大きさを増していた巨乳は、追加の脂肪がついたことで1mを超す肉塊に成長し。
栄養剤で膨らんでいた腹には分厚い皮下脂肪がついて、一般的な成人女性二人分のウエストに匹敵するほどの腰回りになって。
お尻は縦横に大きく肥大した脂肪の塊と化しており。
太ももやふくらはぎのボリュームはさらに増して、でっぷりと膨らんで。

 

辛うじて冷徹さを保っていた顔はパンパンに膨れ上がり、もはや魔王の威厳もなく。
栄養剤の副作用でちょこんと上を向いた鼻には愛くるしささえ感じられて。

 

腹を中心として太ったせいで丸っこい壺のような体型に変わり果ててしまったアニス。
その姿には滑稽ですらあった。

 

「こ、こんな…」
歩き出そうとするも重心を崩し、前のめりに倒れて。
けれど、巨大な腹肉がクッションになって、ボヨンボヨンと弾むだけ。

 

それを見た観衆が歓喜と失笑を投げつける。
「ち、違う…違う…」
口から漏れ出る言葉は喉についた肉に押されて低く潰れていて。
醜く変わり果てた姿を大衆に晒されている現実に直面し、アニスは涙を堪えることしかできなかった。

 

「よくも私にこんな屈辱を…」
呪詛の言葉を吐き、立ち上がろうとする。

 

しかし、膨らんだ腹が邪魔で満足に上体を起こすこともできず。
再び前のめりに倒れたアニスに容赦のない嘲笑が投げつけられた。

 

「さ〜て、今のアニスちゃんの体重はどのくらいかしらね」
倒れているアニスをサクラが体重計の上まで転がしていく。
「あらあら、198kg。随分太ったわね〜」
実に100kg近い増加である。

 

「モミジちゃんと同じくらいね」
「ふざけるな! この私があんな肉のお化けと一緒だと!」
口角泡を飛ばしアニスはモミジを指差した。モミジは少し悲しそうだった。

 

「うふふ、今の自分の姿を自覚していないようね〜。だから私に出し抜かれるんですよ、魔王さん」
「な、なぜ私が魔王だと知っているのだ!?」

 

戸惑うアニスにサクラは顔を近づけて囁いた。
「本っ当に鈍感ですね。過去に見捨てた自分の部下さえ覚えていないなんて」

 

サクラの姿が歪んで溶けていく。
膨れていた体はするすると萎み。
瞳の色は燃えるような緋色に変わっていき。

 

サクラがいた場所に立っていたのはスレンダーな若い女(アニスは知る由もないが魔王を召喚する本を売った骨董品屋の女店主)だった。

 

「お前だったのか。魔王軍の元近衛隊長ティナ・ルーク!」
「やっと気づきましたか。罪を負われてあなたに地上に追放されてから随分苦労しましたよ」
「宝物庫の金貨を着服していたからだ。自業自得だろ」
「自分勝手な魔王の尻拭いに対する我慢料としては、近衛隊長のお給料だけでは全然足りなかったんですよ」
「貴様…」

 

「魔界を追われてから苦節十年、来る日も来る日もあなたに復讐することだけを考えていました。そしてやっとこの日が来た。
魔力も十分溜まり魔法も使えるようになりました」
観衆はいつの間にか消えていた。魔法で創り出された幻影であった。

 

「しかし、どうやらあなたは自分を慕っていた者にさえ罵声を浴びせるのですね。ほらあそこにいるのは…」
ティナはモミジを指差した。
「あなたの付き人だった下級悪魔のハンナですよ」
「は、ハンナ。お前はあの『ちびっこハンナ』だったのか!? 急に失踪して心配していたのだぞ!」

 

「ひ、ひどいです。私、好きでこんな姿になったんじゃないのに『肉のお化け』だなんて…グスッ」
「ち、違うんだ。お前だと分かっていたら!」
「追放されるときに魔界から攫ってきたんですがね。今は私の魔法で姿を変え、自己主張できない奴隷として働いてもらってますが」
「この…外道が!」

 

睨みつけるアニスに向けてティナは冷やかな笑みを返した。
「あらあら、魔王に外道呼ばわりされるとは光栄ですね。でも、あなたが魔王の椅子にふんぞり返っているのは今日でおしまい。これからは私の奴隷にジョブチェンジしてもらいましょう」

 

ティナが呪文を詠唱するとアニスの周りに魔方陣が展開された。
「そうですね。取りあえず本物の豚さんになってもらいましょうか?」
「何を言って…ぶひっ!? …ふごっ…な、なんだこれは!?」

 

顔の中央部に違和感を感じアニスが鼻を触ると、立派な豚の鼻がついていた。
ティナは嗜虐に満ちた表情でアニスの鼻をなぞる。

 

「ぶひぃ…も、元にもど…ぶふぅ、んごっ…ぴぎぃぃ!?」
「なかなかお似合いの姿ですよ。これであなたは人語を喋ることはできない。誰の助けも呼べない。さて…」
ティナがアニスに手を伸ばす。
「もっともっと太ってもらいましょうか。かわいい私のペットさん」
眼の端に涙を溜めながら、最後にアニスが思い浮かべたのは彼女を召喚した男の顔だった。

 

 

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