英雄サーシャと不思議な薬

英雄サーシャと不思議な薬

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狩りに出かけたその日の晩にも、いつもと同じようにこれでもかというほどのご馳走がサーシャに振る舞われた。晩のことを考えて狩場での昼食の量は少なめにしておいた。それでも、相変わらずの大盤振る舞いを前にしては、昼食の量を減らすなどということは小手先の技でしかなかった。

 

こう毎日続くとごちそうのありがたみも薄れるものだな、とサーシャは晩餐の席に座りながら思った。最初の頃は食べたことのない趣向を凝らした料理の数々に、舌鼓を打ったものだ。しかし今は食べ物を臓腑に落とし込むための作業と化していた。

 

味がわからなくなったというわけではない。サイゼンの方でもサーシャが飽きないように気を使って、毎晩違う料理を出して調理方法を変え、異国のスパイスを使い辺境でしか取れない珍味などを食卓にあげた。サーシャはそれを十分すぎるほどに堪能した。

 

問題はサイゼンの心配りや料理の味ではない。そのことは、当のサーシャはいうにおよばず誰もがわかっていた。やはり、なんといっても食事の量が多すぎる。サーシャは城へ入ったばかりの頃よりは、たくさんの食べ物を胃に詰め込めるようになった。それでもまだ多い。国賓級の者をもてなす際には、国が総力を挙げて接待をしなくてはならない。それは同時に国力の評価につながる。

 

城というのは閉鎖的な空間のようで、実情はそうともいえるし、そうでないともいえる。とどのつまり、その土地を収める領主の気性によって決まることがほとんどだ。町の活気は領主が善政を敷いている証である。サイゼン国は経済的な困窮の最中にあっても、賊が発生したり窃盗などの事件が起こらない。サイゼン国民は王に対して全幅の信頼を抱いており、一丸となって国の復興に尽力しているのだ。

 

国民の中から野盗へと身を落とす者がいなくても、他国からそういった脅威が舞い込む可能性もある。しかしそれが起こらないのだから、長年、魔物とも戦い精強であるサイゼン国の武威が周辺国へと知れ渡っているとわかる。国民は今日もせっせと働いており、労働の成果である食物がサーシャの目の前に並んでいるのだ。

 

サーシャはそれをよく心得ており、領民思いの彼女はそんな思いもあって食べ物を残すという失礼なことは決してしない性格だった。今日も今日とて、モリモリ食べる。趣向を凝らした料理の一皿一皿に、平民の労働や料理人の思考錯誤があったことを考えると、残すわけにはいかなかった。

 

しかし、サーシャにもその中で唯一苦手なものがあった。サイゼン国で主食として食べられている花の実である。あれには初日から恥ずかしい目にあわされたし、今もなお、毎日のように変わらずサーシャを苦しめているのである。

 

いくら食が以前より太くなったとはいえ、元々小食である彼女が苦しいことには変わりない。その上、あのガスを発生させる実を食べれば、その膨張感は尋常ではない。サーシャの体はコロッとした丸体に腕や脚、顔などが付いた形になっている。真ん丸だったお腹灰の中で発生したガスによりさらに膨らんだ。ここまでくれば、大きさなどあまり気にならないようにも思えるが、サーシャの腹はゆっくりと着実に膨らんでいった。表面にマシュマロのような柔らかさをまとわせてこそいるものの、彼女の腹部はパンパンに張りつめてもし指でつつけば、外柔らかく中堅いといった具合になっただろう。

 

腹が膨らんできてからは、食事中でも終始苦しそうに堅めのマシュマロを擦っていた。晩餐が終わるとサーシャは侍女数名に付き添われながら、自身の寝室へと向かった。道中、うんうんと呻きながら大きく膨らんだ腹のために背は反り返って、自分は重くなった下腹部を、侍女たちが反り返った背を支えつつ、寝室へと歩いて行った。

 

侍女たちに支えられながらよたよたと部屋に向かうサーシャ。彼女はここに来る以前よりも大分鈍重になった足を板の上にかけた。すると板はバッキリと音をたてて足を乗せたところを中心に、足よりも大きく不揃いな形をした穴が開いた。後ろに反りながら歩いていたサーシャの足は、勢いよく板を踏み抜き下の階の天井に顔を出した。

 

彼女の太い足が穴へと消えてゆくにしたがい、もちもちとした尻が板を直撃した。するとパキャンと小気味よい高い音を立てて、板は今度こそ真っ二つに折れた。板の破片は床に散らばるか、下の階へと落ちていった。サーシャはというと、幸いなことに下へ真っ逆さまに落ちてぐちゃぐちゃになるとか、地響きを立てるとか、そんな事態にはならなかった。

 

サーシャは思わず「ぐうっ!」と張りつめた声を上げ、口がほとんど開いていなかったため、その声は口内で響いた。

 

彼女は回廊に空いた穴にスッポリとはまってしまった。開いた穴はサーシャの腰回りが通り抜けられるような大きさはしていなかったのだが、勢いのついた彼女の体はグンッと下に下がっていき、スープに浸したパンのようだった尻はグニュッと形を変えて、床の下に滑り込むように消えてしまったのだ。

 

下から抱え込むように持ち上げていたパンパンの腹と、たっぷりの肉が付いた背がつっかえとなり、どうにか階下へと落ちずに済んだ。しかしよい事ばかりでもない。そもそも床が抜け落ちたというのが不幸であるし、さきほどまで腹いっぱいに食べ物を詰め込んでいた腹部にさらなるすさまじい圧迫感が押し寄せた。

 

サーシャは目を白黒させながらその圧迫感と戦っている。足が床を貫いた瞬間、そのまま落ちると思ったのだろう。腹を抱えていた両手を離してできる限り横に伸ばした。しかし、伸ばしきっても真ん丸のままになっている腕の出番は来なかった。宙に浮くような浮遊感を味わった後に訪れた感覚は、文字通り床にたたきつけられたような衝撃だった。

 

背肉によりいくらか軽減されはしたものの、その衝撃はほとんどサーシャの腹部に直撃した。上を向いていた彼女の腹は、ガスやら贅肉やら食べたものやらでパンパンになっていたにも関わらず、無慈悲にも彼女の全体重という多大なる負荷を背負わされることになった。

 

手持無沙汰だった腕を床に伸ばそうとしても、脇に着いた肉が邪魔をしてまともに力がかけられない。足をじたばたさせるが虚しく空を切るばかり。そればかりか下半身を動かすたびに下腹部に余計な負荷がかかり、自分で自分をなお一層苦しめる結果となった。

 

息もまともに吸うことが困難なのか「こひゅぅ」だとか「はひぃ」だとか、口を開けば力なく空気を漏らすように声を出す。

 

あんなにパンと張りつめていた腹部も負荷に負けたのか、形を折り曲げて無理矢理に段をつくっている。サーシャも我慢の限界だった。

 

「(も、もうだめ・・・)ぐえーーーーっぷ!!」

 

回廊にとてつもなく大きな、それでいて勢いのある低音がこだました。サーシャはこれを初日からずっと我慢していた。初めて晩餐に招かれたあの日、不覚にも卓にて粗相を仕出かしてしまい、それをずっと気にしていたのだ。

 

しかもよりによってこんな体なのだ。ただでさえ日常生活に支障をきたし、稽古もろくに付き合えない。情けないやら恥ずかしいやら、何より一人の女性としてのプライドが許さなかった。加えて、そばにいるのが同じ女性である侍女たちなのだから、なおさら恥ずかしい。女性だから立場を理解してくれる。サーシャは今までもよく彼女たちと交流を持ち、悩みや相談を受けたり逆に聞いてもらったりしていた。そのように理解してくれる優しさこそが、サーシャの顔をより一層赤く染めた。いっそのこと、何の交流も持たないその場限りの赤の他人であれば、どれだけ気が楽だったことか、とサーシャは混乱している頭で考えた。

 

「お、お怪我はありませんか!すぐにお助けいたします!」

 

一連の惨事を目の当たりにしていた侍女たちは、たった今響いた重低音を耳にしなかったように、そして血相を変えてサーシャに近寄り救出活動を行った。しかし事態は侍女の6人や7人でどうにかできるレベルをはるかに超えていた。

 

まともに引っ張り上げるには相当な人手が、もしくは重機の類が必要なようであった。サーシャとしては一刻も早く、このどんな修行よりも苦しく、屈辱的な状況から抜け出したいと思っていた。結局、救出劇は城内の者や町の職人なども巻き込み、その日の夜遅くまでかかった。サーシャの足元まで届く高くて広い足場を作り、騎士たちが彼女の足を持ち上げるようにぐいぐいと上に突く。

 

しかし上では腹がつかえているように、下では尻がドンとつかえており、足を持ち上げただけでどうこうできるものではなかった。城に建築資材はほとんどなく、急ごしらえで足場を作った。サーシャの気力も限界に近づいていた(後に本人から当時のことを聞くと、「あのようなあられもない姿を人前にさらしてしまったことは一生の不覚。恥ずかしさで気がどうにかなりそうだった。」というのである)。足場の心配もあり迅速な対応が求められた。重機の到着など待ってはいられない。

 

もはや自分の体勢では支えられなくなった腹部を侍女に抑えてもらうことにより、いくらか負担は軽減した。下の作業場は足場が不安定でこちらに回せる資材もない。足を持っても意味がないと考えた救助隊は、サーシャの尻を直接押し上げることを提案した。作戦を説明すると、これ以上迷惑をかけるわけにはいかないからと、サーシャの許可が下りた。

 

他人に体を触られるのは、こんな体になる前から風呂ではよく侍女に洗ってもらっていたため、慣れているし大丈夫だろうと思った。しかし幾分、状況が特殊すぎる。状況を聞く限り、下の階にはとんでもない数の人が騎士、平民問わず集まっていて、自分の丸尻を物珍しげに見上げているのだろう。そう考えると、それだけで顔から火が出そうだった。

 

作戦を提案したは良いものの、さすがに淑女の尻を騎士が直接触るというのは不作法であるということで、その任だけは侍女が行うこととなった。サーシャの足には手が届くが尻はもう一つ上にあり、侍女の背丈では届きそうもない。何か足場になるものをと思っても、不安定な足場では危険である。そのため、騎士の一人が侍女を腰から持ち上げて、残りの騎士がサーシャの足を抱え、尻が抜けたと同時に上に突きあげる運びとなった。

 

侍女が騎士のごつごつした手を腰に当てられ一瞬びくっとしたが、二人はすぐさま作業に取り掛かった。尻を押し上げようとするが弾力がある割に以外と柔らかく、うまい具合に力がかからない。

 

上の方では下の声も届かず、身構えはしていたもののほとんど奇襲に近い形で尻に触れられたため、サーシャは思わず「ヒャッ」と一声、艶と驚きの入り混じった声を上げた。

 

なかなか思うように尻が動かず、侍女はサーシャの尻肉を揉みしだくように、グニグニとさせながら上へと押し上げる。見えないところで、しかもデリケートな部分を触られるという未知の体験をしたサーシャは気が気ではない。次第に息は荒くなり、いつのまにか苦しさと恥ずかしさの他に気持ち良さという新たな感情が生まれていた。自分の尻に侍女のきめ細やかで小さな手がググッと押し付けられるたびに、えも言われる幸福感と恥辱とを同時に味わうのであった。

 

騎士とのタイミングもばっちりあった侍女が、渾身の力を込めて尻をブニィッと押し上げると、サーシャの腰に着いた二つのお山は背肉を押しのけて、ヌルンとゆっくり上の階に飛び出した。救出は成功した。一同は成し遂げたことによる歓喜の声を上げた。

 

その最後の一撃が効いたようで、感性の声渦巻く下の階の騒ぎをよそに、サーシャはピクピクと痙攣していた。ギュッと押し付けられ、狭すぎる穴を無理やりくぐらされたことにより、その尻肉の圧迫がサーシャに衝撃を与えた。もとより彼女は尾てい骨の辺りが人より弱く、少し何かが触れるだけでも反り返ってしまうようなたちだった。

 

今回の一件で尻に生じた衝撃は、サーシャの顔を火照らせるには十分だった。そんなこととは露知らず、疲労が極限に達したのだと見受けたお付きの侍女たちは、そばで見守っていた騎士たちの力も借りて、今度こそ最後まで彼女を寝室へと運んだ。翌朝、サーシャは改まって城の者と町の者たちに深く礼を述べた。しかしその間にも、昨夜、体を走った衝撃が抜けずに終始腰より下の辺りがむずむずしていた。

 

 

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